第4話【誤ったストレス解消法】
人は誰しも心に弱さを持ち、その弱さに負けてしまうことがある。
多くはストレスによって弱さに負けて苦しむことになるが、原因となるストレスは目には見えない。
ストレスとは思い通りにならないことである。
テストで思い通りの点数が取れない。部活で思うようにプレイすることができない。
家庭や学校内での人間関係も同じだ。結局は、家族や友達が自分が求めている言葉をかけてくれなかったり、思うような振る舞いをしてくれなかったりする場合に人間関係に悩むことになる。
人は思い通りにならないときにストレスを感じるのだ。
ストレスを感じると、人はそれを解消するために自分の好きなことをする。好きなことは思い通りになることが多いからだ。
しかし、間違えた方法でストレスを解消する人がたまにいる。ストレスを感じることが思い通りにならないことだとは知らずに、ストレスを感じることによっての辛さや苦しさ、それ自体を取り除こうとする人だ。
冴羅が通う白尾学園高等部にも、そんな間違えた方法でストレスを発散している生徒が存在した。
冴羅はクラスに馴染み、クラスメイトや担任の教師らが元々冴羅がこのクラスに居たような雰囲気になってきたある日の放課後のこと。帰りの支度をしていた冴羅に紗菜が話しかけてきた。
「冴羅さ、ちょっといい?」
「え?何?全然いいよ」
紗菜は冴羅を教室の出入り口まで連れて行き、待っていた一人の女学生を紹介した。
「この子は三組のクラスの仲里朱音。私の小学校の頃からの同級生」
「へぇ、そうなんだ。初めまして。大和冴羅です」
「初めまして・・・」
挨拶のあとモジモジして何も言葉を発しない朱音に、紗菜がしびれを切らした感じで言った。
「あのね、この子の彼氏のことでちょっと冴羅に相談があって・・・ね!」
「うん・・・」
「そう。じゃちょっと場所変えよう」
三人は白尾駅前にある喫茶店へと移動した。
喫茶店では冴羅だけがブラックコーヒーを頼み、紗菜と朱音はミルクティーを頼んだ。
飲み物が到着し、一息ついたところで冴羅が聞いた。
「で、彼氏についての相談ってどんなことなの?」
大人しそうな朱音がイメージ通りの小さく、か細い声で答えた。
「最近様子が変なんです・・・」
「様子?どんな感じで?」
「なんか急に笑ったり、怒ったり、泣いたり・・・情緒がおかしいというか・・・」
冴羅は若干表抜けし、優しく返した。
「そうなんだ。でも私たちは思春期真っ只中だからね。色々あるんじゃないかな。私もあるよ。家族に話しかけられただけでイライラしたりすることが」
朱音は紗菜に目を向け、今度は紗菜が口を開いた。
「それがちょっと違う感じみたいで・・・」
「どういうこと?」
紗菜は朱音にアイコンタクトで話すように促したが、朱音は横に二回首を振って拒否したため再び紗菜が答える。
「なんか、水球部の先輩から進められて買わされたものを飲むようになってから変になったって・・・ね!」
「うん・・・」
「進められて買わされたもの?何それ?どんなもの?」
朱音は再び紗菜に目を向けたが、今度は朱音に自分の口から話すよう紗菜が促し、少し間をおいて朱音が言った。
「なんか錠剤みたいなもの・・・」
「錠剤?ラムネとかお菓子じゃなくて?」
「うん・・・」
冴羅は高校生が、しかも白尾学校のような進学校の生徒がまさかドラッグに手を出したりすることが信じられなく「そうなんだ・・・」とだけ言って考え込んだ。
若干重苦しい空気が流れるなか、紗菜が一度朱音に目をやり、不安そうな表情で冴羅に言った。
「ねぇ、冴羅。もし違法のドラッグとかだったらどうなるのかな・・・」
「え・・・それは、物や状況によるけど、たぶん警察に行くことになると思う・・・」
「そうだよね・・・」
朱音は青ざめた表情になっている。それを見た冴羅は、本当にそれがドラッグ的なものなのか、未だ疑いが晴れないといった感じを残しつつ言った。
「とりあえず実際に確認してみないとわからないから、仲里さんはその錠剤の写真か、できれば現物を手に入れてくれないかな・・・」
「え?あっ、はい・・・」
「あと、その彼氏さん、どんな人か詳しく教えて」
朱音が付き合っている彼氏は一組の山岸峰央。水球部に所属していて、実力があり次期キャプテン候補と期待されているらしい。
勉強も学年でトップクラスの成績を収め、男女問わず人気があるそうだ。
朱音に写真も見せてもらって顔も確認し、三人は店を出た。
紗菜との帰り道、朱音と峰央は同じキーホルダーをカバンに付けたり同じスマホケースを使っているほど仲が良いと、自分のことのように自慢げに紗菜が話した。
