好きな子に告白できなかったので学年一の美少女で妥協したら修羅場しかない

第40話：女神様のいない一日(後)

「ね、眠い……もう限界……」

　昼食の時は一周回って元気とかなんとか言ってたけどやっぱりその先は、地獄だった。

　ピークを超えたらやっぱり谷は来るもので、俺は極限状態だった。

　にもかかわらず、今日の五限目は体育の授業。

　しかもこないだの体力測定の続きで内容はシャトルランがだった。

　まさに地獄。

　俺は七十二回で倒れ込む様に体育を終えた。

　その後の授業は極限の睡魔と闘いながら受けていた。

　そして今日に限って運が悪いことに寝ることに関しては厳しい先生の授業が続いた。

　体育＋その先生のコンボを極悪だった。

　なんとか気を張り巡らせて、時折隣の遠野さんに起こしてもらいながらなんとか乗り切った。

「洋太。よかったらこの後、どっかいかね？」

「パス。俺は帰ったら速攻寝るんだ」

「何したらそんな疲れるんだよ？　体力ねーな」

「運動バカのお前と一緒にするな。ともかく、俺は帰る」

「しゃーねー。適当にゲーセン寄って帰るか」

　ナカは俺が誘いを断るとつまらなさそうにして帰っていった。

　そして俺も一人で自宅への帰路へ着く。

「あれ？　よーた。どうしたの、そんなフラフラで」

　玄関を出て外へ出るとジャージ姿の生徒に声をかけられた。

「……ああ、アキ。寝不足で……帰ったら速攻寝るんだ」

「寝不足？　どうしたの、大丈夫？」

「まぁ、いろいろあってな……なんとか。アキは今から部活？」

「そうだよ。ちょっと今日はグラウンド整備で自主練の日なんだ。外へランニングしにいくところ」

　自主練って部活ない日だよな？

　ストイックだよな〜。

「そういえば、だけどこの間してた約束どうする？」

「約束？」

　はて、何かしてったけな……。いかん、頭がボーッとして思い出せん。

「……覚えてないの？」

「へ？　あ、いや……あれだよな！！」

「へー、じゃあ、何の約束だったのかな。教えてもらえる？」

　約束約束約束……だ、だめだ。全然覚えてない。

　アキは呆れたような顔でこちらを見ていた。

　これは完全に俺がその約束を覚えていないことが見抜かれている様だ。

　……ヘタな嘘は付くもんじゃない。

「ごめん。覚えてないです……」

「そんなことだろうと思った。あれから連絡先交換したけど全然、連絡もないんだもん」

「あー、いろいろあったといいますか……」

「まぁ、私からも送らなかったからそれは私も悪いんだけどさ。で、約束の件だけど、土日に朝走るって言ってたでしょ？　明日どうするのかなって」

「……あ」

「悲しいなー。完全に忘れてたやつー。あー悲しいよー」

「ごめんっ！　本当にごめん！！」

「別に謝って欲しいんじゃないけどさ。朝はいつも一人だったから誰かと一緒に走るのが楽しみだっただけだし」

　そんなに楽しみにしてたのか。

　それはなんというか申し訳ないことをした。でも本当にいろいろあって、土曜のことを考えることがなかったのも確かだ。

「あ、でもそれだったらアキから誘ってくれたらよかったんじゃ……」

　俺がそう言うとアキはまた小さくため息をついた。

「……察せ！！」

「何を！？」

　アキに軽く小突かれてしまった。地味に痛い。

「で、明日はどうする？　今日も寝不足なんでしょ？　やっぱり体力的に厳しいなら明日はやめておこうか」

「……いや、行くよ。せっかく約束したんだし、こっちの勝手な都合でなかったことにするのは悪い。今から爆睡したら全然間に合う」

「ふっ、そうこなくっちゃ！　じゃあさ、住所送っておいてよ！　朝、走って迎えに行くから。寝て忘れるといけないからすぐに！　じゃあ、ちょっくら行ってくる！！」

「え？」

