第5話【いじめと天敵現る】
人は誰しも生命の中に善悪を持っている。人に対する思いやりや優しさが善、人を苦しめたり陥れたりする生命が悪とされる。
しかし、稀に悪だけの生命しか持たない人間がいる。
生まれつき悪の生命だけに染まっている人間もいるが、たいていは生きてきた過程のなかで、徐々に悪だけに染まる。
徐々に悪だけに染まった人間は、表面上善人ぶることが多い。一見良い人に見えるが腹のなか悪に染まっているという感じだ。
表面上は善人に見えることから、悪に染まった人間はどこにいるのかわからない。
冴羅と雷武が通う白尾学園にも完全に悪に染まった人間が、家族が存在した。
表面上は善人で、生命の奥が悪に染まっている人間。そんな人間が居るとはつゆ知らず、冴羅と雷武は学園生活を普通にエンジョイしていた。
ある日、雷武は斜め前の席に座る女子、村山詞羽が数日に渡って欠席していることに気がついた。
詞羽と書いて「ことは」と読み、古風な感じで良い名前だなと思い、編入して間もなく雷武から話しかけた。
名前のことを褒められて、詞羽は「詞」には心の中の気持ちが現れるという意味があり、「羽」を付けて言葉で人の気持ちを羽ばたかせる人になって欲しいとの願いを込めて付けられたのだと、嬉しそうに話した。
詞羽は声にも特徴があって動画サイトでゲーム実況配信をしており、それを聞いたゲーム好きの雷武は、詞羽とは他の女子より少しだけ仲良くなった。
しかし、中学二年という年頃は女子よりも男子の友達を大事にし、白尾学園が進学校ということもあって、最近ではあまり話さなくなっていたところで欠席していることに気づいたのである。
雷武は隣の席の女子に聞いた。
「ねぇ、村山さんって欠席が続いているよね?」
「は?知らない」
明らかに鬱陶しそうに返す女子。その感じに雷武はなんとなく嫌な予感がした。
雷武は昼休みに担任の先生に詞羽について職員室に聞きに行くと、この教師もまた鬱陶しそうに「具合でも悪いんだろう」と言うだけだった。
雷武は気になって、午後の授業が始まる前に後ろの席で授業の準備をしている利久斗に聞いてみた。
「ねぇねぇ村山さんって最近欠席してるみたいなんだけど、なんか知ってる?」
「え?知らないけど・・・なんで?」
「いや、なんか気になってさ・・・」
利久斗は若干冷やかしを含んだ感じで言う。
「えぇ?それってもしかして・・・」
「あぁ、別になんていうか女子として気になるとかじゃなくて、友達としてね。村山さんってSNSでゲーム実況してるんだよ。前にちょっと話したことがあってさ」
慌てることなく冷静に雷武が答えたため、利久斗の疑いは解けたようだった。
「へぇそうなんだ。そういえば唐さんと仲良いみたいだったけど・・・」
「あ、そうなんだ。了解。ありがと」
雷武は放課後、帰り支度をしている唐未里に話しかけた。
「あのさ、唐さんて村山さんと仲良いって聞いたんだけど。最近村山さん欠席してるよね?どうかしたの?」
未里は雷武に初めて話しかけられたことに少々驚きながら答えた。
「え?うーん。どうしたんだろうね。私にもよくわからない」
「あぁ、そうなんだ」
「私これから用があるから」
未里はさっさと教室から出て行ってしまった。
詞羽は翌日も学校を休んだ。
再び担任に聞いてみたが、前日と同じように無関心な対応。雷武は私立の進学校とはいえ嫌な感じだなと思いつつ、帰宅したのちパソコンを開いて動画サイトを開いた。
詞羽がやっているゲーム実況のチャンネルをチェックするためだ。詞羽のチャンネルの登録者数は十万人を超えていて、中学生の動画チャンネルとしては比較的人気の動画チャンネルになっている。
案の定、ここ数日は動画の投稿はなく雷武は動画のコメント欄をチェックしていった。
すると、直近の動画のコメント欄に気になる文章を見つけた。
動画配信などをしていると一定数のアンチが居て、コメント欄にも複数のアンチコメントがある。しかし、雷武が見つけた気になる文章は、ただのアンチコメントではなく、本人が特定できる内容が添えられたものだった。
コメント欄にあるアンチコメントはあくまでも動画を観たうえでのコメントであり、詞羽は顔出しもしていなければ本人と特定できる情報は一切載せてしていない。にもかかわらず詞羽と特定できる内容のコメントがあるということは、動画に出演しているのが村山詞羽だと知っている人間がアンチコメントを投稿したことになる。
『もしかしたら誰か近しい人間に嫌がらせを受けているのかもしれない・・・』
根拠のない考えではあった。
しかし、嫌がらせを受けている可能性が一パーセントでもある限り、全力で動かなければならない。
