緋鞠ちゃんのヒーロー
幽八花あかね
ヒーくん
緋鞠ちゃんは、テレビのヒーロー戦隊が好きです。色は赤が好きです。ヒーローレッドみたいに元から体が赤ければ、ママに熱いお湯をかけられたときにおててが腫れて、腐ったモミジの葉っぱみたいになっちゃうこともありません。
あるいは、ヒーローブルーみたいに元から体が赤ければ、ママになぐられたときに顔に青あざができて、お岩さんみたいなブサイクになっちゃうこともありません。だから緋鞠ちゃんは、生まれ変わったらヒーローレッドかヒーローブルーになりたいです。
でもね、幼稚園のルナちゃんが言うのです。緋鞠ちゃんはかっこよくないし子どもだから、ヒーローにはなれないよって。そう言われると、緋鞠ちゃんはとっても悲しくなりました。幼稚園では我慢しましたが、家に帰るとえーんえーんって泣いちゃいました。ママはまた怪人みたいに怒って、緋鞠ちゃんをクローゼットに閉じ込めました。
暗いクローゼットは嫌いだけれど、痛いことをされるよりはずっとずっとマシなのです。だからやっぱりクローゼットは好きかもしれません。でも、緋鞠ちゃんはママのことが大好きです。緋鞠ちゃんはママが大好きです。
どうしたの? とヒーくんは言いました。緋鞠ちゃんは答えます。あのね、緋鞠ちゃんが悪い子だからね、またママのこと怒らせちゃったのよ。緋鞠なんか生まれてこなきゃよかったってね、ママの口癖なの。緋鞠ちゃんが悲しくなっていると、ヒーくんは、大丈夫だよ。死ねば楽になるからね。って励ましてくれます。
緋鞠ちゃんは日曜日が好きです。テレビでヒーロー戦隊がやる日だからです。でもテレビのヒーローに会えない月火水木金土曜日も、緋鞠ちゃんにはヒーくんがいるからへっちゃらなのです。
緋鞠ちゃんはおバカでどうしようもなくて死ねばいい悪い子ですが、小学校のお受験をしないといけないのでお勉強をします。ママはお受験の準備に忙しくて、すとれすが溜まってしまうから、たまに怪人みたいになってしまうのです。だから、ママは悪くありません。悪いのは、ママのことを怒らせてしまう緋鞠ちゃんなのです。
緋鞠ちゃんはヒーくんがいるから大丈夫です。お風呂のお水に沈められてもへっちゃらです。だってヒーくんが笑っているから、これはいいことなのです。ヒーくんは言います。やっと死ねるね。良かったね。
緋鞠ちゃんには大事なひとがいます。いつも励ましてくれるヒーくんです。緋鞠ちゃんには大好きなひとがいます。いつも愛してくれるママです。緋鞠ちゃんはね、ヒーくんみたいになれるように、ママにいい子だねって言ってもらえるように、ヒーローレッドになりたいのです。
ヒーくんは言いました。
――おつかれさま、緋鞠ちゃん。
緋鞠ちゃんのヒーロー 幽八花あかね @yuyake-akane
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