第31話 アンデッドと戦おう!

 ランバルド公爵領領都とペレ砂漠の中間地点にて、簡易的な陣地が形成されていた。


「第6波、来ます!」


 リオはその声を聞き、目の前の喰種グールの頭を切り落とすと、半壊した建物に避難する。


「ぐるぅ?」


 机の下に入った瞬間、リオは右足のくるぶしを掴まれるのを感じた。見ると、そこには下半身を負傷させたゾンビが彼の足を掴んでいる。


「しまった!」


 しかし、ゾンビがリオの太ももに噛み付こうとした刹那――。


 大きな轟音が響いたかと思うと、建物の壁が避けて、瘴気を帯びた黒い魔力が飛んできた。リオは慌てて身を翻し、机を盾とすることでそれを防ぐ。


 ゾンビは当然、その攻撃を躱すことはできず、闇の魔力によってズタズタに引き裂かれた。


「くそっ。全ては防げなかったか」


 リオは眉間に皺を寄せながら、左肩に右手を添える。痛みに耐えながら、建物をでると、そこでは地獄のような光景が広がっていた。


 多くの人々が再びやって来ようとするアンデッドたちに矢を放ち、負傷者の手当をしている。死体は至る所に転がっており、それらはすぐに燃やされている。


 瘴気を浴びた死体はアンデッドとして生き返る可能性があるからだ。おかげで、辺り一帯には肉の焦げるような匂いが立ち込めている。


 暫く肉は食べたくないな、などと思わず呑気なことを考えそうになる。


「リオ! 無事でしたか」


 アンネがこちらに駆け寄ってくる。


「なんとか。痛てて」


「肩から血が流れているじゃないですか。これを」


「助かる」


 アンネから渡された回復ポーションを肩に振りかける。途端に、左肩の傷は癒えた。


「サラとドミニクは無事か?」


「ええ。別方面で戦っています」


「そうか。なら、俺も戦わないわけにはいかんな」


 そう言うと、再び侵入してくるアンデッドの群れに近づいていく。


「うわああああ!!! 助けてくれ!!!」


 近くの冒険者が足を負傷し、動けなくなっているところへ、2頭の喰種グールが食い殺そうと襲いかかってくる。


 リオは冒険者の前に立つ。


「ダブルスラッシュ!」


 ロングソードに無属性の魔力を纏わせ、2頭の喰種グールたちに切りつける。1頭の喰種グールは首と胴体が切り離され、絶命した。


 しかし、もう1頭は急所を外してしまったため、首を切り落とすことはできず、掴みかかってきた。


「伏せて!」


 アンネの声と同時に、リオは頭を下げる。


 ビュン。


 頭の上を、高速で矢が飛んでいく。矢は喰種グールの頭を貫通し、喰種グールは倒れた。


「おーい!」


「大丈夫か!」


 2人の冒険者がリオの元に駆け寄ってきた。


「俺は問題ない。だから、早くこの人を!」


 怪我をした冒険者は、そのまま2人によって後方へと担がれていく。


「リオ、危ない! 後ろ!」


 アンネの叫びにより、危険を察知したリオは、大きく跳躍し、なんとか騎馬突撃をかわす。


 突然現れたアンデッドの騎士と馬は、簡易的に作られた宿舎に衝突し、動きを止めた。


 アンデッドは首がなく、半曲刀型のサーベルを装備している。


「こいつはまさか、デュラハン」


 首なしの騎士は馬から降りると、サーベルをこちらに向けてくる。アンデッドの馬は、近くの冒険者たちの方へと向かう。


「俺とやり合おうってことか」


 そう呟いたのを皮切りに、デュラハンはリオに向けて、サーベルを垂直になぎ払う。


 リオはロングソードで受け止めるも――。


「!? 重っ!」


 想像以上の威力に耐えきれず、後ろへと軽く吹き飛ばされる。余りの衝撃に、リオは腕がじんじんするのを感じた。


 しかし、休んでいる暇などない。無尽蔵な体力を持つデュラハンは、そのままサーベルで突きを放ってくる。


「はああ!」


 リオはデュラハンの突きを下からすくい上げるようにしてロングソードをあて、サーベルの軌道をずらした。


「閃光斬!!!」


 ロングソードを発光させながら、高速でデュラハンを切りつける。デュラハンは反撃する間もなく、真っ二つに切り裂かれた。


「ふぅ。やったか」


「第7波、来るぞーーー!!!」


 アンデッドの群れの奥から、莫大な魔力の気配を感じる。


「しまった! もう身を隠せる場所がない」


 連戦により、辺りの建物は全て破壊されている。デュラハンが破壊した宿舎が近くにある最後の建物だった。


 元々土魔法などで建造したもろい陣地なだけあって、耐久性も大したことはない。だが、ないよりは遥かにましだった。


「どうしましょう……」


 アンネもあたふたし始める。


 瘴気を纏った魔力の雨が、高速で降り注いできた。どこかに隠れなければ、全身が穴だらけになってしまうだろう。


「くそっ。これまでか……。いや、せめてアンネだけでも!」


「きゃっ! ちょっとリオ! なにを考えているんですか!」


 リオはアンネを抱き寄せ、自分が盾になろうとする。


「サラとドミニクのことは任せたぞ」


「放してください! こんなところであなただけが犠牲になるなんてずるいです!」


「ははは。もともと俺はそういう人間だからな」


 リオは目を瞑る。しかし、いつまで経ってもなにも起こらない。


 不思議に思い、目を開く。そして後ろを振り返った。


「なんだこれは?」


 そこには、頑丈そうな土壁によって、魔力の雨が全て防がれていた。


「大丈夫かしら?」


 土壁の近くには、赤髪の少女がいる。


「お、お前はレオンさんの所の!? ミアさんじゃないか!」


「なんとか間に合ってみたいで良かった」


 少女の傍にレオンにエマ、クラリッサ、ガンフが近づく。


「おお! 来てくれたのか!」

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