第2話 ウバの紅茶の香り~オイルの香りを添えて~
「貴様ら! 何をしている!?」
束の間の休息を終えて指揮車に向かう途中で、エレーナとレイラは自分の班員を発見した。彼女達は空のドラム缶を3分の1にカットし、薪をくべて暖を取り、周りを囲むように木箱を置いてその上に座っていた。
その行為自体はよくある光景であったが、問題は燃やしているものと、飲んでいる物だった。
「何だ!? この臭いは!! そしてその黒煙!! 今は演習中だぞ!!」
「隊長~いいじゃないですか。今私達は非番じゃないれすか~」
泥酔しながらそう答える彼女はボリーソヴィチ・アンジェラ・ヴァレーリエヴナ。赤い短髪が特徴的で、背が高く、体格には恵まれている兵士だ。熱くなったのか戦闘服の上着を脱ぎ棄て、オレンジ色のニットのノースリーブだけを着て酒を飲んでいる。上着を腰に巻き、まるでヤンキーだ。
「アンジェラ! 非番でも即応待機中だそ! 何時でも戦闘できるように準備しておけ!」
「うぃ~っす」
「......何だこれは!? エンジンオイルの廃油じゃないか! こんなもの燃やしていたら黒煙が出るのは当たり前だ!!」
「らって生木が燃えなかったんですよ~」
「まったくこいつ等は......」
頭を抱えてため息をつくエレーナに駆け寄り、そっとコップを差し出す少女が一人
「まぁまぁ、隊長! 一杯やってくださいッス!!」
「あぁ、水か。ありがとうキーラ」
コップを差し出した少女はイヴァノヴィチ・キーラ・ゴルジェーエヴナ。背が小さく、アンジェラの着ているノースリーブのようなオレンジ色の髪が鮮やかで、アンジェラの子分のようなイタズラっ子だ。まるで姉のようにアンジェラを慕っている。短髪なのも、そんな彼女に影響されてだろう。
「すんすん...... おい、酒じゃないか! しかもこの臭い、一体何を飲んでるんだ貴様らは......!?」
「"赤い同志からの熱い贈り物"ッス!!」
「......は!? もしかして、これ最近問題になってる"横流し品"か!? なんて物を飲んでるんだ! これは戦闘機のアビオニクス用冷却アルコールだぞ!? 身体に害が出るかもしれないから今すぐ破棄するんだ!!」
「ダメっす!! 勿体ないッス!!」
「身体とどっちが大事だ馬鹿者!!」
「あぁ~!!」
イレーナが焚火に受け取ったコップの中身を投げ込むと、ジュッ! という音と共にボッ! と激しく燃え上がった!!
「ちょっ!! まさかストレートで飲んでいるのか!?」
「コイツは効くッスよ~旦那~!!」
「旦那じゃない!! 全く、アルコール濃度99%だぞ......その内急性アルコール中毒で死ぬぞ貴様ら......」
「大丈夫っす! グレープフルーツで割ってるッス!!」
「......それちゃんと割れてるのか?」
とうとうしゃがみ込んでしまったエレーナ。隊員の不始末は隊長である彼女の責任だ。頭を抱えるのも当然である。
「隊長......お気持ちお察しします」
「ニーナ......お前とレイラだけは真面だな。私を癒してくれないか?」
エレーナを気遣い、そっと支給品のステンレスマグカップでお茶を淹れてくれたのは、クプリヤーノヴィチ・ニーナ・アレクサンドロヴナ。黒髪にきれいな赤い瞳が美しい綺麗な女性だ。前髪をパッツンにしているのが可愛らしい。そして胸がやたらとデカい。彼女はおしとやかな性格も相まってエレーナの癒し役となっていた。
だが意外にもこの三人はよく一緒に飲んでいる。ニーナはどうしてこの輪に馴染んでいるのかは72中隊の謎とされていた。
「すいません、ウバの茶葉しかありませんでした......」
「かまわないさ。ニーナの淹れるお茶は何時も旨いからな。知っているか? ウバの茶葉の主要生産国はスリランカだ。あそこの茶葉は旨いんだぞ?」
「ありがとうございます......」
そう言いながらも、紅茶にスプーンいっぱいにジャムを乗せ、紅茶の中に溶かすエレーナ。それも一杯だけではなく何杯も入れている。
ウバの紅茶はダージリンに近い性質を持っている。香り、コク、苦みが強いがダージリン程ではない。そういった要素が強い紅茶が好きな人にお勧めの茶葉である。
「うーん甘い。そして芳醇な香りとコクのある味わいだ。少々苦いがジャムといいバランスになっている」
「とか言っちゃって、隊長無理しちゃって~。ホントは苦いんでしょ?」
「うるさいぞアンジェラ! お前はいい加減酒を飲むのを止めないか!!」
茶化すアンジェラ。エレーナは雪玉をアンジェラに投げつけると胸部に被弾する。
「あいたぁ!! うぅ私の乳がぁ...... 酷いじゃないれすか! ぶっ掛けるなんて!!」
「言い方を何とかしろ!! まったくこれだから酔っぱらいは......」
「まぁまぁ、落ち着きなさいエレーナ。彼女達は仲間じゃない」
レイラがエレーナの頭を撫でながら横に立つ。この二人だけがこの班の癒しとなっていた。
「だが規律がある。何の為の規律か私はこいつらに叩き込む必要があるようだ」
「ひっ! 勘弁してくださいッス!!」
そう言うと焚火に酒を投げ込むキーラ。すると再びボッ!と激しく燃え上がる。
「......お前なぁ......」
「......テヘペロ」
「......後でV760 15Dミサイルに括り付けて飛ばしてやる」
「えっと......それ何でしたっけ?」
