第2話
「ねぇ、待ってよ!」
体育館に向かっていると、再び背後から楓に声を掛けらる。
他にも沢山の生徒たちがいるにもかかわらず、わざわざ俺に声を掛ける理由がわからなかった。楓なら誰とでも仲良くなれそうな雰囲気だが、妙な違和感を感じ取る。
俺は足を止めると、背後を振り向いた。
「何か用があるのか?」
「そういう訳じゃないけど、一緒に体育館に向かおう?」
「……構わないが……」
「ありがとう。ねぇ、賢くんは何クラスになったの?」
能力開発第一学園は一年Aクラスから一年Dクラスの四つのクラスに分かれている。優秀な生徒はAクラス、そしてDクラスはギリギリの成績で入学できた生徒たちが集まるクラスとなっているのが暗黙の了解となっている。
「俺はDクラスだ。楓さんは?」
「私もDクラスだよ。同じクラスだね」
「なるほど、そういうことか……」
この学園は実力主義であり、能力が劣る者は侮蔑の対象になる。
自然と格差が生じてしまい、クラス同士は仲が悪いと噂で聞いたことがある。
もし、Aクラスの生徒にDクラスの生徒が話し掛けても煙たがられるだけだ。
もしかしたら相手にされない可能性すらもあり得る。何らかの方法で俺がDクラスだと悟った楓は、気軽に話せる友達が欲しかったと考えるべきか。
「あっ!気付かれちゃった?この学園の差別は今に始まったことじゃないと思うけど、同じクラスメイトなら気軽に話せるね」
「そうだな……だが、なぜ俺がDクラスだと気付いたんだ?」
「ふふっ、なんとなくかな?私にも良く分からない。でも賢くんなら気兼ねなく話せるような気がしたの」
「そうか……」
二人で会話をしながら歩いていると、体育館が視界に入る。
俺たちはできるだけ目立たないように入口へ向かい、体育館に足を運んだ。
中へ入ると張り詰めたような緊張感のある空気を感じ取る。
もうすでに半数以上の生徒たちが席に座り、式が始まるのを待っていた。
入学式の席順は決まっている訳ではなく、自由な席に座って良い雰囲気であったために俺と楓はできるだけ後ろの席に座る。
あまり目立つことをしたくなかったし、初日からAクラスやBクラス、Cクラスの連中に目を付けられたくなかったのが本音である。
できるだけ平和な学園生活を送りたい。
パイプ製の椅子に腰を下ろして辺りを見渡すと、複数の生徒から視線を感じた。
値踏みするような視線、好奇心をのぞかせるような視線、敵視するような鋭い視線と様々だが、視線に気付かないふりをする。
するとすぐに俺たちへの興味は失せたのか、視線から解放された。
「居心地が悪いし、心臓にあまり良くない環境。早く終わらないかな?入学式」
「そうだな。待っている時間が退屈ではある」
しばらく楓と会話をしていると、体育館に生徒たちが集まり始めていた。
数分も満たないうちに体育館は生徒たちで埋まり、あっという間に入学式が始まった。ピンと張りつめたような空気の中、壇上に一人の女性が上がり、一礼する。
五十代後半から六十代前半ぐらいの白髪交じりの女性だが、スーツを身に纏っているためか、老いを感じさせない。不思議な女性だった。
「学園長の
学園長が再び一礼をすると、生徒たちから拍手が沸き起こる。
俺も違和感が生じない程度に拍手を送る。学園長は手短に済ませると壇上から下り、入れ替わるように学生服の男子生徒が壇上に上がった。
雰囲気から三年生の先輩だと悟った俺は、静かに聞き耳を立てる。
「新入生の皆さん。このたびは入学おめでとうございます。今年度から生徒会長に就任した
生徒会長は少し間を空けると、再び話し始めた。
「私も二年前、皆さんと同じように不安と期待に胸を膨らませ、緊張しながら入学式を迎えていました。少しだけ早く高校生になった私から、学園生活において重要なことを教えたいと思います。この学園では実力が全てです。勉強だけではなく、運動能力、戦闘能力、すべてを鍛えること。それができない生徒はこの学園を無事に卒業することができません」
生徒会長の言葉に驚く生徒は一人もいない。
この学園に入学しようとする生徒は全員が理解していることである。
「ぜひ、能力開発第一学園で充実した時間を過ごしてください。私たち先輩とも素敵な思い出を作っていきましょう。分からないことがあれば何でも聞いてください。以上をもちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます」
籠の中の鳥 ヒロ @momot
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