　アキは言いたいことを俺に伝えて、まるで嵐の様に走り去っていった。

　元気が有り余っているというか、なんというか。衝動的に走りたくなったのだろうか。

「……にしても住所か。朝来る時も走ってくるとか、どんだけバイタリティ溢れてるんだ？」

　俺はその後、忘れない様に彼女のラインに住所を送っておいた。

「あー、だめだ……目が霞む。早よ帰ろ」

　その後、俺は学校を後にして自宅への帰路を急ぐ。

　ようやく、道を半分過ぎたところで後ろから声がした。

「小宮くん！！」

「え、あれ？　崎野さん？」

　崎野さんは俺を見つけると少し曇った表情で小走りでやってくる。

　そして俺の前で膝をついて息を整えるとまたムスッとした表情をした。

「どうして先帰っちゃうの！？」

「え」

「放課後、話があるって言ったのに……」

「Oh……」

　朝、後で話があると言われていた。なんやかんやで放課後になったのだが、それを俺はまたもやすっぽかして帰ってしまったのだ。

　……今日の俺は本当にダメみたいだ。

　寝不足って集中力を低下させる。これは市川さんの呪いに等しい。

「先生に呼ばれてる間に居なくなっちゃうんだもん。ひどいよ……」

「ほ、ほんとごめん。今日、寝不足でめっちゃ疲れてて……」

　ああ、言い訳がましい。

「え、あ、私の方こそごめん！　そんなに疲れてるんだ……」

　崎野さんはそれを聞いて、怒っていた表情から申し訳なさそうな顔になった。

「いやいや、俺が悪いから！　それで話って何かな？　今ここでも大丈夫？」

「え、あ、うん。大丈夫！　えっとね、実は昨日誕生日って聞いたんだけど」

「お、おお。そうなんだよ、実は」

「やっぱり！　それで渡したいものがあって！」

　崎野さんはカバンの中をゴソゴソと探り、箱を取り出した。

「こ、これ！　誕生日おめでとう！　ってことでプレゼントですっ！」

「え、俺に！？」

「そう、小宮くんに！」

　まさか、崎野さんからプレゼントをもらうとは思わなかった。

　もらったのは嬉しいけど、崎野さんとはそんな間柄じゃないと思うんだが……なんというか気後れするな。

「その……今までそんなに仲良かったわけじゃないから、不思議に思うかもだけど、その……蒼とのことお世話になったから……」

　崎野さんは段々、言葉尻が小さくなっていく。

　なるほど、これはお礼も込められているということか。

「や、やっぱり迷惑だよね？」

　崎野さんの顔がどんどん不安に染まっていく。

　突っ走りがちな性格の崎野さんはこれも迷ったのだろう。

　浅い関係の俺にプレゼントをあげて良いものか。

　でも、せっかく選んでくれたんだ。それを突き返すなんて真似できそうもない。

「いや……お礼ってことなら。もらっておくよ。ありがとう」

　俺がプレゼントを受け取ると崎野さんの顔はパッと明るくなった。

「よかった！　あ、中身はハンカチなんだけどね。あんまり普通の異性の友達にプレゼントするなんて慣れてないから迷っちゃった」

「あ、ああ。そうなんだ。ありがとう」

　どうやら彼女にはサプライズ、という感覚はないらしい。中身を速攻でバラされた。

　彼女らしいと言えば、彼女らしい。

　というか、中身市川さんと被ってんな……。

　まぁ、どちらも大切に使わせてもらおう。

「ふぁ……」

「あ、ごめん。疲れてるって言ってたね。引き止めてごめんね。そんなに眠たいの？」

「正直、早く布団にダイブしたい」

「あはは、何それ！　大丈夫？　途中で倒れない？」

「倒れたら半日は起きない自信がある」

「ええ！？　大丈夫じゃないじゃん！　お家どこ？　送るよ！！」

「え？　あー、いや」

「遠慮しないで！！　ほら！」

　そうして俺は断る暇もなく、崎野さんに送ってもらうことになるのだった。