第44話:お誕生日デート?

 朝の運動を終えた俺は、家に帰りシャワーを浴びた。

 市川さんとはあの後、別れたけど午後の遠野さんからのお誘いはどこでやるのかなどを根掘り葉掘り聞かれた。


 特に俺も詳しいことは教えてもらっておらず、集合場所しか言うことができなかったのだが。


 ──あなたを信用はしているけれど、くれぐれもハメははずしすぎないように。


 そう市川さんからは釘を刺された。

 俺はそのことを肝に銘じ、集合場所へと赴く。


 予定よりも十分ほど早く駅前へと着いた。


 友達からこんな形で誕生日を祝ってもらうなんて今までなかったから緊張していた。

 誰がくるとか、何をするとか聞いてなかったけどそれも一つの楽しみとしておいていた。


「お、お待たせ!」


 声がした方を振り返ると遠野さんがこちらへ駆けてくる。


「こ、こんにちは」

「っ。こんにちは……」


 遠野さんは恥ずかしそうに挨拶をする。

 俺もそれに釣られて挨拶を返す。なんとも他人行儀な感じがしてぎこちない。


 遠野さんの私服姿を初めて見た。

 花柄のワンピース姿にカーディガンを着たその姿は彼女によく似合っており、清楚さというものが滲み出ていた。


 かわいい。

 正直に言うと見惚れてしまったほどに。


「へ、変かな?」


 あまりにぼーっとしていたせいか、遠野さんから心配そうに聞かれた。


「あ、いやっ、ううん。すごく似合ってるよ」

「あ、ありがとう」


 や、やばいぞ。かわいい。

 市川さんという彼女がいながらこんなにも心をかき乱されているという事実に俺は動揺した。


 いやいや。大丈夫だ、落ち着け。


「そ、それで他の人って誰が来るの?」

「あー、えっとそのことなんだけど……」


 遠野さんは気まずそうに口籠った。


「じ、実はね。藤本くんも来る予定だったんだけど、こ、来れなくなっちゃったみたいで」

「……え? ほ、他には?」

「ほ、他の人はいないよ」

「とうことは……二人きり?」

「……(コクリ)」


 遠野さんは小さくうなずいた。

 ……これってつまり……その……デートってやつなのでは?


 それを意識した瞬間、体に悪寒が走った気がした。


 ◆


 私、遠野瞳は決心していたことがある。

 それは片想いの相手である小宮洋太くんに想いを打ち明けるということだ。


 あ、いや、告白まではいかなくてもちょっとこっちを意識してもらえるようにするというか、なんというか……。


 と、とりあえず、私が小宮くんのことを気になっている事を知ってもらうのがこのデートの目的だった。


 で、デートって言っちゃった……。


 事の発端はこうだ。


 私が、小宮くんの誕生日のお祝いをさせて欲しいと約束をしたが何をしようか迷って、藤本くんに相談をした。


 ***


 それは小宮くんの誕生日の昼休みだった。

 例の如く、小宮くんは昼休みに姿を消した。

 どこへ行ったのか気にはなったけど、そのタイミングを利用して藤本くんに声をかけた。


「洋太の誕生日? ああ、俺は飯奢るくらいだけど……え? 遠野さんって何かあげるの?」

「えっと……実はもう買ってあるんだけど……本当にこれでいいのか迷ってて。渡しても喜ばれないんじゃないかって思うと中々渡せなくて。だから仲の良い藤本くんなら何をもらったら喜ぶかわかるかなって」

「あー、すまん。そこに関しては俺から大したアドバイスはあげられそうにないな……というか別になんでも嬉しいと思うけどな」

「そ、そう?」


 誕生日プレゼントを買っていたけど、今までに男の子にプレゼントした事のない私は、本当にこれでいいのか、自信がなかった。


「そ、それで相談もあるんだけど、実は土曜日、小宮くんを遊びに誘ってて……」

「えっ!?」


 藤本は私が言ったことにかなり驚きの表情を見せた。

 そしてすぐに何かを考え出した。


「(これってもしかしなくても遠野さん、あいつのこと好きなんじゃね? え、まじ? マジかよ!! ということは両想いじゃねぇか!! 絶対そうだ。これはあいつのためにも、遠野さんのためにも協力するしかねぇ!!! あ、でも市川さんとお似合いとか言っちゃったな……。参った……市川さんがその気になってないといいけど……それはないか!))」


