ヒーローになりたい私と本物のヒーロー
桜桃
第1話 ヒーローだって
「私はあなたのヒーローになるわ!!」
「…………厨二病乙」
「違うわよ!!」
今は病院。目の前には、白い肌に黒い髪。手には小説を持ち私に見向きもしない幼馴染がベッドの上に座っている。
彼は元々心臓に持病があり、入退院を繰り返している。今は、先週発作が起きてしまい緊急搬送された彼のお見舞い。
林檎を向いてあげ、お皿に乗っけながら話していた。
「厨二病なんじゃなくて、私があなたのヒーローになるの。貴方の病気は私が治してあげるわ」
「中学生にもなって、その発言は問題あると思うよ? いくら学校のテストで赤点を取り続けられるほどの頭脳だったとしても」
「うるさいわよ!!」
私が怒ると彼はケラケラと笑う。
笑い事じゃないんだけど!!!
「私、貴方の病気を治したいの。そして、沢山色んなところに行きたい。私と同じ景色を、見せたいの」
「俺は君の話してくれる内容だけでも充分楽しいから良いんだけどね」
「でも……」
「その気持ちだけでもすごく嬉しいよ。ありがとう」
隣に座っていた私の頭を優しく撫でる。温かいなぁ。
「…………うん。でも、私は諦めないからね!! 絶対に、病気を治してあげる! そして、ヒーローになってあげる!!」
「楽しみに待っているよ」
その後はたわいない話をして、私は家に帰った。
その時間がいつも楽しくて、いつも家に着くのは夜の8時過ぎ。
本当のことを言うと、もっとずっとに居たかった。だって、家に帰っても──……
「ただいま」
「あら、帰ってきたの? あなたの分のご飯はないわよ。自分でなにか作りなさい」
「うん」
「私は外に出かけてくるから」
「また、男のところ?」
「あなたには関係ないでしょ」
「うん、行ってらっしゃい」
お母さんは不倫。お父さんもずっと帰ってきていない。でも、お母さん以外の女性と腕を組みながら歩いている姿を見たことがある。多分、二人して不倫しているんだ。そして、お互いそれをわかって、何も言わない。
こんな環境にいるくらいなら……。
「…………ご飯、食べよう」
彼と一緒にいる時間は、夢の時間。すごく楽しくて、時間が過ぎるのが早い。
「私がヒーローじゃなくて、彼が私のヒーローになっているんだよなぁ」
またあした、病院に行こう。
※※
「え、手術受けるの?」
「うん。怖いけど、やっぱりやらないと進めない。こんな、入退院を続けるのも親に悪いし、頑張ってみようと思う」
真っ直ぐな瞳が私を見る。
嬉しく思う。もし、手術が成功したら、彼は自由になれる。でも、成功確率はすごく低かったはず。
私、怖いよ。
この、幸せな時間が失っちゃうんじゃないかって。ものすごく怖いよ……。
「怖い?」
「…………うん。なんで、私が怖がるんだって思うと思うけど、それでも……」
「でも、勇気をくれたのは君だよ?」
「え。私、何もしてないよ?」
「してくれたよ。君の楽しい話を聞いていたら、俺も外の世界を見たくなってきた。そのような気持ちにさせたのは、君だよ」
彼は優しく微笑み、私の頬に手を添える。
「…………分かった。私、めいいっぱい応援するから!!!」
「うん。ありがとう」
※※
数年後。私の隣には、彼がいる。
今、私達は色んなところに向かいカメラに収めていた。
「ここ、この角度から撮るといいかも!!」
「そうだな」
数年前、彼の手術は成功。無事に終わり、今では体の調子も良く色んな所へと足を運んでいた。
「こっちにも行こう!!」
「あ、おい待てって!」
走り回れる。好きな人と色んなところに行ける。それが、こんなに幸せなんて思わなかった。
結局、私はあなたのヒーローにはなれなかったけど、貴方は、私のヒーローだよ。
あの、
ヒーローになりたい私と本物のヒーロー 桜桃 @sakurannbo
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