そういう性格というか、そういう家元で育ってきた雷武は、次の日から詞羽のことが気になって仕方がなくなった。
次の日の放課後、雷武は名簿に書いてある住所をもとに詞羽の家に行ってみることにした。
詞羽が住んでいるのは、雷武たちが住む中府市に隣接した二鷹市。
電車を乗り継ぎ住所の場所に行ってみると、そこは二階建ての古くも新しくもない、ごく普通のアパートだった。さっそく名簿に載っている204の部屋のピンポンを鳴らしてみる。普通クラスのそんなに話したことのない、しかも異性の家に行ってピンポンを押すというということに関して、ほとんどの人が抵抗するかもしれない。
しかし、大和家の人間はどんなことよりも人の苦しみを取り除くことを優先する。
そのため苦しんでいる可能性が少しでもある場合は、時には人の領域に土足で足を踏み入れるようなことになったとしても、何の抵抗もなく行動を起こす。
インターホンを二回押しても返答はなく、家の中から気配もまったく感じられなかったので、雷武はあきらめて階段を下りた。
詞羽が行きそうなところを探そうかと思い、とりあえず近所をブラブラしてみる。
しかし、ゲーム好きで動画配信をしていること以外詞羽のことを知らないことに気づき、行きそうなところ自体わかるわけがないと思った雷武は、駅前あたりをブラブラしたあと再び詞羽の自宅アパート付近まで戻った。
時刻は暗くなり始める、午後6時ちょっと過ぎ。
雷武が帰る前にもう一度ピンポンを押してみようと、詞羽のアパートが見えてきたところで、アパートの先の方から詞羽と母親らしき人が歩いて来るのを発見した。
二人の姿を確認した雷武は、瞬時に電柱の陰に隠れてしまった。詞羽の姿が学校で見る詞羽ではなかったからだ。
母親に支えられて歩いている詞羽は目を大きく開いてギョロギョロと動かし、切羽詰まった表情で何度も後ろを振り返っている。アパートに着くと支えていた母親の手を振り払い、すごいスピードで階段を駆け上がって部屋へと入っていった。
雷武はしばらく呆然としていたがスマホのメール音で我に返り、家から何をしているんだ的なメールが届いたため、その日はそのまま家に帰ることに。
帰りの電車で雷武は詞羽の身に何が起きているのだろうと考えてみた。
先ほどの詞羽の状態から、ひどく何かに怯えている感じだった。動画のアンチコメントも踏まえると、やはり身近な人間にいじめられている可能性が高い。しかも、あんなに怯えているということは、相当なことをされているに違いない。
雷武は同じ十五歳の女子があれだけ怯えることとはどんなことなのだろうかと考えてみたが答えは出ず、最寄り駅の円川駅に着いたため電車を降りて自宅へと帰った。
自宅へ着くなり、雷武は母一葉から「遅くなる時は連絡しなさい」とのお叱りを受け、夜ご飯を食べたあと冴羅の部屋をノックした。
いつもの雷武とは違う雰囲気を感じた冴羅は、雷武を部屋に招き入れて話を聞いた。
「なるほどね・・・女子が怯える理由か・・・」
「うん。わかる?」
「うーん・・・」
冴羅は考えてはみたが、自分自身そんなに怯えることがないため正直わからない。しかし、ふと痴漢に脅かされて怯えていた紗菜のことが頭を過った。
「あっ・・・」
「何?」
冴羅は性的に嫌がらせを受けているのかもしれないと思ったが、弟に性に関することを話すことに若干の恥ずかしさを感じて言葉を飲み込んだ。
「何?なんか思いついたんなら教えてよ」
雷武が痺れを切らせた感じで問うと、冴羅は重い口を開いた。
「なんていうか・・・性的に嫌がらせを受けているのかも・・・」
「性的?あっエロいことされてるってこと?」
雷武が恥ずかしさを微塵にも感じさせず、あっけらかんとして返してきたので、冴羅は自分が恥ずかしさを持ったことに対して恥じた。
「そうね。多分だよ。多分」
「なるほど・・・そうか・・・」
雷武は、自分の部屋に戻りベッドに寝転んだ。
『もし詞羽が誰かに性的な嫌がらせを受けているとすると、男の自分には絶対に話さないだろう。しかも元々あまり話したこともないので、会いに行っても会ってくれる確率は無いに等しい・・・』
ひどいいじめを受けている女子に対して、男子でしかもあまり話したことのない自分には何ができるのだろうと考えていると、部屋のドアがノックされた。
返事をすると冴羅が顔を出した。
「雷武。協力できることがあったら遠慮なく言いなね。もしその村山さん?って子が限度を超えたいじめを受けてたら同じ女子として見逃すわけにはいかないからさ」
「え?あ、うん。ありがと・・・」
再びベッドに横たわって自分には何ができるのだろうと考えてみた結果、自分にできることは、とにかく加害者を特定していじめの証拠を掴み、いじめを止めることだと思った。
