第60話
そこから私は、よーたから市川さんの現状について話を聞いた。
市川さんが嫌がらせを受けているらしいこと。
よーたが彼女を助けたいということ。
だけど本人からは拒絶されていること。
うぅぅ……そ、そんなことだろうと思ったさ。
もう! 一人で勝手に舞い上がって恥ずかしい……。
市川さんがここのところ様子がおかしかった理由はわかったけど、結局のところ肝心なことを聞けていない。
私は顔が赤くなっているのを悟られないようによーたに聞く。
「そ、それでさ。結局、よーたと市川さんってどういう関係なの?」
「あー、それは……言わなきゃダメ?」
よーたは気恥ずかしそうにしている。
その姿を見て、私は嫌は予感がした。
「言えないような関係なの?」
「そういうわけじゃないけども……」
「じゃあ、教えてくれる?」
自分の心の乱れを悟られないように、何気なしに聞いた質問だったが
後悔が襲ってきた。
もし、私が望んでいる答えじゃなかったら?
そう思うと本当は聞かなきゃ良かったんじゃないか、と胸の鼓動がどんどん早くなっていくのがわかった。
も、もしかしてのもしかしてだけど、二人は────いやいや、そんなこと。
片や学校でもトップクラスに神格化されていた美少女で、片や特に特徴はなくて平凡だけど、結構お人好しで優しい男の子。
あるはずない……よね?
そんなこと言い切れないのに。
否定しつつもそれが頭の中で二人が一緒にいる姿が横切る。
心臓がドクンドクンと脈を撃ち始める。
ああ、嫌だ。やっぱり聞きたくない。
「実を言うと──俺たち付き合ってたんだ」
シーンと一気に静けさがやってくる。
ガヤガヤと周りは騒がしいのになぜか私の耳には彼の声だけがスッと入ってきた。
「そ、そうだったんだ」
震える声で答える。
落ち着け。落ち着くの、私。部活で鍛えた精神力を今こそ発揮するところ……!!
「そうなんだ……」
もう一度、同じ言葉を吐きだして心を整えようとする。
私の中で二人の関係が固まった。
や、やっぱり付き合ってたんだ。
痛い。胸が痛い。思ったよりもしんどいな……。
ああ、ダメだ。堪えて。
「って言っても振られたんだけど」
「え!?」
その言葉でパッと顔を上げた。
いまだに心臓の音は騒がしいのにちょっとだけ声色が明るくなる。
なんて現金な女なの、私。
「えっと、ということは今は付き合ってない?」
「そうだけど……」
「ふ、ふーん?」
な、なら。まだセーフだよね?
べ、別に私が好きになってても問題ないよね?
ということはよーたがここのところ元気がなかったのはそのせいか……。
不謹慎ながら自分の想い人が振られたという事実を喜んでしまっていた。
けれどまたすぐに自分の考えを思い直す。
で、でもよーたは市川さんをそれでも助けたいんだよね。それってつまり……。
「よ、よーたは、市川さんのことまだ好きなんだね」
「……うん。そうなんだと思う」
恐る恐る聞いた質問も返ってきた答えは肯定。
そんなのってない。
男扱いされてきた私がせっかく好きだと思える男の子と出会えたのに。
しかも、私の親友はその男の子ことが好きで。その男の子は別の子が好き。
……瞳は知ってるんだろうか。
「元々は、別に市川さんのこと好きって言うか、あんまりそういう気持ちは持ってなかったんだけどさ。崎野さんに言われて色々とな。気づかされて」
崎野さんと言えば、市川さんの親友の女の子だったはず。
「崎野さんに言わせれば、その嫌がらせに関わらせないように拒絶してるんだろうって。だから俺を振ったのもきっとそのせいだって」
つまり、二人は両想いということ。
「だからってわけじゃないけど、それでもやっぱり例え、市川さんの好意が俺に向いていなかったとしても俺が彼女を好きなら助けたいなって」
好きなら助けたい。相手がどう思っていようが関係なく。
「だから力を貸して欲しいんだ。市川さんを助けるにはアキの助けがいる。頼む!」
よーたは、そう言ってこちらに頭を下げてきた。
ずるい。本当にずるい。
よーたはわかってない。私がよーたのことを好きになっているのを。
それでこんなお願いをしてくるなんて。
本当にずるい。残酷だ。
ここで私が助けなかったらきっとよーたは悲しむ。
だけど助けたら二人の関係を元に戻す手伝いをすることになる。
私は報われない。
ああ、もう! どうしたらいいの!?
こんなに悩むなんて私らしくない!!
私はどうしたいの!?
よーたを助けたい? 助けたいよ!!
でもだからって……勝手によーたを振っておいて悲しませた市川さんには負けたくない!!
これが例え、よーたと彼女の二人の関係を元に戻す手伝いをすることになったとしても。
私はよーたを助けたい。
そして私の方が相応しいって証明してみせる!
そのためにはまず。
「わかった。協力する」
私がそう答えるとよーたは顔を明るくする。
その表情に少しだけ胸がチクリと痛みながらもそれを堪えて、言葉を続ける。
「協力っていうとどういうことをすればいいの?」
「うん。アキって結構、いろんな女子と仲がいいでしょ? だからいろんな女子から聞き込みをして、市川さんに嫌がらせをしているのが誰かを調べてもらいたいんだ」
「そういうことね。オーケー。そういうことなら任せて」
よーたが言う通り、女子との交友関係は誰よりも広い自信がある。
自分のクラスだけでなく、他のクラスにも自分と仲良くしてくれる女子はたくさんいるのだ。
そんな友達を介して、聞き込みをしていけば間違いなく、犯人へとたどり着く。
「助かるよ。アキ」
「どういたしまして」
よーたは安心しきっている。
だけど、私だって何も好きな男の子とために、その男の子が好きな子との関係を取り持つことをタダでしようと言うわけではない。
負けるわけにはいかないから。
「ただし条件がある」
「え?」
「あのね──」
私は微笑んでよーたにある一つの条件を提示した。
「それって……」
よーたはその提案に驚いた顔をする。
しばらくして、よーたは私が提示した条件をじっくりと考えた後、うなずいた。
交渉成立。
それなら私だって本気で好きな人のために行動できる。
ただ、やっぱりそれだけ市川さんへの想いが本気なんだと思うと胸がまた痛くなった。
ううん。大丈夫。私にだってチャンスはある。
諦めたらそこで試合終了なんだって、どこかで聞いたことある。
だから絶対にこのチャンスを逃したりはしない。
よーたを私に惚れさせてみせる!!
────
感情の整理にもう少し時間をかけても良かったですけどね。ぱっぱといかせてもらいました。
アキちゃんには約束のために頑張ってもらうことにしましょう。
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