それを聞いて、冴羅は紗菜にとって朱音は大切な友人だということが十分理解でき、何とか力になりたいと思った。
家へ帰った冴羅はすぐに兄の武の元に行き、今巷で流行しているドラッグについて調べて欲しいと頼んだ。
兄の武は、今年二十歳の大学生。父聡司の影響で子どものころからコンピュータに興味を持ち、今では自分でプログラミングしてアプリケーション開発をするまでになっている。将来は父と同じIT関係の仕事をしたいと考えており、大学での専攻もコンピュータ関係で授業が終わると無駄な遊びとかは一切せずに帰宅し、パソコンをいじりまくっている。
穏やかだが正義感が強く、一本芯が通っていて父の聡司とよく似ている性格だ。
武は以前冴羅から託された紗菜を脅していた男のスマホを解析して犯罪の証拠をまとめてプリントアウトし、被害者のフリをした告発手紙と共に、警察の少年課宛てに送っていた。
もちろんスマホのパスコード設定を解除して誰でもスマホにある実際の写真やらを確認できるようにして・・・
あの男が逮捕されたかはわからなかったが、あれ以降紗菜には男からの連絡は一切無かったし、冴羅の身の回りにも特に何の変化もなかった。
武は、新たに冴羅からドラッグについて調べて欲しいと頼まれたときは、さすがに心配した。ドラッグということは、反社会的な組織が関わっているかもしれないからだ。
武はすぐに最近流行のドラッグについてまとめてプリントアウトし、それを冴羅に渡しながら言った。
「冴羅。大丈夫だと思うけど危なくなったら無理はしないで僕でも両親でも誰でもいいから、家族にちゃんと相談するんだよ」
「うん。わかってる。ありがと」
冴羅はプリントを受け取り、部屋のベッドに寝そべりながら見た。
覚せい剤に大麻、コカインにヘロインなど数々の麻薬について書かれている。
冴羅はこのなかで朱音が言っていた錠剤のものを探した。しかし、MDMAやLSD、ケタミンなど錠剤タイプのドラッグは結構多く、しかも覚せい剤にもヤーバーという錠剤タイプがあった。
プラス合法の物を加えると数は果てしなくなり、冴羅はやはり現物を見なければ何のドラッグなのかわからないと思った。
次の日、冴羅は登校するとすぐに山岸峰央の様子を見に行った。峰央は精悍な顔立ちで背も高く、いかにも好青年という感じ。これで頭も良いとなればモテるのは当然だと冴羅は思った。しかも、顔色や友人と話している姿を見ていると、とてもドラッグをやっているようには見えない。
冴羅は本当に峰央がドラッグに手を染めているのか疑念を抱きながら教室へと戻った。
教室へ入って席に着き、隣で一限目の教科書やらノートを準備している紗菜に聞いた。
「紗菜さ、朱音ちゃんから連絡来た?」
「え?なんの?」
「ほら、あの、ものについての詳細というか・・・」
紗菜は質問の内容を理解して、若干声を細めて言う。
「まだ来てないよ」
「そうだよね・・・」
紗菜は冴羅の疑念を抱いていそうな表情を見て言った。
「どうかしたの?」
「いやさ今その彼?の様子を見てきたんだけどさ、どうしてもそんな風には見えなくてさ・・・」
「そうなんだ・・・私も未だに本当の話しなのかとか思うけど、朱音が普段見せない取り乱しかたをしていたから・・・」
冴羅はふと、朱音や峰央との馴れ初めなど聞きたいと思った。しかし、ここで一限目の担当教師が教室に入ってきたため、今度三人で会った時にでも来てみようと思った。
紗菜のスマホに朱音から画像付きメッセージが入ってきたのは、三日後の放課後のことだった。若干興奮したようすで、紗菜が冴羅の元にやってきた。
スマホを見せてもらうと可愛らしいピンク色や水色、黄緑色でそれぞれ中央にECの文字が刻印された錠剤が、小さなチャック付きのポリ袋に入っているのが写っていた。
聞くところによると、峰央の部屋で一緒に勉強をしているときに若干机の二番目の引き出しを気にしていたため、トイレに行った隙に開けたら奥の方にあったらしい。
冴羅はとりあえずその画像を転送してもらい、後日また三人で会う段取りを紗菜に頼んで紗菜と別れた。
帰宅してすぐにドラッグらしき画像を武に調べてもらう。武によると、そのドラッグはエンジェルクラッシュという名で通称ECと呼ばれる合成麻薬らしい。
依存性は覚せい剤などと同様で、人工的に専門家以外の人間も作っていることから不純物が多く、人によっては服用することで死に至ることもあるとのこと。
他の合成麻薬よりも安価で買えることもあって、裏の世界では若者を中心に安くて天使も壊れるほどの麻薬として流行っているらしい。
冴羅は武の話を聞いて、早急に手を打たなければならないと思った。麻薬は使用すればするだけ心身への悪影響も増すからだ。
