籠の中の鳥

ヒロ

入学式

第1話 


 桃色の花びらがアスファルトに散っている。

季節はすっかり春になり、上着を脱いでも良いような気温だった。

 つい先日までの肌寒かった日々が嘘のように感じる。


 俺は桜の花びらを見上げながら一人寂しく通学路を進んでいた。

辺りを見渡すと制服に身を包んだ学生の姿が見えてくる。

 遅刻は厳禁。時間に余裕をもって学園に向かっているため、生徒の数は疎らだ。


 俺が入学する予定の学園は少し特殊な形態をした学校である。

筆記試験、面接、実技試験で優秀な成績を収めた生徒しか入れない名門学園だ。

 筆記試験はどこの学校でも存在するが、問題は面接と実技試験である。

面接では礼儀作法だけでなく、人格や適性のチェックがなされ、さらに実技試験では個人の能力を確かめる。

 個人の能力とは主に超能力の有無と運動能力や戦闘能力の優劣で決まる。

 

 つまり心技体のすべてが求められ、高い水準の教育が施された生徒のみが入学できる仕組みになっている。その名も能力開発第一学園だ。

 エリートだけで構成された学園でもあり、生徒のレベルは非常に高い。


 そんなエリートだけが通う学園を受験し、奇跡的に合格したのが俺である。

能力開発第一学園は政府管轄のため、授業料などを払う必要もない。

 すべては税金から賄われるため、お金のない俺でも入学が可能であった。


 学園に在籍している間は生活費も学園から支給さる仕組みになっている。

まさに夢のような学園でもあるが、筆記試験や実技試験が一つでも赤点になれば即退学という末路を迎える。非常に厳しい仕組みになっている学園でもあった。


 そんなことを考えながら歩ていると、校舎が見えてきた。

ガラス張りの建物がずらりと建ち並び、その光景は圧巻の一言であった。

 近代的な建物でありながら防犯対策も完璧になされていた。


 建物の周りにはグラウンドやテニスコート、屋外プールなども設置されていた。

さらにドラッグストアやスーパー、コンビニ、映画館といった施設も近場にあり、ちょっとした学園都市と化している。政府の力の入れ具合が見て取れる。


 大きな門の前に辿り着くと、受付が設置されていた。

受付の前では生徒たちが列になって並んでいた。

 流れに身を任せるように俺も列に並んだ。


 「ねぇ、あなたも新入生?」

 「ああ、そうだ。この場には新入生しかいないはずだ」

 「そうだよね。なんだか緊張してきちゃった。あっ!!私は東坂楓とうさかかえで。よろしくね。ついでに君の名前も教えてよ」

 

 初対面のはずだが、フレンドリーに接してくる女性に驚いてしまう。

俺は人見知りではないものの、人と話すことが得意ではない。

 だが、何事も第一印象が大切だと思い、すぐに思考を切り替えた。


 「ああ……俺は葛西賢かさいすぐるだ。改めて宜しく」

 「賢くんね。よろしく~!私のことは楓と呼んでね」

 

 初対面とは思えない接し方に驚きつつも彼女を見つめる。

飾り気のない笑顔に黒髪のショートヘア、ぱっちりとした瞳が印象的だった。

 華奢な体躯にもかかわらず、すらりとした身長はモデルのようだった。

男性に限らず女性からも好かれそうな生徒だなと思ったが、口にはしなかった。

 

 「楓さん……ね。分かったよ。そう呼ばせてもらう」

 「ふふっ、賢くん。表情が硬いよ。そんなに緊張しないで」

 「ああ、善処する」

 「次の者!前へ来い」


 楓と会話をしているうちに順番が回ってきたのか、受付の女性が話し掛けてきた。

三十代後半の眼鏡を掛けた黒髪の女性であり、キャリアウーマン然とした佇まいが印象的な女性でもあった。鋭い瞳をこちらに向け、早く来いと視線で合図を送る。

 女性の男勝りな口調に驚きつつも、俺は受付に向かった。

 

 「はい、今行きます」

 「名前は?」

 「葛西賢です」

 「葛西だな。これを受け取れ」


 受付の女性から渡されたものは学園のパンフレットと入学許可書だった。

さらに携帯端末を渡される。携帯電話を支給する学園は、世界中を探してもこの学園だけであろう。俺は何も言わずに受け取ると、渡されたものを鞄に仕舞う。


 「何か質問はあるか?」

 「いえ、今のところは」

 「学園生活で必要なものはすでに渡した。携帯端末は無くすなよ。学園を卒業するときに学園側に返却する必要がある。分からないことは教師に聞くか、パンフレットに記載してあるはずだ」

 「わかりました。これからどうすれば?」

 「入学許可書とパンフレット、並びに携帯端末を受け取った生徒は体育館に向かえ。これから入学式が始まる」

 「はい」

 「では次の者。前へ」


 さっそく体育館に向かう。

 

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