第46話
俺たちは映画館を出ると館内にあるフードコートへやってきていた。
まだ晩ご飯には時間があるのでここでお茶でもしながらゆっくりしようとのことだった。
なんだか本当にデートっぽい。
なんて浮かれてなんていられない。いや、浮かれてないよ?
さっきの映画館での出来事。
俺に後ろから話しかけてきたのは間違いなく、市川さんだった。
そしてあの一言。
間違いなく、俺と遠野さんのやりとりを見ていたはずだ。
そもそも今日は、遠野さんと他の人を加えたメンバーでの行動と伝えている。
それが二人っきりで映画なんて……。
明らかに俺が嘘をついて浮気している絵面にしか見えない。
非常に不味い。
なんとか市川さんを探し出して誤解を解かねばならない。
フードコートにあるいくつかの店舗のうち、俺たちはクレープ屋に入った。
遠野さんはそこでクレープを購入。
その店はクレープ以外にもドリンクも売っていたので、俺はアイスカフェラテを買うことにした。
フードコートはもうピークアウトしていたのか、席もまばらに空くところ見える。その中の一つに俺たちは座った。
遠野さんは座ってからクレープをおいしそうに頬張る。そして幸せそうな顔をする。
なんだか小動物のように見えて可愛い。
前も思ったが、遠野さんって結構、食べること好きなんだな。
「美味しい?」
「ふぇ? あっ……うん。おいしい、です……」
俺の唐突な質問が不意打ちだったのか、クレープに集中していたあまり、敬語になって遠野さんは恥ずかしそうに答えた。
俺に見られていることを意識した遠野さんはこちらを気にして先ほどより、控えめに食べる。
そのことがなんだかおかしくて笑ってしまう。
「気にしないでいつも通り食べていいよ」
「……もうっ。小宮くん、私のこと食いしん坊だと思ってるでしょ?」
「あれ? 違った?」
「ちが……っ、わないけど……」
遠野さんをいじると返ってくる新鮮な反応にこれまた頬が緩む。
以前はこうやっていじることもしなかったほど、彼女との関係は慎重だったからそう思えば、今は心にゆとりがあるのかもしれない。
「こ、小宮くんはいっぱい食べる子は嫌い?」
「うっ……」
恥ずかしそうにクレープを持ちながらされる上目遣いの威力は高い。
計算じゃないんだろうけど、これは……。
やっぱり遠野さんは可愛い。
「いや、俺はそんなこと気にしないよ」
「ふふ、よかった」
安心した顔を見せた遠野さんはまたクレープを頬張った。
それを見て和む俺。
平和だなぁ…………ってこんなことしてる場合じゃねぇ!!
い、市川さんをとりあえず探そう!
「と、遠野さんごめん。ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな?」
「え? うん、大丈夫?」
「うん、大丈夫! ここでゆっくり待ってて!!」
俺は遠野さんにそう告げて、その場を後にした。
◆
「はぁ……」
私、市川蒼は、小宮くんに声をかけてシアターを退室した後も施設内をぶらついていた。
モヤモヤ、イライラ。この不思議な感情に振り回される自分に対してもまた苛立ちが募った。
きっと小宮くんのことだから、嘘をついて二人きりになったということはないのでしょうけど、さっきのはいくらなんでも……。
「イチャ付きすぎじゃないかしら。わざとじゃないのでしょうけれど」
思い返せばまた胸がモヤモヤしてくる。
そして文句の一つでも言いたくなってくる。
「またお仕置きが必要ね」
どんなお仕置きをしてやろうかしら。
彼が悪いのではないと分かっていても苛立つものは仕方ない。
だけれど、自分が行ってもいいと許可した手前、それに文句を言うことは自分が小さい人間なのではないかと錯覚させる。
「いいえ。私は彼を信用しているなら放っておくべきね」
それでも私は負の念を振り解き、無理やりにでも気持ちを切り替える。
「これからどうしようかしら」
私は帰ろうかどうか迷った。
それかここまで来たのだから適当にぶらつくか。
でも同じ施設内にいれば、二人に出会してしまう可能性だってある。
そうなれば、また気になり出してしまう。
今もまた、胸の内側からドンドンと。
気になるものは気になってしまう。
「……や、やっぱり監視は必要ね。これは信用とかそれ以前の問題だわ。彼は大丈夫でも遠野さんがどう動くかわからないのだし」
まるで言い訳するように自分に言い聞かす。
「最悪、二人の前に現れるのも悪くないわね。小宮くんが慌てるところも見れるかもしれないわ」
そのことを考えれば段々と楽しくなってきた。
そう。それでこそ、いつもの自分。
「そうと決まれば、早速二人を探しましょう」
「あれ? 蒼?」
そう決心した私を誰かが呼ぶ声がした。
◆
私、満島秋は部活を終えてから駅前をダラダラとぶらついていた。
「うぅ〜」
今日はいつもより疲れた気がする。午前中だけの練習程度であれば、いつもなら居残って練習をしていたけど今日はあまり集中することができず、早めに切り上げたのだった。
それは朝の出来事を思い返していたことが原因でもあるかもしれない。
「なーんか、モヤモヤするんだよね……」
時間がなかったから途中でランニングを放棄したような結果になってしまい、とても残念な気持ちだった。
ただそれだけじゃなかった。
「よーたと市川さんってどんな関係……?」
自販機へ飲み物を買いに行って戻ってきた時。
二人で楽しそうに話していたのが頭から離れなかった。
「まさか付き合って……はないよね。流石に」
別によーたを貶めるつもりは一切ないけど、相手はあの市川さん。
どう考えても平凡なよーたと付き合っていると言われれば、はかなりアンバランスに思えてしまう。
「あ〜う〜」
何かでこのモヤモヤを吹き飛ばしたい気分だった。
「あ……?」
そこで私はすぐ近くの商業施設が目に入る。
あそこだったら何か気分転換でもできるものがあるかもしれない。
そう思い、立ち寄ることにした。
館内に入り、適当にウィンドウショッピングをする。
ファッションと言っても自分が見るのはどれも無難なものだけ。女の子らしくフリフリなものが似合うとは思っていない。
スカートも学校の制服しか持っていなかったし、いつも下には体操服の短パンを着るという色気のなさ。
目に映る女の子らしい服を着た自分はどんな風に見えるだろうか。
よーたにはどんな感想をもらえるだろうか。
ちゃんと女の子らしいと思ってもらえるかな。
「……っ。な、なんでよーたが出てくる?」
一瞬、頭を過った人物について、頭を振って掻き消す。
別に今のはそういうんじゃない。
一人で言い訳を唱える。
鏡を見て、映る自分の姿。
切ったばかりの女の子らしくない短い髪に少し焼けた肌。
それに今が部活のジャージ。
あまりにもダサく写っていた。
ぐぅ〜っとお腹が鳴った。
「ヤバ、お腹空いた……」
今は色気より食い気が勝ってしまった。
お昼を食べていなかったことを思い出した私はフードコートへと向かった。
フードコートへ行くとお昼のピークの時間が過ぎたせいか、時より席が空いているように見えた。
私はちょうど、席が開くのを確認して、カバンを置きに行く。
「……え? 瞳?」
「あ、アキちゃん!?」
その席の隣にいたのは、一人で座っていた瞳だった。
────
昨日夜、今日の朝投稿できず、すみません。
半端な時間ですけど投稿します。
タイトルなし。思い浮かばなんだ。
これからは修羅場回以外はタイトルなしにするかも……。
みんなが動き出します。
修羅場へ向けて!!
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