次の日の放課後、冴羅は再び駅前の喫茶店で話がしたいと、紗菜と朱音を誘った。
喫茶店に入って席に着き、それぞれが飲みたいものを頼んだ。
話の内容を店員に聞かれないために、冴羅は頼んだものが来てから話そうと決めていた。
頼んだものが来る前は世間一般の女子高生がするような会話を楽しみ、コーヒーなどすべてが来たのを見計らって冴羅は神妙な面持ちで告げた。
「あのドラッグさ、調べてもらったら結構というか、ものすごく危ない薬みたい・・・」
「え・・・」
朱里が絶望的な声を出し、紗菜は何も言えないといった感じだ。
「とにかく、早急にやめさせないと・・・」
冴羅が言うと、紗菜が困惑した表情で口を開いた。
「でも、どうやって?」
「本人に直接やめるように言うのも手だけど、それじゃホントの解決にはならないからね・・・薬の出所を調べて、そこを叩くしかないかな・・・」
紗菜と朱音は顔を見合わせた。
本当にそんなことが本当にできるのかといわんばかりだ。
それを見た冴羅は、いたって冷静に言った。
「とりあえず山峰くんが誰からどうやって薬を手に入れているのかが重要だから、ちょっと朱音ちゃんに頑張ってもらうことになるよ」
「え?」
突然話をふられた朱音は不安げな表情をしている。
「っていっても特別なことをするんじゃないから安心して。山岸くんと二人きりになったときの行動をよく観察して、気になったこと何でもいいから教えてくれる?」
「え?あ、うん」
朱音は若干安心した表情になった。
「私と紗菜も学校内では、できるだけ山岸くんの行動を観察しよう」
「うん」
その後三人は、いつでもどこでもそれぞれの情報を共有できるように、日本で一番流行っているモバイルメッセンジャーアプリケーション「MINE(マイン)」で三人だけのグループを作り、喫茶店を後にした。
さっそく次の日から三人で情報を共有しながらの調査が始まった。
学校での峰央は午前の授業のあと友達と昼食をとり、午後の授業が終わると部活の水球をするためにプールに向かう。
朱音によるとプールが使えない日は体育館や校庭でのトレーニングをしたり、部室でミーティングをしたりしているとのこと。
調査初日の学校での峰央の行動のなかで、特に不振なことはなかった。
一つだけあるとしたら、昼休み中にスマートフォンを眺めている顔が若干曇っていたことくらいだ。
朱音からの報告では、この日は部活後に峰央と一緒に帰ったが、峰央は疲れていたらしく、どこにも寄らずにお互いが自宅へと帰ったらしい。
次の日。冴羅が放課後に峰央を観察していると、水球部の先輩らしき人と二人でコソコソ話している現場を見かけた。
二人は部活に関してなど公にできる話をしているのではなく、なにか二人だけの秘密の話をしているらしかった。
その証拠に他の部員らしき人が来て話しかけられた時に、あからさまに二人は動揺し、その先輩らしき人は駆け足でその場を去っていってしまったからだ。
冴羅は峰央と話していた先輩らしき人について調べた。
彼は3年の速水純也という生徒で、受験勉強のためにそろそろ水球部を引退するらしい。
朱音に聞いてみると最近頻繁に連絡しているのが速水らしく、朱音が一緒に居るときに連絡が来ると席を外してしまうという。例えば、他の女子から連絡があってもその場で連絡を取り合っているのに、速水だけは決まって席を外すらしい。
それを聞いて冴羅は速水が怪しいと睨んだ。
次の日から峰央については紗菜と朱音に任せて、冴羅は徹底的に速水をマークした。
数日間は特に変わった様子はなかったが、ある日速水は学校からの帰り道いつもと違う電車に乗って最寄りとは違う駅で降りた。
そして、レンタルオフィスやバーなどが入っているビルへと消えていった。
冴羅はビル周辺を探索した。するとビルの脇に、らせん状の非常階段があり、各階の踊り場に灰皿が置いてあった。おそらくビル内は禁煙で、喫煙者は非常階段の踊り場で煙草を吸うのだろう。
冴羅が煙草は体に害しかないと言われているのに、なぜ人は煙草を吸うのだろうなどと考えていると、三階の踊り場にある扉が開き一人の男と速水が出てきた。
冴羅はすかさずスマホを出して最大限にズームアップして動画を録画。画面越しに速水が恐縮した感じで煙草を咥える男と何かを話している様子が見える。
男は若干パーマのかかった長髪で、赤いトレーナーにダメージジーンズを履いている。首には何本かの金のネックレスをしていて、チャラい大学生っぽい風貌だ。
男が煙草を一本吸い終わり、速水の肩に手をまわして何か耳元で囁くような格好で二人は踊り場からビル内に入っていった。
冴羅は家に帰り、兄の武の部屋に行き、スマホで撮った動画を渡して男の身元が分からないか聞いてみた。
すると武はその場で動画を自分のパソコンに移して男の顔がはっきり写っているコマを探して静止画像を切り抜き、画像検索サイトに飛んで画像を張り付けて検索。すると何枚かの似ている画像が出てきて、そのうちの一枚をクリックすると男のものとみられるSNSが出てきた。
その瞬間冴羅は「あっ!」という声をあげ、武に抱きつき「さすがお兄ぃ。ありがとう!」といってURLをメールで送ってもらい部屋を出て行った。その際武に改めて気を付けるように促がされ、何かあったらすぐに相談するように言われた。
冴羅は『そんなに心配することないのに・・・』と思いながら自分の部屋に戻ってスマホで男のSNSを開く。
名前の欄には金谷恭一とあった。偽名かもしれないと思ったが大学生でありながらIT関係の会社を立ち上げ自慢しているような投稿が目に入ったため、おそらく本名だろう。
大学での写真もあり、どこの大学かもわかった。
これから先どうしようか考えた末に、冴羅は再び兄である武の部屋のドアを叩いた。
「どした?」
「あの、ちょっと相談があるんだけど・・・」
冴羅はすべてを話した。武は、しばらく考えこんで言った。
「家族会議だな・・・」
「え?」
「この件は、法律に触れる問題だし普通に警察沙汰になるよ。しかも麻薬は神経を壊して人を色んな意味で狂わせる。何をしても痛みを感じず死ぬまで抵抗してくることもあるから、冴羅が一人でどうこうするのは危険だよ」
冴羅は自分たちだけで何とかしたかったが、麻薬を使用している人間の恐ろしさを聞いて兄に従わざるを得なかった。
大和家では十三歳を超えて山放しを経験すると、大抵のことは自分で解決をする決まりになっている。しかし、法律に触れる問題などは家族全員で会議を開き、みんなで協力して解決することにしているのだ。
今回の件は麻薬ということで法律に触れる問題だとして、武が家族会議案件とみなした。
ちなみに大和家ではどんな些細なことでも相談したいと思ったときには、家族の誰でも話しやすい人に相談する決まりにもなっている。
武の招集によって皆がリビングに集まり、さっそく会議が始まった。この日はちょうど夕飯を取りに来た義蔵もいたため、同席している。
まず武が話の概要を話し、武に促されて冴羅が詳細を話した。
話を聞いた両親と雷武は、最初驚きはしたがすぐに話を飲み込み、皆でどう解決すべきか話合われた。会議では年齢に関係なく、皆が平等になっている。
解決の終点は、冴羅の同級生である山岸峰央と先輩の速水純也に薬を止めさせ、速水に薬を渡している大学生の金谷恭一を警察に逮捕させることに決まった。
できれば同級生であり友達の彼氏の峰央は警察から守りたいというのが冴羅の考えだが、両親が反対し、聡司が諭すように言った。
「麻薬はね、どんなものでも一度使ったらそう簡単にやめられるものではないんだよ。大麻など自然のものはやめられると高を括っている人もいるけど、そんなことはない。脳に一度記憶されると、絶対に消えることはない。一定期間やめられても、何かのきっかけで記憶が蘇り、また使ってしまうものなんだよ。しかも麻薬は、やればやるほどドンドン強いものを欲しがって薬欲しさに人殺しでもなんでもするようになる。だから、しっかりとした治療をしなければならない。残念だけど警察への通報は避けられないよ」
冴羅は自分の考えが甘かったと反省し、峰央の逮捕にも同意した。
会議の結果、金谷に関してはさまざまな危険があるため、武を中心にして警察に逮捕させるよう仕向けることになった。速水に関しても冴羅は面識がなく、直接関わるとおかしなことになるため武と共に証拠を集めて匿名で母親宛てに証拠を郵送し両親に任せることに。峰央には冴羅が朱音と共に自首するよう説得にあたることになった。
峰央を説得するにあたって峰央は高校生のため、聡司と一葉は冴羅にくれぐれも注意するように言った。
高校生という思春期の若者にとって麻薬による逮捕は、人生が終わるほどの出来事になり、自ら命を絶ってしまう可能性が十分にあるからだ。
この話を聞くと、ここまでずっと黙っていた義蔵が初めて口を開き、何かあったら峰央を道場へ案内するように言った。
義蔵のこの提案に家族全員が安心感を抱いた。いくつもの人生の修羅場をくぐり抜けてきた義蔵にとって麻薬という一度の失敗ごとき米粒くらいの出来事であり、義蔵に任せれば大丈夫だと考えたからだ。
麻薬問題は解決が早ければ早いほど麻薬使用者の心身の負担が軽減される。早速次の日から、それぞれが行動することになった。
