ヒーローインタビュー

林城 琴

ヒーローインタビュー

 待ちに待ったプロ野球シーズン。

 当然のようにあたしはいそいそとデーゲームの開幕戦を観にスタジアムに出掛けて行った。

 あたしの街には強豪プロ野球チームがホームを張っていて、周りはあらかたそこのファンなのだが、あたしはその中で我が道を行っている。

 遠い彼の地にホームを置く球団が、中学生の時から好きなのだ。

 残念ながらあたしの街のチームほどには強くもない球団だけど、愛というものはそんなものでは傷つかない。というより辛ければ辛いだけ愛は増したりするものだ。ああっ、好きよっ。

 まあそんなことはいいとして、今年の開幕戦は、ラッキーなことに愛するチームがビジターとしてあたしの街にやってくる。

 これを観戦せずして何のファンでありましょうか。

 そして神さまは今日はあたしに微笑んでくださった。

 開幕投手の異常なまでの活躍で見事初戦を勝利したあたしのチーム。

 テンション低めのホームチームのファンたちに揉まれながら、あたしは意気揚々と駅までの帰り道を歩いていた。


 あと少し、というところで青信号を逃したあたしが横断歩道の前で立っていると、一台のバスが目の前を通りがかった。

 なんとはなしにバスの窓に上げた目が、有り様もないものをちらりと捉える。

 あの色!ユニフォームの色!

 なんと!!!愛するチームの選手満載のバスではありませんか!!!!

 思わずぎゅっと縮まる胸にも関わらず、無情にもバスはあっという間に去って行く。出待ちはしないタチなので、こんな奇跡、またとない。ああどうして、もっと早く気づいていなかったのか・・・と悔しがりながら一生懸命にバスの窓に視線を送る・・・と、誰かとばっちり目が合ってしまった。


 あまりにばっちりだったので固まってしまったあたしを見たまま、その人は小さくにこっと笑ってくれた。反射的にあたしは右手をぶんぶん振っていた。その人はやはり小さく、それに返して二、三度手を振ってくれた。

 そうしてバスは走り去った・・・・うっわー!うっわー!と心の中でひとり繰り返すあたしをあとにして。


 で。

 「あの人、誰だろう?」


 年齢若め、やや日焼け、線はそれほど細くない。

 若干タイプな基本イケメン。

 生憎、二軍の選手を全員把握しているところまでのガチさはないので、超若手選手だと、多分あたしにはわからない。

 オープン戦あたりで猛アピールし、開幕一軍を射止めた若手さんと言うところかしら。今後要チェックだわ。

 しかしうちに帰ってひっくり返してみた選手名鑑に、先程見たあのお顔らしき写真は、どうにも見つからないままだったのだった。


 それから数日後。

 今日もCSにチャンネルを合わせプロ野球中継観戦に余念のないあたしはゴキゲンだった。

 彼の地ホームゲームであたしのチームは乱打戦を制して最後は圧勝。大味と言われるかもしれないが、こういう試合は派手で楽しい。

 「今日のヒーローは、2ホーマー6打点のアルフレド選手です!」

 いいぞ新外国人選手、ようこそ日本へ我が球団へ!

 と、そこで。


 「あ。」

 あたしの胸の中がまたぎゅっとした。

 にこやかにお立ち台に立つアルフレドに並んで立つのは、あ、あの人だ!

そっか。


 「通訳さん・・・。」


 それからあたしは前にも増して、アルフレド選手を応援するようになった。

 そう、もちろん、ヒーローインタビューを見たいがため。

 斯様に我がチームへの愛はますます、増すばかり。

 今夜もがんばってね。



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