萩市立地球防衛軍★KACその⑨【猫の手を借りた結果編】

暗黒星雲

(=^・・^=) 猫耳と虎獣人

 ここは萩城跡、指月公園である。

 現在、その天守閣跡の広場で、猫獣人コスプレ大会が開催されていた。


「ニャンで俺は女装させられてるのかニャア」

「その方が可愛いからですニャン」


 大柄な黒猫獣人と、三歳児くらいの三毛猫獣人がステージ上で踊っていた。


「あの黒猫。メイクが凄いリアル! ハリウッド映画の特撮みたいよ」

「となりの小っちゃい三毛猫も凄いわ! 素敵よ!」


 黒猫は元々猫獣人。通常は光学仮装オブジェクトを使用し、黒人の青年に姿を変えていたのだ。つまり、今は素顔である。椿の方はというと、ミサキ総司令渾身のメイクを施されていた。半分が人の顔、半分は三毛猫に仕上げてあり、めちゃくちゃ可愛い。


「さて次のペアはサバトラと白猫のペア、キラリア少女隊のお二方です!」


 司会の紹介に合わせてステージ上飛び出て来たのは、ドレスをまとった白猫獣人のハウラ姫と、何故か女装しているサバトラ獣人のイスハークだった。推し活に続いてこちらにも登場したのはつまり、作者が猫の手を借りたという事。


「うわあ。あの白猫、すげえふっくらしてる」

「うん。相撲取りみたいだ。でも、巨乳がブルンブルンって揺れてるのは圧巻だよな」

「あれ、JカップとかKカップじゃね?」

「そんなサイズなんて想像できんわ。しかし、常識はずれの超爆乳って事だけは事実だなあ」


 巨乳趣味のおっぱい星人には人気のようだ。


 次に登場したのは猫耳ではなくピンク色の狐耳と尻尾をつけたコスプレ少女と、黄金色の小柄な猫獣人だった。猫獣人の方は全身もふもふの着ぐるみで、中身は防衛軍隊長のララである。


「何ゆえ私がこんな真似を」

「いいじゃないですか。顔を見せてないんだし。誰も隊長だって気づきませんよ」

「ビアンカ。お前はそれでいいのか?」

「うん。今日は露出多めのレースクイーン衣装だけど、これでイイ男が釣れないかな?」

「諦めろ。まともな男はそんなので釣れたりしない」

「ううう」


 恋人募集中のビアンカは平常運転だった。


 続けて登場したのは、萩校のセーラー服を着ている三人組。金髪碧眼の長門、バストが豊かな悩殺ボディのミサキ、そしておさげで地味っ娘の最上だ。三人とも猫耳と尻尾をつけているだけの簡素なコスプレだ。


「おお。あの金髪JKすげえスリムだ」

「あんな外人娘、萩校にいたっけ?」

「あの巨乳ちゃんいいな」

「うん。さっきのデブよりずっといい」

「俺はおさげの娘。地味だけどそれがいい」

「全身着ぐるみよりも、猫耳だけってのがいいね」

「うん。うん」


 最上のセーラー服が何故か好評だったので、三人揃ってセーラー服にしたらしい。ちなみに、ミサキは高校生だが私立竜王学園に通っているので、本来の制服はブレザーである。長門と最上は高校生どころか人ではないのだが。


 この猫獣人コスプレ大会は、誰が一番かわいい猫獣人であるかを決めるイベントだ。審査員は、表向きは地球防衛軍の司令官でもある萩市長と、抽選で選ばれた萩市民7名が担当している。

 出演者が一通り出そろったところで、萩市長が立ち上がって挨拶をするのだが、市長の眼前に突如、雷が落ちた。


 轟音が鳴り響き、激しい閃光は市長の禿げ頭で更に増幅されて周りの人々の視界を奪った。


 人々の視力が回復したその時、その場には身長が2メートル半もある虎獣人が立っていた。


 黄色と黒の縞模様。

 逞しい四肢と鋭い眼光。

 長く伸びた犬歯と駒爪。


 それらはこの虎獣人が凶悪な戦士である事を物語っていた。その虎獣人が口を開いた。


「オラは裏宇宙から来たトラーダ。最強の猫獣人を決める格闘技大会がここで開催されると聞いてやってきた。さあ、オラと戦え。表と裏、宇宙最強の猫獣人が誰か、決めようじゃないか」


 身長2メートル半のトラーダに向かい、主催者代表の萩市長が毅然とした態度で口を開いた。そのツルピカの頭は、先程の雷光による反射の痕跡で未だ発光していた。


「トラーダ君だね。君は勘違いをしているよ。ここは、最強の猫獣人ではなく最も可愛らしい猫獣人を決めるイベントなのだ。さあ、イベントに参加したければ、君が最も可愛いと思えるようなコスプレをするといい。特別に飛び入り参加を認めようじゃないか」

「ああん。可愛いだと? そんな物はいらねえ!」


 トラーダのパンチが市長の右頬を捉えた。

 軽く殴ったつもりだったのだろうが、市長は数十メートルも吹っ飛び、光る禿げ頭の残像が空中に弧を描いた。


「ふん、ハゲのジジイなんか関係ねえ。さあ、誰がオラと戦うんだ?」


 息まいているトラーダ。それを睨んでいるのはララと黒猫だった。ララは両手を握りしめてゴキゴキと骨を鳴らした。黒猫はスカートの中からレーザー剣を取り出し、光の刃を伸ばした。今にもトラーダに仕掛けようと構えている二人を差し置いて、一歩前に出たのはキラリアのハウラ姫だった。


「ねえ貴方。暴力はおよしになって下さるかしら。ここは平和なイベント会場ですことよ」

「ああん! ん? おまえ……可愛いじゃねえか」


 トラーダは豊満で爆乳のハウラ姫に一目ぼれしたようだ。やや俯いてモジモジし始めた。


「おう。騒がせてすまねえな。そこのお嬢さんの顔を立ててやる。お嬢さん、名前を教えてくれ」

「私はハウラ、キラリアのハウラよ」

「ハウラさん……握手を……お願い……します」

「ええ。よろしくてよ」


 ハウラ姫はトラーダの右手を握った。トラーダは全身を震わせた後、喜びのあまり意識を失い倒れてしまった。


 しかし、会場は大いに盛り上がっていた。


「市長、ぶっ飛んだ」

「ぎゃははは。傑作だな、あの虎獣人」

「結果知りたい。俺の推し、セーラー服の地味娘ちゃんが一位に決まってる」

「俺は小っちゃい三毛猫の娘」


 皆が思い思いの、推しを語り合っていた。

 そんな中、優勝したのは三毛猫獣人にふんした椿だった。


 強靭な大虎獣人が暴れた場合、乱闘や流血騒ぎとなることは必至であったのだが、猫獣人のハウラ姫の手を借りた事で、市長一人がぶっ飛んだだけで済んだ。これが猫の手を借りた結果である。


 ちなみに、大虎獣人のトラーダは無断侵入の罪でプレアデス宇宙刑務所へと収監された。後に彼が脱獄し、ララと壮絶な死闘と繰り広げるのだが、その話は別の機会に譲ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

萩市立地球防衛軍★KACその⑨【猫の手を借りた結果編】 暗黒星雲 @darknebula

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説