歩く未来予測変換器
1キミと僕
キミが未来を知っていて、僕は未来を知らないとして、僕が危険な目に遭いそうになった時には、キミは助けてくれるだろうか。
キミの性格からすれば、大事に思っているのなら、きっと助けるだろう。
しかし、僕はキミに何もしていない。
ただ鬱陶しく話しかけるだけ。話しかけてくれるのが嬉しいのかどうかはわからない。嬉しいなんて感情を持つことが、今のキミにあるかどうかもわからない。少なくとも、僕が見ている限りでは、キミが僕以外の人と話しているのを見たことがない。
まあ、僕もキミも学生だから、授業で発言させられることはまれにある。キミは無論挙手しないのだが、それでもあてる先生はいる。
そのときキミは、少し早口気味に、決して間違えずに正しい答えをいうのだった。
話が少しそれるが、言うまでもなく、〝キミ〟は優秀――だが、テストの日は出席しない。だから通知表はボロボロだ。
あんなに可愛い声をしているのに。話すと表情を見せることも多いのに。殆どの人が声をかけようとすらしない。何か人を寄せ付けないオーラでも纏っているのだろうか。確かに僕も彼女と話すのはほかの人よりも億劫に感じる気がする。
でもそれなら、なぜ僕は彼女に話しかけたのだろう。
今の自分は、覚えていない。少し記憶をさかのぼってみる。
あれは――7か月前、僕たちが入学し、授業が始まってすぐのことだった。
僕はすぐにクラスになじめず、話はするものの、僕と会話するとみんな険悪な雰囲気だった。避けられてるんじゃないか、と思うこともあるくらいだった。
会話すると、会話がうまく進まず、頭が真っ白になり、語彙がなくなったみたいな感じになる。しかし、相手が僕に話しかけてくれる言葉は、どれも優しいものだった。
避けられてはいないと信じながらも、教室にいると落ち着かなくて、お昼は一人で人気のない場所へ赴いて食べていた。
そんな時、キミを見たんだ。人形のようにただ居座るキミを。
人気のない場所――といってもいつも同じ場所で食べていたわけではない。いつもいないのに今日だけいる、というようなこともあるため、人がいないところを自分で見つけてから食べていた。見つけられなかったら、食べられない。
ある日見つけた場所――というか空間。普段は人がいることが多いが、その日はなんだか不思議な空間だった。その中に――空気の違うその空間にキミは
キミは美しい。だけど誰とも接することができない。僕は胸が痛かった。だから僕は、その不思議な圧迫感を乗り越えて、少しだけ見栄を張って、彼女の空間に入り込んだんだと思う。
「葛巻さん」
最初は苗字呼びだった。
「何?」
優しい目だった。鋭く冷たい視線でも受けるかと思ったが、思わず見とれてえしまうほど、綺麗、だった。
そして僕は――キミと話した。昼食を食べながら。
彼女はうれしそうな表情も見せないし、関しそうな表情をしているわけではない。でも、段々と打ち解けているような感じではあった。
「僕は
「よ、よろしく。私は……
自己紹介はこんな感じだった。キミは、瞬きもせず、少し驚いたような表情をしていた。
その時のキミも未来が見えて—―否、わかっていたのだろうが、僕には知る由もなかった。キミはその時、何を思っていたのだろうか。
僕はオカルトとか都市伝説なんかにはまるっきり興味がない。しかしキミと出会ってから、キミという不思議な存在には興味を持ち始めた。
そして――月日がたって、僕はたまにキミに話しかけた。
ほかの人よりも少な頻度で。少しずつ。何のためかはわからないが、自分のためにはなっている気がしていた。なんだか正義感があるように思えた。
でもその行動は、なぜだか避けられるようになった。僕がキミがいると思って行った場所に、キミがいないのだ。未来を知って、あえて避けられたのだろう。その時の僕が知るはずもないが。そして僕は、授業後の空き時間にキミを追った。ストーカーまがいの行為だけれど、その時はそうしなければいけない気がした。
「葛巻さん」
「何?」
――初めて会った時と同じ会話。
「なんで避けるんだよ?」
「あなたに迷惑変えたくないから」
「キミのその不思議なオーラは、自分でわざと出しているの?」
「? 意味が分からない。人間がオーラとか出せるの? あ、でも……」
キミ――葛巻さんは少し迷うようなそぶりを見せて。
「まあキミにならいいか……。あのね、私オーラは出せないけど、普通人間にはできないことができるの」
「え?」
「実は私…………少し先の未来がわかるのよ」
「え……? 未来?」
キミは淡々とそう言った。……未来がわかる。あり得ないけれど、すぐに信じてしまいそうだった。
「信じられないよね」
「うん」
「そうよね……」
「でも」
「え?」
「葛巻さんは嘘をつかない人だと思うから、信じられる気がするよ」
「え?」
「どうしたの葛巻さん。そんな顔して……はは」
見たことのない、目をまん丸にした顔。少しおかしくて、笑ってしまった。未来がわかる、そんなおかしなことを言っておいて、自分までおかしな顔をしているなんて。
「そんなに面白い顔してる?」
「いや。珍しい顔をしたから」
「そう?」
「葛巻さんがそんな顔するとは」
「あのさあ」
「ん?」
「クラスメイトなんだし、さん付けはやめようよ。さっきから気になってた」
「そうだね……じゃあ僕は」
「?」
「キミって呼んでいいかな」
「え? いいけど……」
「名前もいいんだけどさ。楓華っていい名前だと思うし。だけど僕がそう呼ぶのはなんか変な気がしてね。キミはちょっと不思議で面白いし、僕はキミって呼びたい」
「うんわかった。じゃあ私は……」
「うん」
「普通に蓮くんって呼んでいい?」
「もちろん」
「じゃあ蓮くん。これからもよろしくね」
「ああ、うん。キミもこれからよろしく」
――こうして僕とキミとの関係が大きく動き出した。その日から、僕は明日が楽しみになった。キミにも学校生活が楽しいって思ってほしくて、僕はキミに話しかけたのだろう。ヒーローみたいにカッコつけたくて、僕はキミに話しかけたのだろう。
――未来がわかる。そんな不思議な女子がいた。けれど彼女は正直な、嘘のつかない人だった。とても美しいが、その不思議なオーラのせいか、誰にも相手にしてもらえない。しかし無駄にカッコつけたヒーローが現れて、彼女の人生は大きく変わった。楽しくも悲しくもなかった人生が、『楽しい』の方向に少し傾いた気がしたのだ。
あるいはキミの瞼のウラに 星色輝吏っ💤 @yuumupt
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