最終話 出発の日
~ 四月八日(金) 出発の日 ~
※
古いものを捨て、新しいものを
取り入れること
「おはよー!」
「……おはよう、凜々花」
「おはよう……。じゃ、じゃあ行こう?」
「うわすげえ抵抗ある」
みんなの頭上に、はてなマークを浮かべた俺の言葉。
そりゃ当人たちはそう思うだろうけど。
でも、きっとお前ら以外の世界中の人が同調してくれると思うんだ。
美人三姉妹に。
むくちゃげ一人。
きっとこんな組み合わせで歩くことを。
世間の皆さんは許しちゃくれない。
石はもちろんのこと。
鋭利なものまで飛んできそう。
俺は、残り一年の間。
こんな思いをしなきゃならんのか。
「せめてお前ら、朝練がある部活に入れ」
「えー!? 凜々花、早起き苦手だからな……」
「……私もだ」
「そこを曲げてひとつ」
どうあっても。
俺の背中に鋭利なものを山ほど突き立てたいと願う二人はダメだ。
ならば頼みはお前だけ。
「秋乃からも何か言ってやれ」
「よ、四人で学校に行くの、夢だった……」
「よし。今日から俺のあだ名はハリネズミだ」
人の気も知らず。
とどめを刺したこいつの名は。
旅行中は無理だったからといって。
彼女になってもらう夢を先送りにすれば。
きっと毎日。
明日こそ頑張ると言い続けることになりそうだ。
しかも、一昨日は。
秋乃からアプローチしてくれるような雰囲気だったし。
ムードも何もないけど、登校中に口説いてやるぜと意気込んでみれば。
この有様。
「なんだおにい、しょぼくれちまって。凜々花たちお邪魔だったん?」
「……なるほど、それは気がきかなかった。お二人のことは見ないように離れて歩くのでどうぞ気になさらず。では、キックオフ!」
「観戦する気満々じゃねえか。飲み物は買ったか?」
「凜々花はあれ! でけえおにぎり食いてえ!」
「よせよせ。みんなで蹴とばして地面転がってるから、バッチくて食えないよ」
「あ、朝から賑やか……」
秋乃の指摘通り。
この四人で歩けば、周りが迷惑するほどやかましくなる。
しかも、うるさい俺たちに腹を立てた人が。
文句を込めた視線を向けてみれば。
可愛い生き物にフランス人形。
そして絶世の美女をターゲットに選ぶことなんて出来るはずもなく。
結果、このへちゃころげが全ての憎悪を引き受けることになる訳だ。
「よし、鏡を十枚ほど買って来よう」
「なんで十枚?」
「足りんか?」
「……急に何をしたくなったのか知らんが、電車が来る。急ぐぞ」
先輩二人を引っ張る後輩たちのおかげで。
いつもより一本早い電車に乗り込むと。
今の今まで騒がしかったヤマネコが。
借りて来たみたいに大人しくなっちまった。
「どうした凜々花。なんか忘れ物したか?」
「そじゃなくて。急に心配んなって来た」
心配ってなんだろう。
凜々花の言葉を待ってみれば。
こいつが発したとは思えない。
意外な言葉が飛び出した。
「と、友達出来るかな?」
小学生かよ。
そう突っ込むのが自然な話なんだと思うのだが。
俺は秋乃と。
思わず顔を見合わせて頷きを交わす。
「……ふむ。私も心配だ」
「そうなのか?」
凜々花は社交性の塊だし。
春姫ちゃんは、気の合う人が数人いれば十分という孤高タイプ。
しかも、既にお互い一人は友達がいるというのに。
他の友達ができないか心配するなんて。
「まあ、最悪お前ら同士は友達なわけだし」
「……それで良しとは言えんだろう」
「なるほど。でも心配しないでいい」
「……ほう?」
「そんな春姫ちゃんに、秋乃がいいものを見せてくれる」
俺が視線を送る前から。
秋乃は携帯を操作していたが。
「……あれ?」
どういうわけか。
眉根を寄せて画面を見つめたまま停止した。
「どうしたんだよ。あのサイト見せてあげろって」
「そ、それが……。見つかりませんって……」
「まじか。閉鎖したんだ」
まあ、ここ一年ばかり更新が止まってたからな。
でも普通はこの手のページなんて、そのまま放置するような物だけど。
ちゃんと閉鎖するとは珍しい。
じゃあ、代わりに似た様なサイトを探してみるか。
俺は携帯に、友達の作り方と書き込んで検索してみようと思ったんだが。
「ぐす……」
「うそだろ!? それほど!?」
秋乃が涙を流していたせいで。
それどころじゃなくなった。
「何で!?」
「だって……。思い出のサイト……」
「まあ、そうだけど」
「あのページが無かったら、あたしは立哉君と出会ってなかった……」
まあ、確かに。
あれがきっかけではあったけど。
