第4話 入隊


 数日後―――退院した俺は、フィリアに連れられて特務心装部隊第三小隊に、あてがわれた寮舎へと来ていた。

 

 「この棟が、私たちの小隊用なの」


 それは、ほかの棟に比べると幾分かきれいで大きかった。


 「どうして、この棟だけが?って顔をしてるわね」

 「はい」

 「私たちは、前にも言ったように特務部隊でしょ? 特務部隊は普通科の部隊より危険度の高い任務に就くわ。だから、せめてものって配慮なの」


 なるほど、命の危険度が高い特殊部隊に与えられた特権のようなものか。


 「お庭もあってきれいですね」

 「庭でもないと心がすさんでしまうわ」


 そうか……常に俺がケルンで見たような化け物を相手取るんだもんな……。


 「中に入るわよ?」

 「はい」


 玄関から中に入って一階の食堂らしき部屋に入ると――

 左右両方からパン、パンという炸裂音とともにカラフルな紙片を浴びせられた。


 「シン君、入隊おめでとうっ!!」


 これは?とフィリアさんの方を見ると、どこに持っていたのか目の前でクラッカーをぶっ放す。


 「うえぁっ!?」


 眼前で爆ぜたクラッカーに驚き変な声を上げてしまう。


 「今日から君が、私たちの部隊に配属になると聞いてささやかですが歓迎会の用意をしました」


 エプロンを着た、黒髪の少女はにこやかにそう告げた。

 そのエプロンは、調理をしたときに汚れたらしく染みが何か所も見受けられた。

 祝ってもらったのっていつぶりだろう―――そんな考えが頭をよぎる。


 「じゃあ、隊のメンバー紹介と行きましょう。右から順にアンナ、イリス、リーヴァイス―――」


 七人の紹介が終わる。


 「さっさと食おうぜ? ちんたらやってたら冷めちまうわ」


 和やかな雰囲気は、リーヴァイスと呼ばれた白髪褐色の男によって壊された。


 「リーヴァイス、今は歓迎会の途中ですよ?」

 「んなもん、別にいらねーだろ。一緒の部隊になったからってなんだ、戦って運がなきゃ死ぬ。それをどうすることもできねぇ。それだけの付き合いだろう」


 そうだ、といわんばかりにアンナとイリスをのぞいたメンバーがリーヴァイスのそばに立つ。


 「でも、隊内の絆は部隊行動をとるのには重要でしょう!!」

 「ハンっ、絆とか団結だとか生ぬるいことをいつまでもほざいてんじゃねぇぜ」

 「くっ……」


 最悪な雰囲気になった俺の歓迎会――どうしようかと思っていた時、天井のスピーカーから音声が聞こえてきた。

 それは――












 第二戦区CS-05 キーロフから東に80?



 「オブサーバー03よりキーロフコントロールへ」

 「……こち…キーロフ…ントロ…ル」


 ジャミングにより電波妨害が激しく高性能なはずの無線機もノイズが大きかった。


 「ターゲットを確認した」

 「……状況を…告…よ」


 観測機は、周囲を一周するように飛行する。


 「ターゲットは、最大でもカテゴリー3クラス。まだ転送は始まっていない」


 ここでのターゲットというのは、虚構世界との衝突面のことを指す。

 

 「…ばらく、偵…を続…せよ」

 

 衝突面は山の麓に大きな口を開けている。

 そしてその直後―――大きな口いっぱいに白く輝き始めた。


 「オブサーバ03より、キーロフコントロールっ!!」

 「……」


 さっきよりもジャミングがひどくなったのかノイズしか聞こえなくなった。


 「オブサーバ―03より、キーロフコントロールへ。本機は、これより現空域を離脱し、通信可能な空域に入り次第連絡する」

 「……」


 偵察機は、旋回するのをやめて第二戦区CS-05の方向へと進路をとった。

 それ以降、その偵察機からの通信が入ることはなく―――別の偵察機が、しばらくした後に第二戦区CS-05 キーロフから東に50?の地点で衝突面から出現した「 」を発見した。


 「オブサーバー05よりキーロフコントロールへ。移動中の敵を発見。本機との距離、目測5000」

 「キーロフコントロールよりオブサーバー05へ。敵のカテゴリーと種類、数は?」

 

 ジャミングはほぼ無く、正常に音声を受信できた。


 「カテゴリー2と思われるガーゴイルタイプが十数体。その上空にカテゴリー1程度の飛翔物体。数は計測不可能っ」

 「数が不明とはどういう意味か、報告乞う」

 

 飛翔物体と報告されたそれは、ガーゴイルタイプの虚獣の上空を覆いつくしている。


 「数が膨大で数え切れません」

 「今しばらく、現空域にとどまり偵察を続行されたし」

 「了解」


 ―― 第二戦区CS-05 キーロフ指揮所 ――



 「防衛司令部より偵察機の報告のあったポイントへ、無人攻撃機を発進し攻撃せよとの命令が下った。キーロフコントロールよりエア・グループへ。直ちにリーパーを発進せよ。各指揮所へ通達。迎撃戦闘配置につけ」

 防衛都市の中にある小高くなった丘にある飛行場には、二個飛行大隊五十四機のMQ-9リーパーが並べられた。

 無人攻撃機は機体に人間は搭乗していないが、有人の地上誘導ステーションで遠隔操縦され地上誘導ステーションの操縦員は、パイロットとセンサー員が1人ずつ計2名で構成されている。

 完全に無人ではないのだ。

 このリーパーには、950SHP (712 kW) のターボプロップエンジンが搭載されており、分解して輸送機で輸送可能で、人類の生存圏の東端にある、第二戦区CS-05キーロフには、各防衛都市で最初に無人攻撃機が配備されたのだ。

 武装として両翼に3つずつ計6つのハードポイント(軍用機の下部に設けられた武装を搭載するための取り付け部)に空対空ミサイルを合計で六発搭載している。

 

 仕様は以下の通りでカテゴリー2までの虚獣との戦闘であれば十分な性能と威力を持つ。


 操縦員(遠隔操作): 2名(パイロット1名、センサー員1名)

 エンジン: ハネウェル TPE331-10Tターボプロップエンジン、出力950 SHP(712 kW)

 最大燃料搭載量: 1,815 kg (4,000 lb)

 長さ: 11 m (36 ft)

 翼幅: 20 m (66 ft)

 空虚重量: 2,223 kg (4,900 lb)

 最大離陸重量: 4,760 kg (10,500 lb)

 最高高度: 15,200m (50,000 ft)

 運用高度: 7,600m (25,000 ft)

 滞空時間: 14?28時間

 航続距離: 5,926 km (3,200 nmi, 3,682 mi)

 ペイロード: 3,750 lb (1,700 kg)

 最高速度: 482 km/h (300 mph, 260 knots)

 巡航速度: 276-313 km/h (172-195 mph, 150-170 knots)

 レーダー: AN/APY-8 Lynx II

 センサー: MTS-B 


 次々とキーロフの飛行場からリーパーが飛び立っていく。

 そして、防衛都市を囲む防壁の上でも迎撃態勢が敷かれ始めた。


 



 


 ―――スピーカーから流れたのは出撃命令だった。


 「飯すら食わせてくれねぇのか、クソっ!!」


 リーヴァイス達、四人は適当に料理をつかむと味わいもせずに水と一緒に流し込んだ。


 「ごめんなさいね、歓迎会は無理みたい。第三エアポートに輸送機が待機しているわ。急いで向かいましょう」


 リーヴァイス達に、気分を悪くしつつ俺もフィリアさんに続いて第三エアポートへと向かう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理滅のヴァイオネット〜虚無に侵食されし崩壊世界〜 ふぃるめる @aterie3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