ユメカナッ!!私だけのヒーロー

黒羽冥

第1話私だけのヒーロー

僕の名前は、すずね…雀の獣人でもあり『雀の宿』って名前の宿屋を母さんと切り盛りしているんだ。僕は自分の事を僕って呼んでるけど一応女の子なんだ。そんな僕には二人のヒーローがいるんだ!二人の名前は、みらいお兄ちゃんとらいとお兄ちゃん。わがままだけど二人とも僕だけの…いや…私だけのヒーローなんだ。僕は、あれから元気に毎日を過ごしているけどふとした時に思い出すんだ。

「すずね!すずね!?」

「母さん!どうしたの?」

母さんはこの間父さんが他界したばかりだけど宿の為、そして僕の為に必死に働いてくれて…僕も母さんの力になれるように頑張ろうと思う。

「すずね…あのね…こんな事あなたに頼むのはどうかって考えてしまっていたんだけど…。」

母さんは僕に申し訳なさそうに話していたんだ。

「えっ?母さん!なあに?」

僕は深刻そうに話す母さんにできるだけ気を使わせないように笑顔で聞いてみる。

「あのね…今までは父さんがずっととってきてくれていたんだけど…。」

「うん?言ってよ母さん!?」

僕がそう言うと母さんは申し訳なさそうにして話してくれたんだ。

「え…ええ…。あのね…もうすぐ隣の家で赤ちゃんが生まれるらしいの…。」

そう言えばこの間宿に母さんに話をしにお腹を大きくした隣のバーバラさんが来ていったんだっけ。僕がその事を思い出すと母さんは話を続けたんだ。

「うちの宿では…妊婦さんの出産祝いに特別なイベントをしてきたの…。今まではイベントに必要な時、獣人の父さんがそのアイテムをとってきてくれていたの…。」

そんな事を宿でしていたなんて…きっといい思い出になる事だよね。

「でも…そのアイテムは『ツルキ(鶴亀)』って呼ばれる鳥モンスターから取れる羽根を使って作る縁起物なの…そのモンスターは羽根が生えた亀のようなモンスター…あなたに頼んでいいものかって…。」

母さんはそう言うと僕を心配そうな顔で見ている。僕の頭にふと、お兄ちゃん達の笑顔が浮かぶ。

「母さん!それ僕が取ってくるよ!」

母さんはびっくりして僕を見ていた。

「父さんが今まで獣人の力を使って宿の為に、そしてこの村の未来…子供達の為にそうしてきたのなら僕だってそれをしたい。」

僕の口から出た言葉に意外そうな顔で僕を見ていた母さんが僕を抱きしめてくる。

「本当に…こんなに立派になって。」

「母さん…父さんの分まで僕はやってみせるから安心して。」

僕は早速準備をするとツルキの住むといわれる一つ山をこえた先の沼地を目指したんだ。

村を出て僕は獣人変化する。僕にできる変化は鳥人化と鳥化が出来るけど目的地までは鳥変化してツルキの住処を目指す。すると山を越えたところで大きく広がる沼地が見えてきた。

「あそこ…かな?」

僕は沼地に降り立つと人化する。辺りは静まり返り蛙の虫の声…鳥のさえずりも聴こえ僕にとっても落ち着く場所だった。

「う〜ん…でもこんなのどかな所にモンスターなんているのかな…?」

僕がそんな事を口にして歩き出そうとすると突然クエエエエッと何かの鳴き声が聞こえたんだ。

「えっ?誰?誰かいるの?」

僕が叫ぶとまた辺りは静まり返る。僕は一歩、また一歩と沼地の中央へと歩いていく。すると突然目の前の沼地から何かがドシャーーーっと音と地面と水面を割り大きな何かが姿を現したんだ。それは亀の身体に羽根を生やし長い首をつけ顔は鶴というまさに「ツルキ」が現れたんだ。そんなツルキを前に僕の足はガクガク震える。

「君が…ツルキ…だな!?」

「僕はスズメの獣人、雀真じゃくまの娘すずね!君から羽根を分けてもらいにきたんだ!」

僕がそう声をかけるとツルキは突然羽根をバタつかせ突風をおこす!突風で僕の身体は踏ん張るけど次第に中に浮き始め飛ばされ僕は湿原に枯れ生えてる木に激突!僕は激痛でその場に倒れる。

「ぐうっ!?いっ……。」

そんな僕めがけツルキは空にはばたき突っ込んでくる!僕は、いち早く気づき何とか身体を翼で回転させ何とか逃れる!

「はっ!はぁ…はぁ……。」

あんな敵相手にどうしたら勝てるんだろう…。僕はどんどん弱気になってくる。

「う…ぅぅぅぅ。父さん…みらいお兄ちゃん…らいとお兄ちゃん…。」

目に涙が溢れてくる。僕はそのまま気を失ってしまう。そして気がつくと暗闇の中に僕はいた。

ふと誰かの声が聞こえてきた。

「すずね…もういいから帰ってきなさい…」

母さんが僕を呼んでいる。僕が母さんに近ずこうとすると後ろから今度は父さんの声がする。

「すずねは俺の大切な娘だ。帰っておいで。」

「父さん!!??」

父さんはそう言うとやっぱり消えていく。

「待って!待ってよ父さん!?」

僕は泣きながら叫ぶけど父さんはもうどこにもいなかった。僕は泣き続けた。二人がいないこの状況に僕は寂しさと恐怖で泣きじゃくったんだ。するとどこからか光が差し込んでくる。僕はゆっくり目を開けていくと僕の前に二つの影が見えた。

「えっ!?…お兄ちゃん…達!?」

僕がぼんやり見ていたのはツルキと戦う二人の姿が映ったんだ。そして…。



僕が目を開けると辺りは静まり返りお兄ちゃん達の姿も恐ろしいツルキの姿もそこにはなく、僕の手にはツルキの羽根が握られていた。

「お兄ちゃん…達!?」

僕はぼーっとしていると遠くから母さんの声が聞こえてきた。

「すずね!?すずね!!?。」

「母さん!?」

僕はガバッと身体を起こすと母さんと村の兵士さん達が僕の元へ迎えに来てくれたみたいだ。

お兄ちゃん達の姿はない…僕はどうやって助かったのかは分からないけど、それでもみらいお兄ちゃんとらいとお兄ちゃんじゃないかと思う。



「だって…私だけのヒーローだもん!」

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