武はこの問題の大元である金谷を警察に突き出すために、まずは金谷に関する情報を集めた。すると金谷の父親は市議会議員を経て現在は都議会議員であり、将来は国会議員を目指していることがわかった。父親が議員であったため、金谷はそれをいいことに少年のころから調子に乗っていたのだろう。現在大学生になって合成麻薬を高校生に売っているということは、少年の頃から色々と悪さをしていたことがわかる。武はどうやって金谷を警察に逮捕させるか早急に作戦を考え始めた。
冴羅は次の日、休み時間に紗菜に朱音を呼び出してもらい、すべてを話した。
二人は冴羅の家族が介入することに戸惑いを見せたが、麻薬の恐ろしさと麻薬使用者の恐ろしさ、麻薬は法律違反となり大きな問題になることを伝えられると納得せざるを得なかった。
冴羅は朱音と峰央を説得する前に速水のことを片づけた方が峰央に対して説得力が上がると考え、朱音に速水のことが解決するまでは、なるべく峰央と関わって薬を使わせないように伝えた。
三日経った放課後、冴羅が速水をマークしていると部活には参加せずに一人で学校を出る姿を確認。冴羅はすぐにカバンから武から預かった高性能の小型デジタルカメラを手に速水の後を追った。
速水は白尾駅から電車に乗り、三本木を経由して古宿駅で降りた。
そして、東口の改札を出たところにある柱に寄りかかりスマホを開いた。誰かを待っているようだ。
冴羅が周囲に怪しまれないように手の中に小型のカメラを忍ばせながらレンズを向けていると、どこからともなく金谷が現れた。二人は話しをすることなく、すれ違いざまに何か封筒のようなものを交換して金谷はそのまま改札へと消えていった。
速水も改札へと向かい帰ると思いきや改札とは逆に歩き始め、階段を上って外へと出てしまった。
どこに行くのかと冴羅が慎重に距離を取りながらついていくと、ひときわ賑やかな飾り付けがしてあるビルに入っていくのが見えた。
冴羅が後を追ってビルを見上げると、一階から三階まで漫画喫茶が入っている。とりあえず冴羅も漫画喫茶に入ることにした。
一階の受付けへ行くと、速水がまだ受付をしていた。受付は三か所あり、速水の隣が空いていたのでそこへ行くと、隣から「五十六番」という声が聞こえたので冴羅はその隣の五十七番を指定し、速水の隣のブースへと入った。
初めて満喫に入った冴羅は、漫画の多さや飲み放題のドリンクバーなどに驚いた。楽しくて純粋に満喫を楽しみたい気持ちになったが、すぐにここでの役割を思い出し、隣にいる速水を探ることにした。
この満喫のブースは完全な個室ではなく、天井が空き壁で仕切られているだけとなっている。ブースの入り口にカギはなく下の部分が空いた引き戸だけとなっており、そこで靴を脱いで一段上がる。ブース内で立つと壁である仕切りから頭がひょこっと出るタイプだ。
冴羅はさっそく隣の速水の様子を確認しようと、壁に耳を当てたが特に音はしない。
そこで色んな意味で危険ではあったが、スマホを自撮り棒に取り付けて上から隣のブースの撮影を試みることにした。カバンからスマホを出して、自撮り棒に取り付ける。そして、音が出ないようにスピーカーを指で押さえて、咳払いもしながらスマホの動画をオンにして、そぉーと上から自撮り棒を隣の部屋に向けた。
しばらくすると隣からチャックを閉める音がしたので、冴羅はすぐにスマホを引っ込める。その後引き戸が開く音がして、靴を履く音、自分のブースの前を通り過ぎる足音がした。
冴羅がスマホの画像をチェックすると、カバンから先ほど金谷から受け取った封筒を取り出し、中から合成麻薬エンジェルクラッシュを出して机の上に置きカバンのチャックを閉める映像が映っていた。おそらく速水はエンジェルクラッシュを飲むためのドリンクを取りに行ったのだろう。
冴羅はチャンスといわんばかりに、すぐに靴も履かずに隣のブースに行き、エンジェルクラッシュを三粒だけ取って自分のブースに戻った。
その後速水が戻り、エンジェルクラッシュをコーラに入れて飲むところをスマホで撮影。
これで速水の家に送る証拠が揃った。
家へ帰った冴羅がこの日の収穫を武に渡すと、行動の速さと的確さに驚いた武がものすごく褒めてくれた。しかし、冴羅にはあまり響かなかった。理由は速水の証拠が手に入ったことから、朱音とともにおこなう峰央に対する自首への説得が遠い日ではなくなったからだ。始めはただ単に悪いことをしたのだから、警察に自首することを促すだけだと思っていた。しかし、自分が説得することによって、自分の言葉によって一人の人間の人生を大きく変わってしまうことに気が付いたのだ。しかも麻薬に関することだということで、確実に人生をマイナスの方向へと導くものになる。
普段は毅然と冷静な冴羅も、そう考えるとドンドン心が暗くなっていった。
冴羅は部屋へ戻り、いつもならすぐに部屋着へと着替えるのだが、そんな気分でもなく制服のままベッドに横たわった。