「爆撃機編隊用地対空"核"ミサイルだ」
「かっ......かっ......勘弁してくださいッス!!」
キーラは一目散に逃げだしてしまった。
「あーあ。1班と2班はあんなに真面目なのになぁ...どうして私の3班はこうなのだ」
「いいじゃない、実践では一番落としたのは私達だったじゃない」
「それはそうだが......」
「意外と、優秀......」
「ニーナまで......全く、せめて常識的に考えてくれよ~」
再び頭を抱えるエレーナ。彼女の受難はまだまだ続きそうだ。
――――――――――――――Σ>三二二二>
よくわかるSAM解説! 第二話「レーダーの仕組み①電波とアンテナの関係」
「やあ、諸君。またあったな、解説者のエレーナだ!」
「今日はレーダーの仕組みについて解説する」
「まずは超初歩的なことからだ」
「レーダー波は電波だ。電波とは波である。レーダーは電波を発し、そして物体に当たると跳ね返り、その跳ね返ってきた電波を受信するのがレーダーだ」
「そのレーダー波の波が非常に重要になってくる。一般的に、この波の波長が長いほど減衰しにくく、短い程減衰しやすい」
「身の回りのもので例えると、FMラジオの基地局は広い範囲をカバーしているが、携帯電話の基地局はいたるところにアンテナが立っているだろう? これは電波の波長と振れ幅が関係している」
「FM波は長波といい、波長が長く減衰しにくい為、長距離まで届くが、携帯電話の3Gや4G、5Gは短波なので減衰しやすく、短距離しか届かない。だから沢山の基地局を建てるのだ」
「それにFMは長波で波の間隔が広く、上下の振れ幅が大きい為、障害物を回り込む力も高い。対して4Gや5G等の短波は波の山が近い為、障害物に当たりやすく波の山も低く回り込む力が弱い。この回り込む事を回折と言う」
「では携帯電話の電波も長波にすれば良いのでは無いか? と思うのだが実際はそうはいかない」
「長波は遠くへは飛ぶが、込められる情報量が少ないのだ。音声を送信するには十分であるが、画像等の重いデータを送信するには通信速度が足りないのだ」
「それに反して短波は、込められる情報量が多いので動画等の重いデータでも安定して通信できる」
「この原理は電波の波を伸ばしてやると分かりやすい。伸ばすと同じ長さの線でも、山の間隔を大きく書けば長い紙の面積が必要になる。山の間隔を細かく書けば、必要な紙の面積はぐっと少なくなる。この紙の面積が、通信にかかる時間だ」
「そしてアンテナの大きさは電波の波長によって決まる。FMラジオのアンテナは長く、携帯電話のアンテナは内臓できるほど小さい」
「アンテナの大きさは波の間隔の広さだ。つまり波長によって決まる。波長が長ければ、短いアンテナに当たらない為、受信できないのだ」
「長波を受信するには山の間隔の分だけの長さが必要になるが、電波は上下に振れるので、半分でも受信できる。文章で表すと難しいが、~の真ん中に―を引くとわかりやすい。―が真ん中で上にはみ出した分の幅があれば受信できると言えばわかりやすいか?」
「この波の幅、波長のことをメートル波とかセンチメートル波等と言う。一回波が上下する際に使用する長さが1メートル以上あるのでメートル波、10cm以上1メートル未満なのでデシメートル波、と言った具合だ。~がメートル波だとすると~がデシメートル波である。全角は横幅が広く、半角は横幅が狭い。この横幅が長さだ」
「これによって知覚的に長波なのか短波なのかある程度は判断できるのだ。長いアンテナは長波、短いアンテナは短波だ。しかし、これに限らない事もあるので注意だ。特にパラボラアンテナなんかは通常のアンテナと原理が違うのでこの限りではない」
「ちなみに電子レンジも電波だ。電子レンジのガラスをよく見ると網目になっている。実はこの網目は電波を遮断するためについているのだ。もし遮断しなければ外にいる人間まであたためてしまうからな」
「電子レンジの網目が細かいのは使っている電波の波長が短いからだ。大きい網目では穴から外に飛び出してしまうからな」
「携帯電話でよく聞く周波数は波長のことだ。周波数とは一秒間に何回の波があるのかという単位だ。波長は1つの波で、周波数は距離の中にある波の数で表現する」
「この周波数が高ければ、波長は短く、周波数が低くなれば波長は長くなる」
「当然、周波数が高いほうが、短い時間でより長い線を送れるため通信速度は速くなるが、障害物に当たりやすくなるため減衰しやすくなり、建物の中等は障害物そのものなので電波が入りにくくなる。これには回折力も影響している」
「さてレーダーの話に戻ると、電波の波長が長いほど遠くまで飛行機を探知できるが、位置が正確にはわからない。波長が短ければ位置を正確に探知できるが探知距離は短くなる」
「さらにレーダーの場合立体的に探知する必要があるので、レーダーの幅と角度が重要になる。幅が狭ければ正確に探知できるが、レーダースコープに映る幅が狭くなり探知しにくくなるのだ」
「さて時間も良いころ合いだし続きは次回やるとしよう」
「次回もレーダーの仕組み、レーダー幅と距離の測定方法を説明する」
「それでは、また会おう!」
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