でもそれを認めたところでこいつの涙が止まることは無いよな。
「立哉君は、悲しくないの……?」
「それほどでもないかな」
そして秋乃にすがりついて心配していた凜々花の両脇に手を入れて持ち上げて。
俺の方を向かせて地面に設置。
「凜々花。よく聞きなさい」
「へい」
「今さっき、春姫ちゃんが言ってたことちゃんと聞いてたか?」
「こう見えて、シシャモの口に指を突っ込んで、きゃー食べられるーとか言うお茶目さん」
「……自分で言うわけなかろうそんなこと!」
「あ、ゴメン。内緒なんだったっけ?」
「……お前には今後一生弱みを見せん」
凜々花と話をすると初手から電車が脱線してるんだよな。
でも、ちゃんと駅には辿り着いてくれるんだ。
「お前は、春姫ちゃんが不安そうにしてたのも聞いてなかったのか?」
「え!? みずくせえぞハルキー! 凜々花、困ったことがあったらなんだってするよ?」
「……ふむ。私は、お前と同じことを思っていたんだ」
「同じってことは……。シシャモが……」
こら。
頑張れ電車。
「……その記憶をすべて消し去る薬を私が発明するのはまた別のお話にするとして」
「ふむ」
「……友達が出来ないかもしれぬと呟いていたのだ」
「おお。それすげえ偶然。初めて明かすけど、凜々花も心配なんだよ」
「……さっき同じことを考えていたと言っただろうに」
「どうしよ」
「……どうすれば」
そして三者三様。
肩を落としてしまったんだが。
ようやく電車が線路に戻ったところで。
俺の出番という訳だ。
「凜々花。お前は悩む前にやることあるんじゃないのか?」
「へ? あった?」
「あるだろうが。春姫ちゃんが悩んでるんだぞ?」
「おお! ほんとだ一大事じゃないの!」
「じゃあ、お前がすることは簡単だよな?」
「もちろん! 凜々花、ハルキーに友達出来るように、たくさん紹介して歩くぜ!」
ほら。
到着。
こいつは線路をまともにはしりゃしないけど。
ちゃんと駅にたどり着く。
そして。
「……なるほど、私も悩む前にやることがあったとは。さすがは立哉さん。感謝する」
「それは、二人の周りに友達がたくさん集まってきた後にしてくれ」
さすが春姫ちゃん。
俺が言わんとしていたことを。
ちゃんと理解してくれていた。
やがて、学校の最寄り駅へたどり着くと。
さっきまでの悩みはどこへやら。
二人は小走りではしゃぎながら先を行く。
俺は、そんな姿を見つめながら。
小さく肩をすくめてると。
いつものお隣りから。
肩がこつんと寄り添って来た。
「思い出……。無くなっても、寂しくないんだね……」
「懐かしいな、俺たちが入学した時の事」
そしてこちらも。
さっきまでの涙はどこへやら。
柔らかな笑顔が、少し恥ずかしそうに口をムニムニとさせていた。
「あのサイト……。今年は二人で見なかったから」
「おお」
「だから、これは誰かに言われたわけじゃなく、あたし自身の気持ち……」
そう言いながら。
足を止めた秋乃の姿を。
抜き去る人がみな振り返る。
今年、成人を迎える。
大人の女性。
絶世の美女。
そんな秋乃が。
意を決して口を開く。
「あ、あたし……。今日から、新しいページなわけだから……」
「うん」
「新たな気持ちでお願いしたい事が、あります……」
――秋乃のことを好きになってから。
長い事思い悩んで。
散々苦労してきた。
そのすべてが。
今、報われようとしていた。
2022年。
春。
俺たちは。
新しい関係となって。
幕を開こうとし
「今日から改めて、あたしを友達にして下さい!」
があああああああああああああああああああああああああああん!!!!!
「あ……? 改めてぇ!? それ、最初からって事!?」
「た、立哉君はあたしの彼氏でいいので……」
「進展ないじゃん! 新しい気持ちって何!?」
「進展はあるよ? 新たな、新鮮な気持ちで、お友達!」
「それを進展なしと言う!」
……やれやれ。
俺の努力は一体何だったんだ。
この一ヶ月の締めくくり。
最後はやっぱり。
この言葉で終わるのか?
「…………秋乃は、俺の彼女にならんのか?」
「あ、それは……。また明日、頑張って下さい」
秋乃は立哉を笑わせたい 第23笑
=恋人(予定)の、(予定)を何としても外そう!=
失敗!
じゃなくて。
おしまい♪
秋乃は立哉を笑わせたい 第23笑 如月 仁成 @hitomi_aki
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