第22話

 目が覚めると私は動く車の助手席で寝かされていた。見慣れた光景でここが私の父親の車である事にすぐ気がついた。


「ん? 紬、気がついた? 大丈夫かい?」


 すぐ隣から父親の声が聞こえてきた。


「大丈夫。アカリちゃんとはちゃんとお別れできたよ」


 全身の倦怠感から身動き一つ取れない私は視線を向けることなく父親に返答した。


「お別れ? それはよかったね」


「このまま家に帰るの?」


「うん。本当は事情聴取とかあって残らないといけないらしいんだけど最初から最後まで警察官と一緒だったからって事で抜け出してきたんだよ」


「それでアカリちゃんは見つかった?」


 私はずっと疑問に思っていた事を父親に確認した。これが間違っていたなら全て私の勘違いだった事になる。


「紬の指差した場所に埋まってたよ……。紬の夢の話が本当なら許せない話だよね」


「そうだね……。これからどうなるのかな?」


 アカリちゃんもそうだが私もどうなるのか。幽霊を呼び寄せて取り込んでしまうという行為を私はこれからも無自覚に繰り返してしまうのだろうか?


「ああそれと紬達がこれ以上探偵活動をしない様にって理沙さんに釘を刺されたよ。見つけたら止めてって」


「そんなこと私はしないよ?」


 アカリちゃんの事件に不必要に関わるつもりはない。今回首を突っ込む事になったのはアカリちゃんと出会ってしまったからだ。別れてしまった今は警察に任せて早く日常に戻りたい。


「後ろで寝ている結衣ちゃんにも言ってあるから紬も何かあれば理沙さんかお父さんに連絡してね」


 倦怠感で嫌がる身体を捻り後部座席を確認すると結衣が気持ちよさそうに寝ていた。


 不意に欠伸が出る。


 ただもう眠るのを我慢しなくてもいいのだと改めて考えると身体の芯から力が抜けて楽になったのを感じていた。


「事件無事に解決するといいね」


「優秀な警察官が引き続き捜査するんだし大丈夫でしょ。家までもう少し時間がかかるし紬も寝てても大丈夫だよ?」


「うん、そうするよ。おやすみなさいお父さん」


「おやすみ紬」


 倦怠感に任せて瞼を閉じると私は夢を見る事なくすぐに眠りについた。



 月曜日の昼休み。


 土日にしっかりとした睡眠をとれたお陰で元気を取り戻した私は結衣と共に教室を抜け出し二人きりになれる中庭で昼食を広げていた。


「アカリちゃんのお母さん捕まったね……」


 日曜日のニュース番組でアカリちゃんのお母さんが逮捕された事が報道された。


 警察の発表ではアカリちゃんのお母さんの黙秘を続けているらしい。


 ただどこからか洩れたアカリちゃんの爪に残されていた肉片がアカリちゃんのお母さんの物である情報と現場付近の防犯カメラの映像がニュース番組で放送されていた。


「最初から疑われてはいたみたいだしね。火曜日から児童相談員の人達が会わせてくれってお願いし続けて水曜日になって急に家出をしたって言い始めたらしいよ」


「児童相談員? アカリちゃん虐待されてたの?」


 初耳だが行方不明の届出を児童相談員から疑われない為に提出したのだろうか?


 そうだとすると児童相談員が頑張らずにすぐに帰っていたならアカリちゃんのお母さんはずっとアカリちゃんの事を黙っていたのかもしれない。


「母子家庭でストレスの捌け口に暴力を振っていたらしくて何度か保護されていたみたいだよ」


「その時取り上げていたらアカリちゃんは死ななかったのかな……?」


 たらればの話ではあるがもしアカリちゃんが死んでいなければもっと怖い相手を私は取り込んでいた可能性がある。


 その時に私は耐える事ができたのだろうか?


「その時では完全に親子を離すのは難しかっただろうね」


「でも随分と詳しいね結衣」


 結衣が持っているモノは普通に暮らしていたなら知りようがない情報の様に思う。


「えーっと……気になったから調べただけだよ」


「さて叔母さんに電話しないと……」


 私は携帯端末を取り出すマネをしながら結衣を揶揄っていると必死な表情で私の手を押さえる。


 私も確かに気にはなっていたので私が直接結衣のお母さんに連絡するつもりはないが遅かれ早かれバレることになるのだろう。


「やめよう! それだけはやめよう! そういえば紬は何か話したい事があったんでしょ? 何の話?」


 私を説得しつつ慌てて話題を変えてきた。


 まあ結衣を揶揄うのはこれぐらいにしておこう。


 残ってしまった問題の解決方法を相談する為に結衣と二人でこの場所に訪れたのだから。


 父親に話す前に一度結衣と話す事で自分がどうしたいのか確認しておきたいという気持ちも強い。


「その事なんだけどさ……」


「まさかまた取り憑かれたとか?」


「いや流石にそれはないよ」


 アカリちゃんと別れて数日だがまだ何かを取り込んでしまったという感覚はない。


「よかった。また取り憑かれたって言われたらどうしようかと」


「ただねアカリちゃんが言うには私がアカリちゃんを呼んで私がアカリちゃんを取り込んだらしいの……。私には自覚もないしどうしたらいいのかな?」


 結衣が今まで見てきた中で一番複雑な表情に変わった。




『ジェーンドゥは眠れない』


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ジェーンドゥは眠れない Sasanosuke @ssnsk

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