次の日。全ての授業が終わり、雷武は再び帰り支度をしている唐未里に話しかけた。
「ごめんね唐さん。村山さんのことなんだけど・・・」
「え?」
「実はもしかしたら、村山さん誰かにいじめにあっているかもしれないんだよね」
未里は再び雷武に声をかけられたことと詞羽について話されたことに若干困惑した感じではあったが、いじめと聞いて驚いた。
「え?いじめ?まさか・・・」
「まだ確証はないんだけど、もしそうなら心配だからさ・・・」
「そうだね。私からも連絡してみるよ」
未里の言動は一見普通に見えたが、雷武は未里の眼の奥に若干の濁りがあるのを見逃さなかった。
「うん。ありがと。よろしく・・・」
雷武が言うと未里はカバンを持ってさっさと教室から出て行った。
未里を見送りながら雷武は嫌な感じがし、その日帰宅してすぐに兄武の部屋をノックして全ての事情を話し、詞羽の動画チャンネルに詞羽の身元が分かる書き込みをした人物を特定できないか聞いてみた。
武は人物を完全に特定するのは時間がかかるが、その人物がどこで何を投稿しているかなどは容易にわかると答え、雷武が部屋から出て行くときに改めて声をかけた。
「雷武。今回の件はちょっと大きな問題になるかもしれないから、ひとりで抱え込まないで逐一僕や家族の誰でもいいから話すんだよ」
「うん。わかった」
次の日から雷武は未里の行動を注視することにしたが、学校内では特に怪しい言動は見られなかった。
数日が経ったある日、雷武が帰宅すると武に呼ばれた。
武によると詞羽の動画サイトにアンチコメントを投稿した人のうち身元が分かるようなコメントをしたのは一人ではなく数人いたという。
しかも、その全員が他の人のサイトやSNSへのアンチコメントの投稿はしていなく、詞羽の動画サイトだけにコメントを投稿していたことがわかった。
また詞羽がゲーム配信者とのことからコミュニティアプリなどでゲーム仲間などとコミュニケーションを取っているのではないかと思い、探ったところゲームに特化したコムコミュニティアプリの「ピスコード」や日本最大級のゲームのコミュニティプラットフォーム「Pobi」を利用していることがわかったという。
すぐに入り込んで確認しPobiのプライベートグループチャットで結構なやり取りがおこなわれていることがわかったとのことだった。
そのなかで詞羽は数十人の男子と思われるアカウントから性的な言葉を投げかけられ、数日前のやり取りでは、数名から卑猥な動画や画像を「MINE」で送るよう脅かされていた。
MINEが出てくるということは、少なからず詞羽と個人的な繋がりがある人間で、会ったことのある人間の可能性が高い。しかも、驚きなのはその数人のなかには女子と思われる内容のコメントもあり、女子からも性的な嫌がらせを受けていることだった。
女子からも嫌がらせを受けていることを知った雷武は、真っ先に未里の顔が思い浮かんだ。具体的な根拠はないが、未里からは直感的に嫌な感じがしていたからだ。
次の日もさらに注意深く未里を監視したが、特に怪しい行動はなく放課後を迎えたところで、兄の武からメールが入った。
そこには、今日何かしらの動きがあるかもしれないとあった。
雷武はすぐに未里の姿を探すが見当たらず、隣の女子に聞くとすでに帰ったとのこと。
急いで外へ出て未里を探したが見当たらなかった。雷武はとりあえず詞羽の家に向かうことにして電車に乗り込んだ。
車中、雷武は武にメールの返信をし、何かしらの動きとは何なのかを問うた。
数分後に返信が来て、Pobiのプライベートチャットのなかでリーダー格の呼びかけに対して多くの人が集まり、卑猥な言葉が行き交う会話が始まって、最後にその中の一人が詞羽を呼び出そうという話になったという。
雷武は同級生の女子が同世代の人間に性的なことで嫌な思いをさせられていると思うと、なんだか胸奥から吐き気がこみあげてくるような嫌な気分になった。
中学三年で多くが十五歳という年齢は思春期であり、異性に性的な興味を持つのは当たり前だ。しかし同時に、共に学ぶ異性の同級生を性的に見ることに罪悪感や嫌悪感となる時期でもある。雷武はまさに思春期特有の葛藤のなかにいて、嫌悪感の方が勝っている状態であった。
電車が詞羽の自宅の最寄り駅である二鷹駅に着いた。雷武は急いで詞羽のアパートに向かい、息切れた状態でインターホンを押したが誰も出なかった。前回と同じ二回鳴らしても出てこなかったため、とりあえずまた駅前あたりを探そうかと階段を下りると、誰かに話しかけられた。
「その制服・・・」
「え?」