数日後には友達の彼氏に合成麻薬の使用について問いただし、警察に行くように説得する。同級生なのに偉そうに、自分は何様なのであろう。これをすることによって人を見下し、優越感にでも浸るのではなかろうか。これまで人助けをしてきたが、はたして本当にその人のためにとの想いでやってきたのだろうか。ただ人助けをして自分は良い人間だと、自分に酔っていただけではなかっただろうか。
そんなことを考えながらボーっとしていると、リビングから、夜ご飯ができたとの雷武の声が聞こえてきた。
さえない表情でリビングに行くと、制服を着たままの冴羅に皆が気づき一葉が心配そうに言った。
「あら、どうしたの?着替えもしないで」
「あいや、別に・・・」
「そう・・・」
そこからは皆が何かを察知したようで、黙って食事をした。そして、片づけが終わって冴羅が部屋に戻ろうとしたときに聡司が言った。
「冴羅、ちょっと話があるから着替えて戻っておいで」
「え?あ、うん・・・」
冴羅が部屋着に着替えてリビングに戻ると、聡司の姿はなかった。冴羅がとりあえず席に着くと、一葉が手作りマドレーヌとブラックコーヒーを持ってきた。
一葉はお菓子作りが得意でよく作る。
冴羅は一葉に促されるままマドレーヌを口にした。一葉が作るお菓子のなかでマドレーヌが一番好きなのだが、今日に限ってはあまり味がしない。
いつもなら感想なり言葉を発する冴羅が何も言わずに黙々と食べる姿を見て、一葉は言った。
「あら、今日のはあまり美味しくない?」
「え?あ、いや美味しいよ。美味しい・・・」
「そう。良かった」
冴羅がマドレーヌを食べ終え、コーヒーを一口飲んでいるタイミングで一葉が再び口を開いた。
「なんか今日はちょっと様子がおかしいけど、どうかした?」
冴羅は飲んでいたコーヒーを皿の上に置いた。
「あぁ・・・なんていうか、ちょっと怖くなったっていうか・・・」
「怖くなった?」
「うん・・・私が話をすることによって人の人生が壊れるのかと思うと・・・」
一葉はこれまで自分のコーヒーには手を付けずにいたが、初めて自分のコーヒーを口にしてから、若干厳しい口調で言った。
「冴羅さ、なぜ怖くなったのかわかる?」
「え・・・なんでだろ・・・」
「それはね、結局のところ背負いたくないのよ。その人の人生を背負いたくないから怖いんじゃない?出会ったばかりかもしれないけど、縁した人間でしょ?」
冴羅は一葉の確信を突いた言葉に、何も言えなかった。下を向き、ぬるくなったコーヒーを一点に見つめて黙り込んでしまった冴羅を見て、一葉は優しさを込めて言った。
「それにね、今回は始めは山岸くんの人生を壊すかもしれないけど、長い目でみたら更生への正しい道を開くきっかけになるんだよ。だから、ちゃんと説得しないとね」
一葉は冴羅の頭をポンと軽くたたき、マドレーヌのお皿と自分のコーヒーカップをもって台所へと片づけにいった。
一葉の言葉で、冴羅の心にスイッチが入った。コーヒーを飲み干し部屋に戻った冴羅は、すぐに朱音にMINEをして峰央を説得する日程を詰めた。
次の日、金谷に関しての事が動いた。武が実行していた作戦の成果が出始めたのだ。
武は考えた結果、市議会クラスならば週刊誌の記者が動き出すだろうと思い、息子である金谷の悪態をまとめて匿名で週刊誌にリークすることにしたのだ。自分の友人や知り合いなど、あらゆる人脈や方法を使って、早急に金谷に関する情報を集めてリーク。最近ではインターネットのサイトから誰でも情報をリークできる週刊誌もあり、それを含めて結構な数の会社に情報を送ってあった。
その成果が出て、この日初めてテレビで報道された。
報道陣が金谷の父に説明を求めて都庁に押し掛け、金谷の大学にも報道陣が行き、モザイク付きではあったが金谷も報道陣に囲まれた。
父子ともに事実無根だと否定したことから、武は自分がリークした情報のうちまだ報道されていない記事がさらに続々と出るだろうと推測し、逮捕も時間の問題だと確信。
速水に関しても、冴羅が得てきた証拠もまとめて母親宛てに郵送した。
それから二日後の朝、冴羅は登校前の準備に時間をかけていた。学校に持っていく荷物の再確認をしていたためだ。
今日はいよいよ朱音とともに峰央を説得する日。
証拠となる拡大した写真や、すでにニュースになっている金谷と速水に関する資料の確認をしていた。
前日の夜しっかり確認して封筒に入れたのだが、朝になって心配になり再度封筒からすべての書類を出して一枚一枚確認していた。
雷武が何度も部屋の前に来て早くしろとせかしたので、先に行かせて一人で登校することにした。
