頭蓋骨持ってるロボの話
草森ゆき
○
作られたけれど破棄されてでも機械だから死にもせず粗大ごみ置き場で起き続けていたところ情勢が変わって星空が燃えてこの星はもう終わると機械ながら悟りました。それからまた何日も粗大ごみを行っていたらあの人が現れて私の前に立ちました。「ああ、良かった。話せる?」気さくに話し掛けられて「話せます」と答えれば「本当に良かった、話し相手がほしかったんだ」と言いながら隣にすっと腰を下ろしました。
私とその人はしばらく一緒にいました。その人は人間で、終わった星を歩き回っていたそうでした。誰もいない星の中はとてもさみしく話し相手を求めて求めて廃棄された機械を思い出しやってきた、そこで私を見つけたのでした。
色々な話を聞きました。でもすべて終わった話でした。終わった話をするその人はいつも楽しそうでした。なので私は終わりは楽しいものかと聞きましたが「まさか」と首を振り「でも悲しくもないよ」と続けて「いつか終わるから楽しかったなあって懐かしむんじゃないかな」と締めました。
その人は懐かしんでいたのでした。私に懐かしむ心はわからず問いました。言葉を尽くして丁寧に、楽しい悲しい懐かしい、怒る笑う困る泣く、呆れて驚いて眠って起きて始めて終えてと、今までの話をすべて教えてくれました。
だからその人は私の師です。機械ではないのでやがて終わります。私の隣で終わりながら、私を見つめて笑いました。「ひとりぼっちじゃなくて嬉しい、君はさみしい私を助けてくれた、救われたんだよ、ありがとう」これが終わりの前の言葉で、そのあとは何度呼び掛けても動かず喋らず目をうっすら開いたままで、ゆっくり朽ちていきました。
機械ではない体は一番奥だけが残りました。黄身がかったその人の骨組みは終わっていても終わらないのだなあと驚きました。驚けました。はじめてのことでした。救われるとはこのことではないかとひらめきました。
なので私はその人の骨を抱いています。一番しっかりしていた丸い部分を膝に抱いて、今日も終わった星の中で空を見たり見なかったりごみに凭れたり膝の上に話し掛けたりしています。私は粗大ごみではなくなったと思います。楽しかったなあ、あなたと話し続けて楽しいなあ、楽しいが私にもわかるんだ嬉しいなあと、あなたに向けて話し続けてここにいます。
なのでいつ始まってくれても良いですよ。
頭蓋骨持ってるロボの話 草森ゆき @kusakuitai
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