雷武が声の方へ顔をやると、中年のどこかで見覚えのある女性が目を丸くして立っていた。数日前、詞羽と一緒にアパートに入っていった母親と思われるその女性は、凄い勢いで雷武に向かってきて雷武の両肩を掴んで激しく揺さぶりながら言った。
「詞羽はどこですか?どこへやったんですか?」
「え?え?ちょっ・・・違う・・・僕も詞羽さんを探してて・・・」
「は?何を言ってるの?あなたたちでしょ詞羽を呼び出したのは。警察行きましょ」
その女性の勢いは止まらず、雷武は手を強く引かれて歩かされた。
雷武はへたに抵抗すると状況を悪化させることになるだけだと思い、とりあえず抵抗せずに勢いに従って歩いた。そして、数十メートル歩いたところで優しい口調で言った。
「あの、詞羽さんのお母さんですよね?」
「そうよ!」
「僕、詞羽さんとクラスが一緒で大和雷武と言います」
詞羽の母は聞いていない様子で、雷武の手を強く握ったままスタスタと歩き続けている。その手には娘の発見のために絶対に逃がすものかという強い意志を感じた。
「僕、白尾学園に編入してきて間もなくて、詞羽さんとはちょっと話しただけなんですけど・・・そうだ詞羽さんの名前には言葉によって人を羽ばたかせて欲しいとの思いが込められているんですよね?」
その言葉を聞き、詞羽の母は立ち止まった。
「あなた・・・なぜそれを?」
「詞羽さんと話したときに聞きました」
詞羽の母は困惑した表情になった。
「あなた、詞羽に嫌がらせをしていたんでしょ?」
「僕はしていません」
「え・・・」
詞羽の母は、強く握っていた雷武の腕を話した。
「僕は最近欠席している詞羽さんのことが気になって、それで来てみただけです」
「そうなの?・・・なんかごめんなさい」
「いえ、それより詞羽さんはどこかに行ってしまったんですか?」
雷武が言うと詞羽の母は戸惑いを見せた。
「えっと・・・どうしましょ・・・」
「大丈夫ですよ。僕はおおよその事情はわかっていますし、詞羽さんの力になりたくて来たんですから」
「実は・・・」
雷武は詞羽の母から、詞羽がインターネットのなかで嫌がらせを受けていて今日になって誰かに呼び出されたらしく、行かなくていいと止めたが目を離した隙に出て行ってしまったと聞かされた。
とりあえず詞羽の母には家に戻ってもらって詞羽からの連絡と帰りを待ってもらい、雷武が詞羽を探すことに。
詞羽が誰に何のために呼び出されたのかということを考えながら、とりあえず駅の方に向かった。
詞羽はこれまでインターネットのなかで嫌がらせを受けてきた。それが今回は誰かに呼び出された。普通に考えれば、面識のない人間に呼び出されても行かない。会いに行ったということは、少なからず一度は会ったことがある人間の可能性が高い。
雷武の頭には再び未里の顔が思い浮かんだ。
また、ネットのなかの嫌がらせというのは簡単にいえば言葉、文章によっての嫌がらせだ。しかし、今回は本人を呼び出したとのことで言葉だけではなく、詞羽自身に危害を加えようとしていることは明白。雷武は一刻も早く詞羽を探さなければと思い、走って駅に向かった。
駅前についた雷武は、とりあえずカラオケボックスをしらみつぶしに探すことに。人目を気にせず嫌がらせをできる場所はどこかを考えたときに、カラオケボックスが浮かんだからだ。
駅前にある計三件のカラオケボックスを隈なく探したが、それらしき人たちは見つけられなかった。これからどうしようかと考えていると、携帯が鳴った。出てみると詞羽の母からで、詞羽が帰ってきたとのこと。しかし、詞羽はとても人と会える状態ではないため、今日のところは帰ってくれないかとのことだった。詞羽の母は何度も申し訳なさそうに謝り、
礼を言っていた。
雷武は家に帰って武の部屋をノックし、状況を説明。武は冴羅も部屋に呼び、これまで色々なところへ潜り込んで探った結果を二人に伝えた。
雷武は、初めなぜ冴羅も部屋に呼んだのか理解できずにいたが、すぐにその理由を理解した。
武によると詞羽に嫌がらせをしている主犯格らしき人物は白尾学園の二人の生徒で、高等部の唐みつると中等部の唐未里。二人は兄妹で未里の名前を聞いて雷武はあまり驚かなかったが、冴羅は唐みつるの名を聞いてひどく驚いた。
冴羅の印象では、みつるは爽やかな好青年で生徒会の副会長も勤めており、二年のなかでもクラスを超えて男女関係なく人気があっていじめなどするタイプには見えなかったからだ。
また、正直なところ冴羅自身みつるのことが一人の男性として気になり始めていた。そのため武からみつる名を聞いた時には衝撃が走り、何度も本当にそうなのかと確認していた。
そんな冴羅の女心に気づくことなく、武は淡々と唐兄妹の仕業だという証拠を冴羅と雷武に提示していった。