すべての準備を終え、冴羅は心のなかで気合を入れて家を出た。
学校への道のり冴羅は峰央に話す内容や段取りなど、さまざまなことを考えて頭を悩ませたが、最後はその時の雰囲気に任せるしかないと開き直ったところで学校に着いた。
峰央への説得は放課後に駅前の喫茶店でおこなうことになっている。昼休みにふと武が速水に関する資料を家に送ったことを思い出し、気になって速水の様子を見に行った。
クラスどこを探しても見当たらないため、速水のクラス担任にさりげなく聞くと今日は欠席しているとのことだった。
そして、放課後。
冴羅は緊張と覚悟を持った面持ちで、朱音と峰央が待つ駅前の喫茶店に向かった。
『今日のこの話し合いが終わった後にはどんなことになるのだろう・・・峰央はどんな決断をし、朱音と峰央の関係はどうなるのだろうか。その前に証拠を突きつけられたら峰央はどんな反応をし、どんな言葉を発するのだろう。もしこの話し合いの前に峰央がドラッグを使用していたら、いきなり暴れ出したりしないか・・・』
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に店の前に着いてしまった。
冴羅は頭に巡っていたさまざまな事柄についてある程度整理がつくまで店には入らず、峰央がいきなり暴れたときの対処法を思いついた時点で大きな深呼吸をひとつして、店に入っていった。
店に入ると、すぐに二人の姿が目に入った。緊張した感じで待っていると思いきや、二人で楽しそうに話をして笑っていた。どうやら雑談で盛り上がっているらしい。
若干拍子抜けした冴羅は「ふぅ」と一息ついて二人が座る席向かった。
冴羅が二人の席の前に着くと、朱音は瞬時に緊張した表情になったが、峰央はキョトンとした表情をしていた。
冴羅はとりあえず、朱音の隣に座った。峰央は「え?」と小さくつぶやき、突然知らない人が彼女の隣に座ったという感じで明らかに困惑している。
峰央と朱音の表情を見た冴羅は、今日この場の趣旨を朱音が峰央に話せなかったと確信。
店員にブラックコーヒーを注文して、峰央に言った。
「どうも、初めまして。私最近朱音ちゃんと友達になった大和冴羅といいます」
「はぁ・・・」
峰央は、今だ困惑している。
冴羅は遠回しにグダグダ話をしてもしょうがないと思ったので一気に間を詰めることにした。
コーヒーが届き、ひと口飲んで横にいる朱音に目をやり、不安そうな表情をしている朱音と目が合ったところで、冴羅は真っすぐに峰央の方に向きなおって一気にしゃべった。
「実は私、朱音ちゃんから相談を受けてまして。最近山岸くんの様子というか情緒がおかしくなることがあって、何か薬物的なものに手を出しているのではないかと言われました」
「は?」
「ちょ、大和さん?」
峰央がさらに困惑し朱音が驚いて声を出したが、冴羅は朱音に「こういうことは一気に話をつけた方がいいから」と一言いって、さらに続ける。
「それで色々調べさせてもらって、すべてわかってしまって・・・あなた山岸くんが薬物的なものを使用しているのは間違いなくて、その使っている薬物は今巷で流行りつつある合成麻薬のエンジェルクラッシュという錠剤ですよね・・・」
「はぁ?何を言って・・・」
冴羅は証拠になる資料を広げて差し出した。
「えっと、これが山岸くんとかが使っているエンジェルクラッシュという薬物で、どうやって手に入れたかは、三年の速水先輩から買っているんですよね?ごめんなさい。なんか勝手に調べちゃって・・・」
「・・・」
冴羅が出した証拠資料を見た峰央は返事ができなくなり、その顔にはうっすらと汗が滲んできている。
「あっ、でもなんていうか、私が山岸くんを責めるとか、そういうことではなくて、まぁ結果的には攻めてるような感じなんだけど・・・この薬物はものすごく危険だから早く何とかしないとと思って・・・」
これを聞いた峰央の顔色が変わった。
「え?危険って?」
「このエンジェルクラッシュという薬物はECと呼ばれる合成麻薬で、依存性は覚せい剤と同じ。しかも人工的に色んな人が作っているらしくて不純物が多くて、人によっては服用することで命を落とす可能性もある・・・」
「は?嘘だ・・・自然物で大麻よりも全然弱いって・・・」
峰央は薬物を使っていたことを自ら認めてしまったと思ったのか一瞬慌てた表情になり、目線を朱音に向けてからうつむいてしまった。それを見た朱音が心配そうに聞いた。
「峰央くん、何回くらい使ったの?」
「は?」
顔を上げた峰央の目がギラついている。朱音はその目に驚き一瞬怯んだ。それを見逃さなかった峰央がいきり立って言った。
「なんだよお前には関係ないだろ!だいたい何彼女づらしてんだよ。うっとおしい!」
