第32話 アンデッドの王と戦おう!
僕らは一度、後方へと避難することにした。リオとアンネが連戦で疲弊していたのと、ガンフの提案によって、ここの指揮官に話を聞きに行くためだ。
「にしても、まさかリオたちも参戦してたんだな」
「たまたま近くの冒険者ギルドに居たからな。そうしたらランバルド公爵家の遣いが来て、参戦するように言われたんだよ。領主様の命令とあっちゃ断る訳にも行かないから、そのまま戦いに参加したんだ」
「なるほどな」
「おっと、ここですよ」
ガンフが目の前にある大きめの要塞へと入っていく。土魔法で作られたのか、いかにも急造ですといった感じがある。
通路を進んでいくと、やがて広々とした部屋にでる。そこでは、数人の人々が地図を広げ、話し合っていた。
その中の1人は女性で、会ったことはないはずなのに、何故か既視感を覚えた。なんでだ?
「あら、クラーラ姉様じゃない」
「ん? おお! ミアじゃあないか。ガンフ、御苦労!」
「いえいえ。滅相もございません」
「さて、それはそうと、レオンさん、こちらにお座り下さいな」
クラーラとミアに呼ばれた赤髪の女性は、僕を名指しで席に座らせようとする。
「あんたがここの指揮官なわけか」
「うむ。私はクラーラ・ランバルド。ミアの実姉だ。クラーラとでも呼んでくれ。レオンさん、あんたの噂は常々聞いてるよ。なんでも、オリハルコン級冒険者なんだとか」
「まぁ、一応な。とは言っても、付与術士だから他のオリハルコン級と比べたらそこまで戦力になるわけじゃないぞ」
「そんなことは知っているさ。だが、あのエルダーリッチを倒すにはあんたの協力は不可欠だからねぇ」
「エルダーリッチか……。ところでやつはどこにいるんだ? パッと見、戦場では見当たらなかったぞ」
「そりゃあそうだろうねぇ。やつは後方にいるんだから。あんたらもあの瘴気を纏った魔力の雨を見たはずだろう? エルダーリッチは、アンデッドを我々にけしかけつつ、安全なところから大規模魔法で攻撃してくるのさ」
「うーん。厄介だな。アンデッドを生み出しているエルダーリッチさえ倒してしまえば、後は残党を狩るだけで楽なんだが」
「で、なにか策は考えてあるというの?」
「ふっ。一応決めてはいる。早速、レオンさんの力を借りることになるけどね。」
クラーラが作戦内容について語りだす。まず、戦場から比較的戦力になる冒険者や兵士を集め、僕の付与魔法で強化する。
そして、アンデッドたちを一掃するという計画だ。
土魔法などによって遠距離攻撃を防ぎつつ、エルダーリッチが生みだしているよりも早くアンデッドたちを殲滅する。
これによって、エルダーリッチとの距離を縮め、やつを攻撃する予定だ。
さらに、僕が前線で派手に付与魔法を使うことで、エルダーリッチの注目を僕に集める狙いもある。
◆❖◇◇❖◆
「身体能力強化、魔法攻撃力強化、物理防御力強化、魔法防御力強化付与!!!!!」
「おお! これが付与魔法の力!!!」
「力がみなぎってきたな!!!!」
「野郎ども、行くぞーーー!!!!」
平均よりも強い冒険者や兵士が強化されたことによる効果は凄まじかった。
アンデッドの大群が押し寄せてくるも、彼らはまるでバターのように切り裂かれる。
エルダーリッチによって、瘴気を纏った魔力の雨が降り注ぐも、それらは魔法士たちが作る土壁によって防がれた。
「ぐるあああああああああ!!!!!」
アンデッドたちの3割ほどを滅ぼしたところで、エルダーリッチに動きがあった。
今のままではまずいと感じたのか、エルダーリッチは僕のところに死神の鎌――デスサイズを握って近づいてきた。
魔法だけじゃくて近接もいけるとかまじかよ。だが、逆に好都合か。わざわざ向こうから近づいてきたくれたんだからな。
デスサイズが僕を真っ二つにする前に、ミアがロングソードでデスサイズを防ぐ。
エルダーリッチはかなりの速度で飛び込んで来たが、ミアも当然強化されているので受け止めきれた。
エルダーリッチは一度僕らから距離を取ると、今度は紫色の球を生成しこちらへ放ってくる。
「気をつけて〜。多分あれは即死魔法だから」
エマは純白の魔力を放つ。それは紫色の球とぶつかると、消滅した。
エルダーリッチは続いて、2体の骸骨騎士を召喚してきた。
「
だが、クラリッサが放った矢の先端が空中で2つに分岐し、骸骨騎士の頭を直撃する。
エマによって白魔法も付与された矢は一撃で強力な骸骨騎士たちを滅ぼす。
「グゥ。ヒトノコノブンザイデヤリオルナ」
エルダーリッチは呻くように呟いた。重低音で、耳障りの悪い声だから、なんとも不快だ。
「一応何度も死線はくぐり抜けて来たんでね」
「ナラバコレハドウダ」
エルダーリッチはデスサイズを死の魔力で包み込み、こちらに振るってくる。
あれだけの瘴気がまとわりついてるなら、かすっただけでも死ぬかもしれない。
おまけに、エルダーリッチは魔法で自身を強化したのか、先程よりも素早く近づいてくる。
「チィッ」
僕は慌ててショートソードを構えるが、デスサイズはショートソードを切り裂いてしまった。
凶刃が僕に近づいてくる。しかし――。
ガキィン!
