子牛が、子牛が…

 先週、9日木曜日から、長女ゆっちゃんが1泊2日で帰省しておりました。(施設は30km先でございます。)


 9日の朝、本当は通院してから、午後からゆっちゃんを迎えに行く予定だったのです。

 が、夫が血相変えて、走って帰ってきます。

「病院何時から?! 子牛生まれたんだけど、無理?!」

「あ、11時からだから、まだ時間あるし、行くよ」

と、作業着を着ようとしたら、

「ついさっき向こう側のが生まれたんだけど、今、こっちのが産んでるんだよね」

「えー、マジか??」


 まさかの2頭同時。その2日前に1頭生まれていて、ありえないペースの出産ラッシュ。


 困るのは、当たり前だけど、母牛が全部違うこと。全部別々に絞って、別々にやらないといけないんです。

 でも、生まれたてのは、なかなか上手に飲めない。そして、子牛1頭に飲ませるのに手間取っていると、2頭目に飲ませるための初乳バケツに群がっている猫たち…。

 初乳は、二回目に出が悪いときのことを考えると、置いておきたい。が、夫と二人で牛舎を回しているので、猫を追っ払う術もなく。慌てて2頭目に飲ませるやつを哺乳瓶へ移動。と共に、猫の皿にちょっとだけ入れて気を反らし、その間に2頭目哺乳。

 もう1頭は、ちょっとだけ早く生まれているので、とても上手とは言い難いが、なんとか柵の外からやれるようになったので、

「ふぅ……」


 いや、落ち着いている暇はございません。足元には、牛乳3種類が入ったバケツ、哺乳瓶を洗ったバケツ、きれいに洗い切るための70℃のお湯。それらが、びっくりするくらいの数待ち構えています。

 全部洗ったり仕分けたりして、片付けだけでも結構な重労働です(泣)。


 

 3頭でも、この忙しさだったのに……。


 

 11日には更に追い打ちをかけられます。


「生まれた」

との夫のメッセージに、

「え〜? また? 入れるとこないじゃん!」

とか、不安になりながら牛舎に行きます。

 そして、親牛の腹の中を探っていた夫が一言。

「マジかー!!」

「なにー?」

「双子ー!!」

「マジかー!!」


 もうホントに入れる場所がありません。仕方ないので、牛舎の中の子牛用の狭い柵の中に2頭。

 哺乳は、夫と二人で1頭ずつです。飲み方が下手な上に、狭いので、哺乳している牛に寝返りを打たれたり、立とうとして転ばれたりすると、たちまち、隣の牛の上。すると、そっちも飲むのをやめてしまう。


 もう、大騒ぎです。


 そして、その日から、まさかの5頭体制です。4日前に生まれた男の子と2日前に生まれた女の子2頭は、外のハウスに。その日生まれた双子は、牛舎の中の柵に入れました。

 が、翌日の最低気温を見ると、-10℃を下回るとのこと。

 一番最初に生まれた子を入れてある柵の中にはヒーターがなく、やっつけで、柵の上に屋根をつけ、外からの風も防ぐべくベニヤ合板を打ち付ける夫。家中の毛布を集めてきて、それぞれの牛の柵にかけていく私。

 もー、何? 何でこんな寒い時季に、いっぺんに産むのー?!!


 大変なのは哺乳もですが、搾乳もです。普通の牛は、全部バルククーラーという、牛乳を保存する冷蔵庫にラインで貯蔵されるようになっているので、搾乳する牛のいる場所にチューブのついた搾乳機を持ってって、そのラインに繋いで搾乳なのです。が、産後すぐの乳は、人間が飲めるようになるまでには数日かかるので、別にタンクを持って行って搾乳しなければなりません。1頭ずつ。夫、泣きそうになりながらの作業です。


 一方、私の方は、双子に哺乳するのに、片方に思いっきりつつかれたり、噛まれたり、吸われたり、スリスリされたりしながら、2頭を片付け。絞ってきたバケツに群がる猫たちを蹴散らし。ハウスの3頭にも哺乳します。こいつらは、柵のしきりにかけてある毛布を落とすので、柵をよじ登り飛び越えて、毛布を直します。ここでも、お母さん大好きな奴らに、頭突きされ、舐められ、吸い付かれまくりながらです。

 全部終えると、とんでもない量の片付けと洗い物……。猫の餌やりもこれからです。


 重労働だよ〜(泣)。


 今日、火曜日になって、やっと1頭、ヒーターの入ってない柵に入っていた男の子を出荷。しかし、全然ホッとはできません。何故なら、ヒーターないから、双子のどちらか1頭をそこに入れるわけにもいかないんです(泣)。

 木曜日に、先に生まれた女の子2頭を育成施設に送り出すので(雌牛はそこで子供を産めるようになるまで預かってもらっています)、それまでは、この4頭体制での勝負です。


 もー、ホントに大変すぎて、長女ゆっちゃん、折角帰省してたのに、あまりお構いできませんでした。全然ワガママも言わず、ニコニコしていてくれたので、助かりました。

 とりあえず、好きなもの食べて、ケーキ食べて、パズルして、お家カラオケして、お母さんと風呂入って……くらいで勘弁してもらいました。



 実の娘と、産んだ覚えのない牛や猫のお世話で、お母さんは、ヘトヘトです。


 今、このタイミングで、もう1頭でも生まれたら、お母さんは倒れるでしょう。

 お願い!!

 もっと間隔を開けて産んでー!!

 もっと予定通りに産んでー!!(泣)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る