「え・・・」
「いやいや、朱音ちゃんはあなたの彼女でしょう?」
冴羅が口を挟むと、今度は冴羅に食って掛かった。
「っていうか、あんた何?いちいち関係なくね?」
「関係あるよ。朱音ちゃんの友達だもん」
「つかやってらんねぇ。帰るわ」
峰央が席を立ち帰ろうとしたので、冴羅が腕を掴んで引き取めた。
「ちょっと待ってよ。ちゃんと話をしないと・・・」
峰央は腕を振り払おうとしたが、冴羅の力は強く振り払うことができない。
「なんだよお前、放せよ」
峰央が力任せに振り払おうとしたので、冴羅はそのまま立ち上がって掴んでいる腕を返して後ろに軽く捻り上げた。
「いいからとりあえず座って。さもないと、このまま腕を折ることになっちゃう・・・」
冴羅が朱音に聞こえないよう峰央の耳元で囁くと、峰央は「はぁ?何なんだよ」と呟いて、しぶしぶ席に着いた。
「とりあえず二人の関係は二人で話してもらうことにして、そうだ山岸くんは速水先輩がこれを誰から手に入れているか知ってるの?」
「知らないけど・・・」
冴羅は自分のスマホで、ネットニュースのアプリで金谷の記事を開いて峰央に見せた。
「この人だよ」
「え・・・」
峰央も知っていたのか、驚きを隠せない。
「エンジェルクラッシュは完全な違法薬物だからね・・・ちなみに速水先輩は今日学校へは来てない。おそらく親に薬物のことがバレて、もう学校へは来ないと思う・・・」
「そんな・・・ちょっと待ってよ・・・」
峰央は頭を抱えてしまった。冴羅も気持ちの整理をさせた方がよいと思い、しばらく黙っていた。冴羅はコーヒーを飲み干し二杯目を注文。それが届いたタイミングで、頭を抱え下を向いた状態で峰央が口を開いた。
「もう終わりじゃね?」
冴羅はあっけらかんとして言った。
「全然終わりじゃないよ。一度失敗しただけでしょ?ちゃんと罪償って、薬物を断ち続ければいいだけの話だよ。ねえ!」
冴羅が朱音にも相槌を求めると、「うん!」と確信をもった朱音の声が返ってきた。
「そんな簡単な話じゃないよ・・・」
「もちろん、これから親に話して、警察行って、その後は前科がついてしまうかもしれないし、化学系の薬物は一生やめられないと言われるほどだから、ほんと大変かもしれない。でも人は生きていく中で、どうしようもなく苦しい場面が誰にでも必ず起こるんだって私のおじいちゃんが言ってた。人は誰でも必ずいずれ死ぬことが決まっていることが、その証拠なんだって。死ぬってことは、誰でも一度はその恐怖や苦しみが来るってことでしょ?だから、死ぬほどの苦しみを若いうちに一度でも経験して、それを乗り越えると本当の強さと優しさを手に入れられるんだってさ」
「・・・」
峰央は頭を抱えたまま動かない。自分の言葉がうまく伝わったかわからない冴羅は、義蔵が何かあったら道場に連れてきてよいとの言葉を思い出した。
「そうだ。うちのおじいちゃんは、なんていうかすごい人で道場でも色々教えてもいるから、一度一緒に行こうよ。もちろん朱音ちゃんもね」
「え?あ、うん」
朱音が答えると、峰央がそのままの姿勢で小さく一つ頷いた。
「とりあえず、あとは二人でよく話し合って。お互いやけになったり、意地はったりしないで本音で話した方がいいよ。って余計なお世話だね」
冴羅はテーブルに置いてあった伝票をサッと取って支払いを済ませて店を出た。
帰り道、冴羅は安堵した気持ちと、あの二人はこれからどうなるんだろうという思いを抱えながら家へと帰って行った。
その後、金谷は逮捕され、父親も都議会議員を辞職。速水も学校に来ることはなく、警察に出頭して退学したことがわかった。
朱音と峰央はあの後じっくりと話し合ったらしく、その日のうちに峰央は両親にすべてを打ち明けて警察に出頭。学校も退学した。
朱音との関係は峰央の今後がどうなるかわからないとのことで一度リセットしたとのこと。朱音からではなく、峰央がそう告げたという。
すべてが終わり、通常の学校生活に戻った冴羅は、他の男子生徒と楽しそうに話したり一緒に帰ったりする朱音を見て、ふと峰央に対する想いはどうなったのだろうと気になることがあった。
しかし、朱音のカバンに付いた峰央とのお揃いのキーホルダーを見るたびに、勝手に安心し、将来二人が結ばれればいいのになと思った。
大和家では「恋愛とは、たとえ相手がどんなことになろうと、どんな状態になろうと共に生きたいと思う人に出会うための訓練である」と教えられている。
はたして自分にはそんな相手が見つかるのだろうかと思いつつ、冴羅は朱音の姿をいつまでも眺めていた。
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