第2話 がんばり屋のバリコちゃん

 静かな森の中にある、ハムスター先生の診察室。

 先生のカウンセリングは、とっても不思議。

 そばにいてくれるだけなのに、どんどん引き出されてくる心の声。

 みんな、優しいハムスター先生が大好き。

 ネコさんも、ウサギさんも、かえるさんも…

 ほら、今日も誰か来たみたいですよ。


 ウサギさんが、泣きながら診察室に入って行きました。

「きょうは、どうしたの?」

 ハムスター先生は、やさしい声で話しかけてくれます。

 でも、ウサギさんは、何も話さないどころか、涙も止まりません。

 いつもは、元気でかわいいウサギさんなのに、どこか痛々しいです。

「胸の音、聞かせてね。」

 ハムスター先生は聴診器を取り出して、ウサギさんの胸の音を静かに聞いています。


 ウサギさんは、今日のかけっこで負けてしまったみたい。ハムスター先生みたいに速く走りたくて、ずっと憧れて練習していました。雨の日も風の日も、毎日練習していたのに、ネコさんに負けてしまいました。


 ハムスター先生は、泣きながらやって来たウサギさんの心の中に、静かに問いかけています。

 ウサギさんは、胸が温かくなり、気持ちが落ち着いてきました。そして、遠くのほうで、ハムスター先生の声が聞こえているような不思議な感覚になりました。

『トントン』

「ダレカイマスカー?」

 ハムスター先生が、ウサギさんの心の扉をノックして話しかけています。先生には、中に誰かがいることが分かっているみたいです。

「アケマスヨー。」

 先生は、扉を開けようとしましたが、鍵がかかっていて…、いや、中から誰かが引っ張っています。

「ドウシテ アケテクレナイノ?」

 ハムスター先生は、優しく問いかけました。すると、中から返事がありました。

「ミラレタクナイノ…」

「コンナニ ナイテルワタシ…」

 ハムスター先生は、それでも少し安心した表情を浮かべて、扉によりかかりました。

「ワカッタ。」

「ジャ、シバラク ココニイルカラ・・・」


 どのくらい時間が経ったでしょうか。

『カチャ』

 と、扉が開く音がして、涙で目が真っ赤になっている子が顔をのぞかせました。

「そこにいるのは、頑張り屋のバリコちゃんですね。」

 先生の声を聞いたバリコちゃんは、また、涙があふれてきました。


 バリコちゃんは、涙をすすりながら言いました

「走ることには自信があったのに、負けちゃった…。」

「くやしいよぉ…。」

「負けたことより、途中であきらめたこと…。」

 ハムスター先生は、バリコちゃんの背中をさすってあげながら言いました。

「ヨクガンバッタネ。」

「イツモハシッテルコト シッテルヨ。」

 ハムスター先生は、いつものようにやさしい口調で語りかけました。

 先生の手の温もりが、悔しい気持ちや悲しい気持ちで冷えきったココロの奥まで、だんだんと届いていくようでした

 それだけで、すごく、落ち着く感じがします


「先生みたいになりたいよぉ」

 ハムスター先生は、何度もうなずきながら、バリコちゃんに言いました。

「ゆっくり、休んでね。すぐ、元気になれるから。」

 バリコちゃんは、先生の言葉に安心すると、だんだんと、眠くなっていきました。


「モウ、ダイジョウブダヨ」

 バリコちゃんは、ハムスター先生の優しい声が聞こえたような気がしました。

『zzzzz...』

 そして、バリコちゃんは、そっと眠りにつきました。


 そうやって、ハムスター先生は、頑張りすぎているココロのコビトちゃんを見つけては、そっと休ませてあげるのでした。


 ウサギさんは、先生の声で、だんだんと目が覚めてきました。そこには、優しい顔のハムスター先生が、そっと見守ってくれていました。

 目が覚めたウサギさんに気付いて、ハムスター先生は言いました。

「もう、大丈夫だよ。」

 ウサギさんも、安心して、言いました。

「あ、せんせい…。」

 ウサギさんは、ハムスター先生の元気な顔を見ると、勇気が湧いてきました。そして、先生に言いました。

「先生、今度、いっしょに、かけっこしよ。」

 ハムスター先生も、実は、走るのが大好きです。

「わかった。負けないよ。」


 ウサギさんは、すっかり、自信も取り戻しているようですね。

 ハムスター先生は、そんな元気なウサギさんを優しく見送りました。

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森のコロコロ診察室 @nemunemu628628

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