証拠となるメッセージや音声、動画などが明らかにされるなか冴羅と雷武の表情がみるみる怒りの表情となっていく。
全ての提示が終了する頃には、冴羅のみつるに対する甘い想いは一切なくなっていた。
冴羅は同級生のしかも生徒会の副会長を務めて自分も好意を抱いていた人気者が、裏で女子中学生に自慰行為を強制し動画まで撮らせたということに腹わたが煮え繰り返り、雷武は仲良くなった同級生が多くの人間に嫌がらせを受け、自慰行為まで強要されたことにこれまでない怒りの感情が精神全体を支配していた。
二人の表情を見て武は間違いなく二人が暴走すると思い、家族会議を提案。その日の夜に恒例の家族会議が開かれた。
武がこれまでの経緯を説明し、詞羽が受けている嫌がらせを知った聡司と一葉の顔は曇った。
そして、詞羽の家が母子家庭であることから、まずは一葉が詞羽の母と連絡をとって話を聞くことが決まり、会議は終わる雰囲気になった。
聡司、一葉、武が片付けを始めると雷武が言った。
「ちょっと待ってよ。それだけ?僕は?僕は何をすればいいの?」
「とりあえず、今は特にはないかな・・・」
「え?」
「今回僕が集めた証拠は違法行為スレスレの方法で手に入れたんだよ。だからこれらを元に相手を追い詰めることはできない。これを相手に提示した時点で、なぜこれを手に入れられたのかと追及されて逆に相手側から訴えられることも考えられる・・・」
武が説明すると、雷武は納得できないといった様子で言った。
「いやいやいや、だからって何もせずに待ってろっての?その間に村山さんに何かあったらどうするの?」
「そうよ。とりあえず私は、唐を締め上げる」
冴羅が雷武に乗っかり、さらに雷武が続く。
「僕も直に唐さんを問い詰めて動画を撮らせた連中を聞き出して、そいつらを痛めつけるよ」
「ちょっと待ちなさい。今から村山さんのお母さんに電話するから。どちらにしても、今からじゃ動けないでしょう?」
一葉が言うと二人は落ち着きを取り戻し納得した。
一葉はすぐに詞羽の自宅に電話し母親と話した。
突然の電話に詞羽の母は始め困惑したようであったが、電話を切る頃には一葉に心を開いた様子で何度もお礼を言っていたと一葉は言った。
次の日から引き続き武はネット上から監視し、雷武は未里を監視することに。加えて初めて事実を知った冴羅もみつるを注意深く監視するようになった。
ネット上ではみつるや未里、周囲の取り巻きの連中が詞羽に対する中傷などのコメントが相次いだが詞羽自身が参加している様子はなく、実際の学校生活での、みつるや未里の態度にも大きな変化はみられなかった。
そんななか、詞羽の母から一葉の元に詞羽がいなくなったとの連絡が入った。前日の夜に突然姿が見えなくなり、丸一日経っても帰ってこないとのこと。すぐに武がネット上に潜り込んで探ったが、今回は誰も詞羽を呼び出した形跡はない。
次の日、詞羽が誰からも呼び出されていないことはわかっていたが、いろいろ我慢の限界を超えた冴羅と雷武がそれぞれみつると未里に接触した。
冴羅は昼休みに友達と廊下を歩いていたみつるを捕まえて言った。
「私、あんたが中等部の村山詞羽ちゃんに何やってるか全部知ってるからさ」
「え?」
「あの子に何かあったら絶対に許さないから。マジで」
冴羅が去るとみつるは一瞬焦ったような表情になったが、すぐに一緒にいた友達に「なんか誰かと間違えられてるみたいだね」といって、何事もなかったかのように歩いて行った。
雷武は放課後、帰り支度をしている未里のところに行って未里の机を思い切り叩いた。未里は驚き一瞬慄いた。
「村山さんはどこ?」
「は?」
「『は』じゃないよ。つかさ、君ら兄妹が中心となって村山さんにしていること全部知ってるからさ。僕さ、そういうの絶対に許せないんだよね。まぁいいや。とにかく村山さんに何かあったら、ただじゃ済まないからよろしく」
雷武が教室から出ようとすると、仲の良い利久斗や竹流、かつて竹流をいじめていた相原秀人たちが駆け寄ってきた。
「なにどうしたん?」
「え?あ、いや・・・」
雷武は戸惑った。今回の件で友人たちを巻き込みたくはなく、できれば自分と家族で何とかしようと考えていたからだ。
雷武がどうしようかと黙っていると、秀人が若干イラついた感じで言った。
「何?どうしたん?もしや僕らには話せないって感じ?」
秀人たちとは竹流のいじめの件以来仲良くなっていただけに、雷武は話すかどうか瞬時に判断しなければならなかったが、せっかく腹を割って仲良くなった友達なので正直に話そうと決めた。
「いや実は最近村山さんが学校を休んでるんだけと、唐さん兄妹が中心になっていじめていることがわかってさ」