 一人でぶつぶつと言っており、その内容までは聞き取れない。

 そして一頻り、何かを呟くと顔を上げた。


「遠野さん」

「は、はい!」

「正直に答えてくれ。勘違いじゃなければなんだけど……もしかしてあいつのこと好き?」

「──へっ!?」


 あまりにストレートな質問に顔が真っ赤に染まっていくのがわかった。


「あ、言いづらかったら別にいいんだけど、誕生日プレゼント渡すってことはそうなのかなって」


 簡単に彼への気持ちを見破られてしまったこともそうだが、今一度、彼への想いを認識し、言葉が出なくなる。


 私は恥ずかしさのあまり藤本くんの方を見ないで首を小さく縦に振った。


 頷きはしたが、好きか、と聞かれればまだハッキリとは分からない。

 だけど、気になっていることは確か。もうイコール好きなんじゃないかと思うこともあるけど、異性を好きになった経験のない私には断言ができなかった。


「お、おお……やっぱり!」

「うぅぅ……は、恥ずかしい……」

「いやいや、恥ずかしがることないって。さっきの誕生日プレゼントのことで提案なんだけどさ」

「て、提案?」

「今日は渡すのやめておこう!」

「え!? ど、どうして?」

「きっとアイツはどんなプレゼントでも喜んでくれるとは思うんだけど、せっかくだったらその土曜日に渡そうぜ。その方がやっぱり印象深くていいと思うんだよな」

「た、確かに……」

「それでデートプランは考えてるの?」

「実はそのことで相談があって……」


 私は元々、相談するつもりだったことを藤本くんに話す。


 思い切って誘ってみたはいいけど、小宮くんは二人きりを少し嫌がっているようだった。

 そこで私は慌てて、みんなでお祝いすると言ったのだが、誘うべき人が思い浮かばず、途方に暮れていたのだ。


「な、なるほどな……あいつなんで二人っきり嫌がってんだ……? まぁ、じゃあこうしたらいいよ」

「え?」

「遠野さんはお祝いするために俺を誘った。そんで俺は他にも連れていく予定だったけど、ドタキャンした。ということにする」

「そ、それって大丈夫なの?」

「のーぷろぶれむ! 俺に任せときなさい! (あいつ奥手すぎるからなぁ。どうせ二人っきりだと恥ずかしくなるからだとかそんな理由だろ。ここは俺が協力するっきゃない!)」


 藤本くんは片言の英語を使うと自信満々に胸を張った。


「それで遠野さんはアイツと二人っきり。後はデートを楽しんで帰りにプレゼントでも渡せば、万々歳だな」

「で、デートって……」


 デートという単語に反応してしまい、頬が赤くなる。


「じゃあ、俺、応援してるから! ファイト!」

「う、うん。頑張る!」


 ***


 そういうわけで作戦が成功して、私は二人っきりになることが成功した。

 緊張してるけど、服装も褒められたし、今日は……頑張ろう!!


 私は、小宮くんを連れてその場を移動することにした。





 二人が去った場所から少し離れた場所。

 そこで人知れず、二人の動向を観察しているものがいた。


「あれだけハメを外さないようにと言ったけれど。まさか二人っきりということはないわよね?」


 その者は、二人が移動するとそれに合わせて行動を開始した。



──────


まさかの二人っきり……そして背後から忍び寄る影。

ああ、小宮くんの運命は如何に。


修羅場が生温いという意見をいただきました。

否定はしませんが作風から本当の修羅場のようなドロドロしたものになることはないかと思います。

ご了承くださいませ。

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