僕の目の前に突如として現れた純白の障壁により、デスサイズは弾かれる。
「はぁはぁ。良かった、間に合った」
エマが額に汗をかきながら、胸を抑えている。相当な魔力を消費したのか、彼女は倒れ込んでしまった。
「エマ!」
「レオン! さっさと私をもっと強化しなさい!」
僕は急いでミアに込められる限りの魔力で彼女を強化する。
「はああ!」
ミアは再び僕に近づいてきたデスサイズを弾き、そのままエルダーリッチと剣戟を繰り返す。
何度かの剣戟の後、クラリッサが矢を放った。
「コザカシイマネヲ」
エルダーリッチはミアと刃を交差させた時、力を込めてミアを吹き飛ばす。
そして矢を受け止めようとした。だが、矢はエルダーリッチに当たる直前で弾け、煙幕を作った。
僕はその間に自分を強化し、予備のショートソードを取りだす。
「たああああ!!!!」
ありったけの力でショートソードをエルダーリッチの弱点である頭部に叩きつける。
エルダーリッチの頭は真っ二つに両断された。
「グゥ! オノレオノレオノレーーー!!!」
怨嗟の声をだしながらも、エルダーリッチは消滅していった。
◆❖◇◇❖◆
「おいおい、しっかりしな、レオン先生」
学長室にて、クラーラはビシバシと僕の背中を叩いてくる。
「痛ててて。やめてくれよ。素の僕はあまり丈夫じゃないんだぞ」
オリハルコン級冒険者とはいえ、戦士などではない僕の耐久力は一般人とあまり変わらないのだ。
「ははは。あんたがしっかりしてないのがいけないんだよ。今日は復帰日だってのに、そんなしみったれた顔をしているからさ」
そう。あの戦いの後、僕はランバルド家から功績を認められ、サンタリア学園に復帰することができた。
エルダーリッチを倒したのが僕で、おまけに多くの人々に強力な付与魔法を施したという話は瞬く間に広まった。
そのため、僕に教えを請いたいという人が僕に殺到。無事僕はサンタリア学園の教師として再び働くこととなったのだ。
ラスター学長にクビだと言われた時、あっさり引き下がったのは、正直もう付与魔法を学園で教えて続けるのは限界だろうと思っていたからだ。
なので、僕がエルダーリッチを倒した功績が広まったおかげでこうして教師として復帰できるようになるとは思っていなかったな。
「おーい。大丈夫かい?」
「ああ。ちょっとぼーっとしてたけど大丈夫だ。じゃあ行ってくるよ。クラーラ
言い忘れていたが、クラーラは新しいサンタリア学園の学長だったりする。
教室の前に着くと、一呼吸してから扉を開ける。
「あら、やっと来たのね。遅いじゃない」
「女の子を待たせるなんて悪い人だな〜」
「遅刻ではないけど、余裕を持って来るべき」
「善処するよ」
彼女たちは3人仲良く前の席に座っている。他にも、教室は多くの生徒たちがいるので満席だ。
「さて、それでは授業を始めよう」
教師をしていた補助魔法士は学園を追放されましたが、どういう訳か教え子の公爵令嬢たちが着いてきました~彼女たちと冒険者パーティーを結成したので毎日幸せです~ 紫水肇 @diokuretianusu517
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