「えぇ?マジで?」
意外なことを聞いて、皆が驚いた。
「うん。でもネットのなかでのことだから明確な証拠もなくて・・・でも昨日から村山さんが家に帰ってないらしくてさ・・・だからつい直接本人に言っちゃったんだよね・・・」
「なるほど・・・で?どうするの?」
秀人が何でも力になるというような感じで聞いてきた。
「あっ、あのさ、まだ確実なことが言えないから唐さんのことはおいといて、とにかく村山さんを探すのを手伝ってくれないかな・・・」
「了解。じゃ手分けして探そうよ」
それから、雷武たちは二鷹に向かい詞羽の自宅周辺中心に探しまわった。
皆がそれぞれ塾などの用があるなかで懸命に探し、雷武も皆に感謝しつつ探したが見つからなかった。
夕方六時を回ったところで遅くなるとそれぞれの親が心配すると思い、雷武は秀人たちに丁重にお礼をいって解散を提案した。
多くが帰るなかで秀人と利久斗、竹流が残った。
「今日はホントにありがとね・・・」
雷武が改めてお礼を言うと、秀人が若干不満げに言った。
「つか、なんでお礼を言うん?村山と付き合ってるの?」
「え?いや、そういうわけじゃないけど・・・」
「だったら謝る必要はないよ。村山は僕らの同級でもあるんだから」
「そうだよ」
利久斗と竹流もハモリながら秀人に同調した。
「・・・ありがと」
「これからどうするの?」
秀人が聞くと雷武はちょっと考えてから言った。
「僕は、もうちょっと探そうかな・・・」
「じゃ、僕も探すよ」
「僕も」
「僕もまだ大丈夫」
三人が同調したが、雷武は皆が怒られやしないか気がかりでならない。
「いやいやダメだよ。親御さんが心配しちゃうよ」
「大丈夫だって」
「ダメだって」
このやりとりを何度か繰り返していると、雷武のスマホが鳴った。
画面を見ると母の一葉の携帯からで帰りが遅いとの電話かと思い、皆に「ほらぁ。怒られるよ。きっと・・・って僕の親だ」といってから出ると、今まで聞いたことがない一葉の焦りと悲痛な声が耳に入ってきた。
「雷武?今どこ?詞羽さんが中府病院に救急搬送されたの」
「え?」
「とりあえずお母さんは病院に向かうから雷武も来れたら来なさい」
「わ、わかった・・・」
電話を切った雷武が呆然としていると、電話での反応が想像とは違ったため代表して秀人が口を開いた。
「どうしたの?何かあったの?」
「え?あぁ、なんか村山さんが中府病院に救急搬送されたって・・・」
「え?何で?」
「わ、わからない・・・」
「とりあえず行こう」
「え・・・あ、うん」
四人は何が何だかわからないまま二鷹駅に向かい、二鷹駅に着くと秀人がスマホを片手に皆に言った。
「僕は親に電話すれば一緒に行けると思う。利久斗と竹流はどう?」
「大丈夫だと思う」
「僕も」
「じゃすぐに電話しよう!」
三人はそれぞれ親の了承を得るために電話をし、その間も雷武はこれまでにない気持ちの動揺と戦っていた。
三人が電話を終え、秀人が未だ呆然としている雷武の肩をポンと叩き「行こう」と言った。
雷武はその言葉に我に返って「うん」と返事したが、すぐに立ち止まってしまった。病院までどう電車を乗り継いで行けばよいのかわからないのだ。
それを見た秀人は、雷武の手を引きながら言った。
「自慢だけど、僕の家は金持ちなんだよね」
「え?」
「ぶっちゃけ電車は肌に合わないんだよ」
そう言って四人はタクシー乗り場に行き、秀人の奢りでタクシーに乗って病院に向かった。
雷武は車中、友達って良いもんだなと思った。
これまで多くの引っ越しをし、その都度学校が変わって友達との出会いと別れを繰り返すなかで、雷武の心のなかに『友達を作っても、どうせすぐに別れが来る』というような冷めた感情が芽生えていた。
竹流がいじめに遭っていたとき、流れで雷武もいじめを受けて仲間外れにされた。
その時、特に何の感情も湧かず、動揺しなかったのは山籠もりなどで精神を鍛えられたのもあったが、この冷めた感情のせいもあった。
しかし、今回の秀人や利久斗、竹流に詞羽を一緒に探してくれた皆の気持ちが雷武の心に響き冷めた感情を暖かなものにしていた。
できればずっとこの学校に居たいなと思いつつ、雷武はタクシー車窓から街なかの景色を眺めていた。
タクシーが病院に着き時間外出入口から病院内に入ると、一葉がひとりソファに座っていた。
雷武たちが駆け寄ると一葉は気づいて立ち上がった。
「雷武」
「お母さん。村山さんは?」
「今、集中治療室よ。彼らは?」
雷武はクラスメイトだということと一緒に詞羽を探してくれたこと、他にも多くの男子が探してくれたことを説明し、秀人を始め皆が一葉に挨拶した。
「で、何があったの?」
雷武が改めて聞いた。
