わたしのヒーロー

高岩 沙由

ヒーローとは?

 わたしのヒーロー、かぁ。


 担当している雑誌の企画書を見て悩んだ。

 私自身、そういう人がいないので、頼れるのは、親戚の話好きの叔母さんか。

 すぐに連絡を取って、デパ地下で総菜を買って、叔母の家に上がった。


「私のヒーロー、ね。それはやっぱり、旦那さんよね」

 叔母さんが頬を赤く染めてうっとりとした目で話し始める。

「初めて出社した日、慣れないヒールを履いていたせいか、階段を踏み外して落ちたことがあったの。結構上からでね。転がりながら、死ぬかも、なんて思ったら、旦那さんが途中で捕まえてくれて。そのままお姫様抱っこされて医務室にいったの」

 叔母さんの目がきらきらと輝き始める。

「でもね、旦那さん、女性社員の人気が高い人でね。私が階段を踏み外したのはわざとだろう、って噂が流れて、居心地が悪かったの。仕事でわからないことがあって質問してもあからさまに無視されたりしたの」

 ふう、とため息をついて、お茶を飲む。

「もう、仕事辞めようと思って、上司に辞表を出したらどこからかその話が旦那さんに伝わって、話を聞いてくれたの。そしたら、対処するから、って言ってくれて。でね、しばらくすると、噂を流した主犯格の女性社員数名が地方の支社に飛ばされちゃったのよ」

「いや、それって、職権乱用じゃないの?」

 叔母さんは黒い微笑みを浮かべる。

「そうね、そうとも言うわ。だって、社長の息子だからね」

 うーん、これはわたしのヒーローと言えるのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしのヒーロー 高岩 沙由 @umitonya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説