第30話 公爵家からの要求を呑もう!

「ちょっと待て。その祭壇とやらには見覚えがあるぞ」


 確か、真っ二つになってた不気味なやつだったはず。おまけに、何かが這い出たような痕跡があったような……。


「そうなのですか」


 あくまで推測ですがと前置きした上で、ガンフは語りだす。調査隊が調べたところによると、例の祭壇は何かを封印するための施設だったらしい。


「つまり、そこにエルダーリッチが封印されていたと……」


「ええ。おまけに、祭壇の下にあった液体ですが、大量の魔力が含まれていたそうですよ。魔力の補充をそこで行いながら、アンデッドの数を増やしていたに違いありません。魔力の補充に来たところに、調査隊がいたので襲われたものと思われます」


「つまり、私達もタイミングが悪ければ、調査隊のように襲われてた可能性がある」


「お嬢様方が無事で本当に良かったですよ」


「で、そのアンデッドたちは今どこにいるんだ?」


「現在はランバルド公爵領領都とペレ砂漠の間にある草原にて、領軍や冒険者たちが戦っています」


「こちらの冒険者ギルドには戦闘が始まったなんて連絡は来てなかったわよ」


「戦闘が始まったのが昨晩ですからね。これから徴集がかかるかと」


「それはそうだろうけど、結局僕たちにも戦闘に参加しろってことなんだろ? 一体どうしてなんだ?」


 わざわざ自分たちの娘まで戦闘に参加させる理由が思いつかない。


「レオン様は不思議に思われませんでしたか? どうして私がアンデッドの統率者がエルダーリッチだと断定したのかを」


「言われてみれば、確かに妙だな。普通のリッチと違う点でもあったのか?」


「その通りです。何しろ、エルダーリッチは古代ルーン文字を使って、アンデッドを量産し、更に統率しましたから。普通のリッチにはそんな芸当は不可能です」


 なるほど。普通のリッチは脳が腐っているのか、生前ほどの知能を持っていないことが多いからな。


 おまけに、古代ルーン文字を使った魔法なんてそんじょそこらのアンデッドには使えないはずだ。


「なので、エルダーリッチは通常のリッチより凶悪だとお考えください。彼らを倒すにはどうしてもオリハルコン級冒険者の助けが数人は必要なのですが……。今現在、ランバルド公爵領に拠点を置くオリハルコン級冒険者たちは全員領外にでてしまっているのです……。レオン様、あなたを除いてね」


「!? どうしてそうなった。別にオリハルコン級冒険者に限らず、貴族お抱えの兵士とかいるはずだろ?」


 だいたい、貴族自身もそれなりに鍛えている者が多い。領地を守ることが貴族の務めだと言えるし、あまりにひ弱だと舐められるからな。


 少なくとも、そんじょそこらの平民よりは圧倒的に強く、オリハルコン級冒険者には及ばずとも、アダマンタイト級やミスリル級冒険者相当の人物だってそれなりにいる。


「そうですね。しかし、今は国王陛下の即位記念パーティが開かれている時期ですから。領内の多くの貴族たちは出払っていていないのです」


「そんな馬鹿な……」


 いや、おかしくない? 危機管理能力ゼロじゃないか。


「でも、私たちの父上はいるのでしょ?」


「ああ、エマお嬢様やクラリッサお嬢様のお手紙ですが、あれは代官が書いたものですよ。通信水晶でグリーンフェルト卿やシュメール卿が口述したのを代官たちが書きとめたのです。彼らも今は王都ですよ」


 全員が沈黙する。あまりの杜撰さに、なんと言えば良いのか分からなくなったからだ。


「つまり、オリハルコン級冒険者である僕をエルダーリッチとぶつけるためにミアたちはだしにされたってわけか。彼女たちを徴兵すれば、僕もアンデッドたちと戦うことを断れないだろうとふんで」


「!? ガンフ、それって本当なのかしら?」


 ミアが問い詰めるも、ガンフはなにも答えない。ただ目を瞑って誤魔化しただけだ。


「何とか言いなさいよ!」


「レオン様、此度の戦闘には参加して下さりますよね?」


「もちろん。断る理由はない」


「ちょっと! そんなの理不尽だわ!」


「別に理不尽なんかじゃないぞ。僕だって一応ランバルド公爵領の人間なんだから、この領地がアンデッドたちに汚されるなんて許せない。だから僕は戦うさ」


「だからといって、こんな私たちを人質にとるようなやり方をされた人の言うことをいちいち聞くのも癪じゃないかなぁ」


「せめて報酬くらいはふっかけるべき」


「そうですね。報酬に関しては、ランバルド公爵様より、レオン様の要求を可能な限り呑むよう仰せつかっていますよ」


 報酬と言われてもねぇ。金にはそんなに困っていないし。


「なら、僕は……」

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