「それが・・・まだわからないのよ。詞羽ちゃんのお母さんが警察から説明を受けて、今はお医者さんから説明を受けているから・・・」
「そう・・・」
皆が待っていると、救急の診察室から詞羽の母が出てきた。
一葉が駆け寄ると詞羽の母は泣き崩れた。その光景を見た雷武たちは近づくことができず、ただ茫然としていた。
何分経っただろうか・・・
一緒にしゃがんで背中をさすっていた一葉が詞羽の母を抱きかかえてソファに座らせ、雷武へ合図を送った。
雷武たちは詞羽の母もとへ行ったが何を話してよいのかわからず、黙って詞羽の母に会釈だけした。
詞羽の母は「ありがとね・・・」と、か細い声で言ったっきりだった。
一葉が雷武たちを促して出入り口付近まで連れて行き、状況を説明した。
詞羽は二鷹駅からバスを乗り継いで加摩川を通る国道にあるバス停で降り、すぐにカッターで手首を切って川に飛び込んだ。躊躇することもなく、ほんの数秒の出来事だったらしい。
一緒に降りた乗客の一人がすぐに警察と消防に通報して、何とか一命をとりとめたとのことだった。
詞羽の病状は飛び込んだ国道から加摩川の水面までは三階建てほどの高さがあったため、落ちた衝撃で内臓にも損傷が認められ危険な状態らしい。
話を聞いた雷武たちは言葉を失い、それを見た一葉はとりあえず今日のところは皆家に戻るよう帰宅を進め、駅までのタクシー代を雷武に渡した。
帰りのタクシーの車内は沈黙が続き、駅に着いてからも雷武は皆にお礼をし、皆はそれに応じるのがやっとだった。
皆を見送ったあと雷武はバス乗り場に行き、詞羽が飛び降りた現場に向かった。
現場に降り立ち国道の柵から加摩川を見ると、思ったよりも高さがあって身がすくんだ。
詞羽はこの高さから何の躊躇もなく飛び降りた。しかも、手首を切って・・・
絶対に死ぬんだと決意して飛び降りたに違いない。
同じ年の女子が、同世代からいじめを受けて死ぬこと決め、手首を切ってこの高さからなんの躊躇もなく飛び降りた。
二鷹駅からバスを乗り継いでここまできたというが、バスの中では何を考え、どんな想いだったのだろう。
何が原因かわからないが、人に死ぬことを決意させるほどの嫌がらせをして良いわけがない。
いじめというのは、どこからどこまでがいじめなのか判断しにくい部分があると大人は言う。
たしかにいじめたつもりはなく、ただのフザケやジャレ合いが相手にとってはいじめだと思ってしまうこともあるかもしれない。
ただ受けた本人がいじめだと思ったら、いじめだ。
いじめたつもりがなかろうと、周囲の大人から見てフザケ合いやジャレ合いだと思おうが、受けた本人が辛かったら、それはいじめ。
この捉え方の違いは、個性の違いでもあり、個性の違いは大げさにいうと人権問題にもつながる。
個性の違いを教えるのも大人や学校教育の役目だ。すべての大人や教師たちは、いじめを受けたと思う子どもを守らなければならない義務がある。
そして周囲の同級生もいじめを受けている人を、全力で守らなければならない。
サムライ魂を大事にする大和家で育った雷武は特にその想いが強く、自分がどうなろうといじめてられている人を守り、いじめているつもりがないのであれば同級生として皆が仲良くなれるよう努力をし、もし悪意をもっていじめているという輩には、人の痛みをわからせるために、罰をあたえなればならないと考えている。
今回の件は明らかに悪意を持った卑劣ないじめ。
雷武はこぶしをギュッと握り、詞羽をいじめたすべての人間に罰をあたえることを誓った。
雷武が帰宅すると一葉がすでに帰ってきており夕飯の準備も終わっていて、平日にはいない祖父の義蔵がいること以外はいつもと何ら変わらない光景だった。
雷武は着替えて皆が待つ食卓へ行き、家族全員で夕食を囲んだ。
聡司が冴羅に学校での出来事を聞いたり義蔵がふざけてみたりと普段通りの楽しい食卓だったため、雷武のなかの怒りの感情と確固たる決意は身を潜め、何か拍子抜けした感覚に陥った。
しかし、食事が終わってお茶が出されたタイミングで一葉が切り出したことから、雷武のなかの怒りの感情と確固たる決意が再び蘇った。
「詞羽ちゃんのことだけど・・・」
「なんだか辛いね・・・」
「そうだね・・・」
「つか、なんで詞羽ちゃんがそんな想いしなければならないの。いじめた連中全員絶対に許さない・・・」
聡司と武、冴羅が続き、冴羅が雷武に何かを促す感じで視線を送る。
「僕も絶対に許さないよ。はっきり言って我慢の限界。こうなったら・・・」
「ストップじゃ」
突如義蔵が口を挟み、聡司と一葉は事情を知ってか驚きもせず冴羅と雷武が驚いた表情で義蔵に注目した。
「何やら今回の件は唐一家が絡んでいると聞いたが?」
