第5章 夢の先に

え.....



目の前には、夢香が倒れていた。

犯人は逃げた。が、大勢の人に捕まり、現地に着いた警察に逮捕されていた。

状況が飲み込めなかった。

どういう事?なんで夢香が刺されたの?

やっと心の底から私が笑えるようになって、楽しめるようになって、楽しませてくれて。夢香がいたから図書館もこの花火大会も私は楽しめた。なのになんで?



もういい。夢香がこの世にいないなら。



私も死ねばいい。

いっそこの世から消えてなくなればいい。



そう思い花火を見ていた土手から飛び降りようとしたその時、誰かに手を掴まれた。


「死ぬな!」




たけるがいた。

どうしてここに?

いきなり現れたの?

「お前に死なれたら俺が困るんだ!!!」


「夢香がいない世界なんて私にはいらない。」


「お願いだから...早く戻ってきてくれないか...」


意味がわからなかった。何を言ってるの?戻るってどこに?


すると、

...ん?段々視界が暗くなってる。

あれなんだろう。なんで私目を瞑ってるの?


次の瞬間、目の前が真っ暗になり、周りの音も聞こえなくなった。



「...か、....遥!」

あの時の声だ。私が夢を見た時の。あなたの居場所はここじゃないって言ってたあの声だ。

私は無理やり目を開けた。

そこにはなんと、





夢香がいた。


「え!?待って、夢香刺されたんじゃ...」

「そう、私はたしかに死んだ。そして遥も。

死にかけた。」

え、え?どういう事?さっきから何が起こってるの?たけるは?花火大会は?

状況を飲み込めなかった。


「私は三年前、通り魔に刺されて死んだの。遥が子供を守ろうとして、私がそれを守った?みたいなそんな感じ。」


え、三年前?たった今あったことのように感じるのに。何言ってるの?意味がわからない。


「三年前私が刺された後、ショックで遥も土手から飛び降りた。けれど幸いにも遥は一命を取り留めた。でも昏睡状態になった。記憶も失われ、生死をさまよい続けた。」

私は混乱した。

「今までのは何だったの?夢香との図書館に行ったのとか、花火大会とか、たけるのこととか、全部最近のことのように感じるんだけど..」



「今までのは全部遥が見ていた夢。遥が私や遠山くんに抱いていた懐かしいって感情も、三年前既にあっているから。遠山くんは遥と付き合ってて、私は遥と親友だったの。図書館で見た、事故にあった女の子が生死をさまよい続けて色々な夢を見ていく中で少しずつ記憶を取り戻すってお話も、遥のことなの。あの本の続きが無いのは、まだ遥が現実世界に戻っていないから。早く向こうに帰りな。遠山くんも家族も待ってるよ」



そうだ、思い出した。全部思い出した。私はたしかに三年前。自殺をしようとした。通り魔に刺された夢香を追いかけるために。でも奇跡的に助かったんだ。

だけど夢香が死んだことに変わりはないんだ。

すると夢香が言った。

「私は死んでしまった。でも私は遥に生きて欲しい。あの本の続きを自分で作って欲しい。ね、私たち親友なんだし、親友のためにも生きてよ遥!」

なんでそんなに笑顔で言うの。私は無理だよ。親友が居ないなんて辛すぎる。


「街路樹に暖かい風が吹いたら、私がいる証拠だと思って。私はいつまでも遥の心で生き続けるから。じゃあまたいつかね!」








一目が覚めた。一

「奇跡だ.....」

目の前には多くの看護師と医者がいた。

そして連絡をして駆けつけてきたのであろう私の家族もいた。

「遥....ほんとに戻ってきてくれてありがとう」

「遥!!!!よく頑張った!」

お父さんとお母さんが泣きながら私に抱きつく。久しぶりだな、この感覚


「.....遥?」

声がした方を見ると、たけるがいた。

たけるは声にならない声を出しながら私のことを強く抱きしめてくれた。

涙が止まらなかった。


その時、お母さんが口を開いた。

「あなたが飛び降りた時、一番に気付いて救急車を呼んだのたけるくんだったのよ〜」

え?そうだったの?

「たけるくんもたまたまあなた達と同じ花火大会に行っていたみたいでね、通り魔がいるという騒ぎを聞いて駆け寄ったらあなたが飛び降りたみたいで、止めようとした時には遅かったとか言って泣きながら謝りに来たの」


すると、夢香の親が入ってきた。

正直、怒鳴られるのではないか、何かされるのではないかという気持ちでいっぱいだった。

しかし、

「夢香は亡くなってしまったけれど、ずーっと前から夢香から遥ちゃんの話たっくさん聞いていたのよ。遥が死んだら私も死ぬから!とか言ってね〜

花火大会に行かなければ、なんて散々思ったけど、今は遥ちゃんが生きていてくれるのが夢香にとっての幸せなんじゃないかしらって思っているの。」

自分の子供が刺されて亡くなる。どれだけ辛かっただろう。苦しかっただろう。

なのに病院に来てくれるなんて、夢香の周りはどれだけいい人たちで溢れているのだろう。




夢香、私頑張って生きるよ。

夢香にはもう会えないけど、私生きるよ。

自分に素直に、正直に、ありのままの姿で生きるよ。

だから夢香も、生まれ変わったらまたどこかで会おうね。



病院の帰り、私はたけると街路樹を通りながら歩いていた。

するとたけるが、

「おぉ、珍しい。藤の花が咲いてる。」

華やかで優しく甘い香りがする。夢香がここにいるみたいだ。






藤の花は三年に一度咲くらしい。花言葉は色々あるが、

「決して離れない」

という意味を持っている。

今咲いているという事は、約三年前にここに植えられたのだろう。まるで三年間の昏睡状態から目覚めた私と同じようだ。











その時、藤の花が暖かい風に吹かれて揺れた。









次の日、私はたけると図書館に行った。

たけるは懐かしい本に目を通し、その横で私は夢の中で夢香に紹介された本を探していた。


その本は誰の目にも止まらないような目立たない場所にひっそりと置いてあった。




私がこの本の続きを作ろう。この題名に合う続きを作ろう。







その本の題名は

「夢の先に」





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夢の先に 星乃雫 @Dojousukui

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