肯定

#365日ショートショート 081

「人生は無駄だらけ……。本当に、余計なものばかりね」

　母はため息混じりに言った。仕事に疲れ、人間関係に疲れ、人生に疲れた女の言葉。誰かを気遣えば損をし、余計なことだと窘められる。その諦念が込められた一言を、息子は聞き逃さなかった。

「お母さん、そんなことないよ。きっと僕が証明してみせる」

　数十年後。生物学の研究者となった息子から、施設で暮らす母へ荷物が届いた。

「すみません、どうやら、中に生き物がいるみたいなんです……」

　担当のヘルパーが、気味が悪そうに段ボール箱を持ってくる。

　受け取った母が箱を開けると、手紙、そしてガラスケースの内部になにやら動く影があった。まず封を開けると、手紙にはこう記されていた。『おふくろ、やっと成功したよ。この実験の結果、移動速度は2割も上がり、餌を取れる確率も格段に高まった。それをどうしても、見てほしくて』

　おそる、おそる。ガラスケースを覗き込む。

　そこには、足の生えた蛇がうずくまっていた。