「え?そうだけど、おじいちゃん知っているの?」
「唐一家は、我が大和家と昔から因縁のある一家じゃ」
「因縁?」
義蔵の話によると大和一家と唐一家は昔から対立した一家で、自分たちの感情や欲望を中心に生き、さまざまな理屈で自分たちを正当化して不都合なことに対しては、どんな手段を使ってでも誤魔化し切るという汚れた精神を持った一家とのこと。
自分たちの感情や欲望のためなら何をしようと、人がどんな目に遭おうと、なんとも思わない極悪非道の精神の持ち主で、加えて自分たちの身を守るために武道界や戦闘術界で、決して表に出してはいけないと言われている瞬殺術を習得して、なんの躊躇いもなくどんな人間にも使うという。
唐一家の話を聞いた冴羅と雷武は始めの怒りの感情が和らぎ、逆にそんな人たちがいるのかという、信じられないといった表情になった。
そして、代表して冴羅が聞いた。
「話はわかったけど唐一家の人も人間だよね。優しい気持ちとか人間らしい一面はあると思うんだけど・・・」
「もちろん人間らしい心は持っているかもしれん。ただすべてが自分たち中心なんじゃよ。なんていうか心、生命の奥底がすべて自分たちの欲望を満たすためだけにあるから優しさや思いやり、冴羅の言う人間らしい面もすべて自分の欲を満たすためだけにある。そういった人種なんじゃよ」
「本当にそんな人たちいるのかな・・・」
雷武がボソッと言うと、義蔵は諭すように言った。
「いいか、雷武。今はわからないかもしれぬが、この世には唐一家のように欲望だけに染まった人間もおるし、人を殺めることだけが生きがいの人間もおる。もちろん他の人の想いによって改心する人間もおるが、誰が何をしても改心しない人間もいるんじゃよ。悲しいかな、唐一族は誰が何をしても絶対に変らない。本物の悪側の人間なんじゃよ」
義蔵の話を聞いて二人は黙ってしまった。義蔵の慈悲深かさや人にはない壮絶な経験を知っているからこそ、義蔵がそこまで言うことに説得力を感じ何も言い返せずにいたのだ。
それを見て一葉が、これからのことを提案した。
「これからどうするかだけど、何をどうしても学校側は認めないだろうし、私たち家族はとりあえず詞羽ちゃんとお母さんに寄り添うことを第一に考えましょう」
「そうだね・・・」
「うん・・・」
聡司と武が同意するのを聞いて冴羅と雷武は納得いかない様子で声を上げた。
「はぁ?何言ってるの?」
「いじめた人たちには何もしないの?」
「ここでいじめた人たちに何かしても、いじめが陰湿化したり水面下でひどくなるかもしれないよ」
一葉が言うと二人は再び黙り込んだ。
「いいか二人とも、とりあえず今は村山親子に寄り添うことが先決なだけで、唐一家に負けたり野放しにしたりするわけではないぞ・・・」
義蔵が内なる殺気を込めて言葉を発し、それを見て一葉は穏やかさと厳しさが籠った声で再び口を開いた。
「とにかく、どうするかはよく考えて決めるのよ。間違っても一時的な感情だけで動かないようにね。よく考えて出した結果なら私たちは反対しないし、できる限りのことはするから」
「うん・・・」
「はい・・・」
二人はそれぞれの部屋に帰って行った。
しばらくして、二人は兄武の部屋にいた。
やはり悪さした人間にこのまま何もしないのはどうしても無理らしく、武に唐兄妹にお灸を据える上手い方法はないか相談しに来ていたのだ。
武はパソコンを操作して色々と検討してみたが、これといって良い方法は見つからなかった。武の話しを聞くと二人は、しつこく何かないか粘ったが、最後は仕方ないといった感じで各部屋に戻っていった。
次の日、冴羅は唐みつるの所へ、雷武は唐未里の元へ行き、それぞれ戦線布告だけして去った。
しかし、唐兄妹は最後までとぼけた態度で聞き流した。
詞羽はというと三日後に意識を取り戻し、一か月後に退院。結局、白尾学園を退学して公立の中学校に転校した。
ネットでのいじめということで転校後もいじめが続くことを考慮し、武ができる限りインターネット内を監視し続け詞羽の母を一葉が出来るだけフォローすることになった。
雷武は転校した詞羽と友人として、なるべく関わるようにしネットでもつながることにした。そして、武の報告によって少しでも唐兄弟が詞羽に何かしたら、自分が警察に捕まろうとも必ず実力行使によって唐兄弟を潰すことを密かに心に誓っていた。
現代では復讐は許されず、大和家内でも止められてはいるが、それがサムライ魂だと思っているからだ。
サムライ編入生 池口聖也 @seiyaikeguchi
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