第33話:アイツの目論見
私たちの返事を待つことなく、篠塚さんが無理やり一緒の席へとねじ込んできた。
一体何が目的で私たちに近づいてきたのか、疑問に思っていると篠塚さんはすぐにお手洗いへと席を立った。
「ここ寄ったら偶然いるんだからビックリしちゃったよ。用事がここに来るだけなら一緒でもよかったのに」
「あ、ああ、本当にな!」
「……」
神宮寺くんはニコニコとしながら、長野くんはというと本当に会ったのが偶然かのようなリアクションだった。
「……ん? どうしたの、蒼?」
私が訝しげに視線をその人物へと送っていると彼は和かに笑い、首を傾げた。
「なんでもないわ」
私も笑って誤魔化す。
胡散臭い。
ここ最近は特に、彼に対してそう思う様になってしまった。
今までは特に気にしたことはなかったのだけれど、小宮くんとの関係を秘密にし始めてからそれがより顕著に出る様になったと感じた。
クラスでは人気者で彼と私をくっつけさせようとする人も多いけど、本当にやめてほしい。
ほんの少し前までは気にならなかったのに……今の彼はまるで……。
適当に話してから頃合いを見て、帰ることにしましょう。
「それにしても人多いわね。嫌になっちゃうわね。私、こういうとこ来たの初めてだわ」
そんな私の思考を遮る様にお手洗いから戻ってきた篠塚さんが戻ってきた。彼女は、周りを物珍しそうに見渡しながらソファ席へと座った。
「ん〜、なかなかね!」
そしてポテトを摘んで一口食べると次々に放り込んでいく。
「篠塚さん、何かいる? 追加で欲しいものあったら俺買ってくるよ」
「いらない」
そんな篠塚さんを見て、長野くんは気をかけている。
篠塚さんは首を横に振り、軽くあしらうと長野くんはうなだれていた。
……わかりやすいわね。
「それで静たちは何の話を話してたの?」
そんな横で項垂れる友人を放置して、神宮寺くんは静に質問をする。
「え? あー……まぁ、いろいろとね!」
「へぇ、秘密かー」
静はそれに一瞬、言葉が詰まるが内容をはぐらかした。
単純に私と彼らとの仲を懸念してか、小宮くんへの誕生日プレゼントのことを知られたくなかったのか。
……おそらくそのどちらもでしょうね。
それにしても……私でなく、静に聞くところがいやらしいわね。
「篠塚さんはどうして神宮寺くんたちと一緒にいるのかしら」
「それはアン」
「実は、蒼たちに断られた後、誘ってさ。せっかくだし、転校生の篠塚さんとも仲良くしたいなって思ってね。ね、翔?」
「え? あ、ああ、そうなんだよ! 俺、篠塚さんと仲良くしたい!!」
「…………」
どうやらこれは本当みたい。
長野くんは、篠塚さんにお熱の様ね。
その篠塚さんは言葉を遮られて眉を顰めているけれど。
「それにちょうどよかったよ。ここ最近、蒼、俺らのこと避けているし」
「……別にそんなことないわ」
「そんなことあるよ。蒼とあんまり話せてなかったからこの前みたいな行き違いもあったんだと思うし」
……行き違いね。
あくまで彼の中ではそうなっているのかしら。
「それで翔も改めて、蒼にちゃんと言いたいことあるみたいなんだ」
「あ、ああ! そうだ。蒼! この前は本当っごめん!!」
そう言って、長野くんは店の中だというのに周りの目も気にしないで頭を下げた。
「なぁ、蒼。翔も謝ってることだし、いつまでもヘソ曲げてないでさ。許してやってあげてよ。それでみんなで仲直りして篠塚さんの歓迎会でもしよう」
許すも何もない。
彼らが謝るべきは私じゃないはずなのに。
それに本当に彼に対して申し訳ないと思っているのかといえば、そうじゃないでしょうに。
歓迎会? 何を言ってるの?
……気分が悪い。
「ふーん、そういうことだったの」
「へ?」
どう返そうか迷っていると横から篠塚さんが遮った。
顔を見ると心底不快そうな表情をしていた。
長野くんは下げていた頭を上げて、そんな彼女の様子に困惑する。
「私を誘ったのは、単に市川と話すためってワケね」
「あ、いや、違っ……」
「ったく。悪いけど帰るわ!」
篠塚さんは気分を害したのか、席を立つ。
長野くんが呼び止めるも虚しく、彼女は店を出て行った。
それにより、私たちも解散する運びとなった。
正直、彼女にはあまりいい印象がなかったけれど、これは彼女に感謝ね。
解散した後、私は家路へと急いだ。
◆
「つまんないわね」
私、篠塚紗は解散した後も一人で適当にぶらついていた。
迎えを呼んでもよかったが、なんとなく街を歩きたい気分だったのだ。
私が怒って店を出るとあの長野とかいう頭だけは派手な男子生徒が追いかけてきて謝ってきた。
誤解だとかなんとか言ってたけど、別にそんなことはどうでもいい。
執拗に頭を下げるその姿もいい加減鬱陶しかったので、私は無視してその場を離れたのだった。
今回、あの神宮寺に誘われて付いて行ったのは、単純に市川蒼について知りたかったからだ。
体育の一件で負けたというのもあったけど、保健室での出来事。
今にして思えば、彼女と洋太の間には何かがあるように感じた。
まさか彼女が洋太の恋人ではないかと疑ったが確証までは得られていない。
『蒼のこと教えてあげるよ』
そんな甘言に騙されて、ダシにされるなんて……そんな自分にも腹が立つ。
市川のことがわかれば、洋太との関係もはっきりすると思っていたけど、飛んだ宛が外れた。
それに市川がいた場所も分かってたってわけね。
あの場所を指定したのもあの男だった。
偶然会ったから、友達の前で直接揺さぶりをかけてやろうと思ったけどそれもあいつの掌だったというわけか。
それで最後のアレ。きっとあいつはさっきも私が市川と微妙な関係だということをわかっていて、味方してくれると思ったんでしょうね。
簡単にあいつの言葉を信じた私も馬鹿だったけど、長野ってやつはともかく、あいつ少々面倒だわ。
瞳に聞けば、随分クラスでも信用のおける人物らしいけど……。
「まぁ、失敗したみたいだし、いい気味だわ」
結局、情報は何も得られないまま。これ以降もあいつらと付き合う気なんてないし。
「今度、後でも付けてみようかしら」
洋太に彼女にはバラさないであげる、とはいったが、相手があの市川だったら別だ。
負けたままなど私のプライドが許さない。それも洋太の彼女だったとしたら尚更。
「……あれは、市川?」
そんなことを考えていると偶然にも解散した後の市川の姿が見えた。
いつの間にか、制服からカジュアルな格好に着替えている。
あれから小一時間経っているのでそれも別におかしなことではない。
彼女はスーパーから出てきており、大きな荷物を持って食材を買い物をしていたようだ。
「何かしら? 気になるわね」
さっきはあんな荷物を持っていなかった。
つまり一度家に帰ってから持ってきたということになる。
「…………」
私はその姿を視界に収め、跡をつけることにした。
しばらく跡をつけると、彼女はアパートに入ってく。
オートロックもないような少し築年数の経った普通のアパート。
「まさかこんなところに住んでるわけ?」
ボロとは言わないまでもここに住もうとは思わない。
彼女が階段を上がっていくのを外から見守り、とある部屋の前で立つ。
インターホンを鳴らして、扉から出てきたのは。
「ッ。なるほどね」
自分の婚約者(予定)である洋太だった。
「やっぱり……」
私は小さく笑ってから部屋の中に消えていく二人を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます