第32話:女神様のプレゼント
「蒼、一緒に帰ろっ! ちょっと相談したいことあるんだ!」
放課後になって、静から一緒に帰ろうと誘われた。
夜には泊まりに行くことになっているが、自宅には一度帰ってからになる。
本来であれば小宮くんと一緒に帰りたいところだったが、部屋を掃除しないといけないらしく、時間が掛かるので適当に時間を潰しておいてくれとのことだった。
……さて、一体何を隠したのか、今から楽しみしておきましょう。
それはともかく、最近はお昼も静と一緒に食べれていないし、親友から相談したいことがあると言われれば、二つ返事で頷くしかない。
「ええ、わかったわ」
「やった!」
私の返事に静は顔色を明るくする。ここのところ断っていたから本気で喜んでいるようだった。
「蒼、ちょっと待ってくれ」
そして静と私が教室を出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「……何かしら、神宮寺くん」
振り返るとそこにいたのは神宮寺くんや長野くんなどいつも周りに集まってくるメンバーだった。
昨日、私が教室で叫んでからは空気を読んでなのか、単純に気まずかったからなのか、今日はあまり近づいては来なかったのに……何の用かしら?
「よ、よかったら一緒に帰ろうぜ。いつもみたいにどこかでも寄ってさ」
やはり多少の気まずさは感じているのか、いつもよりもぎこちない。
「こいつが昨日のお詫びも兼ねて、奢りたいんだってさ」
「あ、ああ、そうなんだ! な? お願い!!」
長野くんは手を合わせて祈るようにこちらの様子を窺う。
それを後ろから神宮寺くんが、見守っていた。
お詫びといえば、多少断りにくい空気となると思ったのでしょうね。
確かに周りも、長野くんが謝罪して、私が許す、という風な空気感をなんとなくだが、感じた。
「そうね……」
私がそう呟くと長野くんはパァっと顔を明るくし、神宮寺くんは優しく微笑む。
だけれど、
「悪いけど、今日は静と二人きりの用事があるの。謝罪ならまた今度にして頂戴。さぁ、静行きましょう」
「ぇ!? あ、うん!!」
私はそれを断った。
ポカンとした間抜けヅラに背を向けて私と静かは教室を出る。
断られると思っていなかったのでしょうね。
あの驚愕した顔、少しだけ滑稽だったわね。
「ふふ」
「……?」
思い出してまた少し笑ってしまう。
「静、どこか寄りたいところはあるかしら?」
「……うん!! 駅前! 行こ!!」
学校を出た後、私たちは駅前の方面へと向かった。
◆
「それで相談って何かしら?」
駅前にある雑貨屋やファッション店が入っている複合施設に入って、歩きながらそんな会話を始める。
「じ、実はね? 今日、小宮くんの誕生日だったらしいんだけど……」
「っ」
まさか小宮くんの名前が出るとは思わず、心臓が跳ねた。
「もしかして知ってた?」
「え、ええ……確かに誰かが言っていた様な気がするわ」
必死で取り繕いながら、静に答える。
自分たちの関係を話そうとは言っているが具体的なタイミングは決まっていない。だからこのタイミングで言うことは憚られた。
「それでね、ちょっと今更かもしれないけど誕生日プレゼント買おうと思って!」
「そ、そう。それで何か考えているの?」
「そこなんだよね〜。何がいいか迷ってるんだよね。定番なのでいえば、やっぱりアクセサリーとか小物とかかなぁ」
「アクセサリーや小物……」
そう言われて少しヒヤリとする。
実はと言うと彼へのプレゼントは既に買っている。
どのタイミングで渡すか、一日迷っていたのだが、泊まりに行ったタイミングで渡すことにしたのだった。
そして静の話を聞いて、恋愛関係に疎い自分が、そのプレゼントが世間的にずれていないのかどうかが心配になってきたのだった。
「そう、お洒落な人だったらネックレスとかブレスレットとかもらっても嬉しいと思うし、自分の彼氏がプレゼントしたもの付けてきてくれたりしたら私だったら嬉しいかなぁ」
自分の言ったことを想像しているのか静は、顔が少し緩んでいる。
ネックレスやブレスレット……彼、そういうのに興味あるのかしら? まるで付けている感じが想像できないのだけれど……。
「小物の方は?」
「うーん、小物だったらより実用的なものがいいかも。電車とかバスをよく使うような人だったら定期入れとかパスケースとかね。それだったら毎日学校にも持ってきてくれるし、使いやすくていいと思うんだよね!」
でも彼、徒歩通学なのよね。あって困ることはないかも知れないけれど、やっぱり毎日使うことはなさそうね。
今のところは自分の買ったものはどれにも当てはまっていない。だからか少しの安心感を覚える。
一体、彼に何をあげるのが正解なのかしら。
「まぁ、その辺になってくるとお金もピンキリだしね。高いものとかにこだわっちゃったらいくらでもあるから……。もちろん、高いのもあげたら喜んでくれると思うけど、やっぱり高校生のうちから高価なものっていうのもなんだか違う気がするんだよね。バイトいっぱいしてお金があるなら別だけど……私、今金欠だ……」
悲しそうな呟きが聞こえてきた。
「って言っても今はただのクラスメイトだし、そんな高価なものもらっても困るよね。だからこの間のお礼ってことで……これにしよう!」
そう言って、彼女は入った雑貨屋で一つの商品を手に取った。
「……うそ」
「……ん? どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ」
そして私は、静が手に取ったものを見て、思わずこぼした。
その手に取っていたのは、私が買ったプレゼントと同じもの……男性用のハンカチだった。
それを見て、焦りが加速していく。
「そ、それにするの?」
「うん! これだったら高すぎず安すぎないし、クラスメイトの誕生日にはぴったりでしょ!」
そう、それは私も思っていた。付き合っていると言ってもまだ日が浅い。
そんな彼に高いものをあげようとしてもきっと遠慮してしまうだろう。
だからあげるものは何がいいか考えた時に、ちょうど静と同じ思考になったのだ。
まさかプレゼントが被るなんて……そんなの思わないじゃない!
「べ、別のしない? ほら、こっちの! アクセサリーもいいって言ってたじゃない。これなら少しお手軽な値段よ?」
私は木製のブレスレットを手に取って彼女に見せる。
「いや〜なんだか、そういうの小宮くん付けてる感じしないんだよね」
「…………」
それは概ね同意ね。
「じゃ、買ってくる!」
「あっ」
結局、静は私が止める間もなく、それを持ってレジへと向かうのであった。
……どうしましょう。同じものを渡してもいいものかしら……。
私が彼女なんだから遠慮することない。だけれど……。
嬉しそうにする静を見て、胸の中がモヤモヤとし始めた。
本当に私でよかったの……?
「蒼? 蒼ってば!!」
「ッ」
「もう、どうしたの、ボーッとしちゃって」
「え、ええ。なんでもないわ」
「本当に? 疲れちゃったね。ちょっとあそこ寄ろっか!」
静が指差した方には、某ファーストフード店があった。
店内に入って、適当なサイドメニューを注文して私たちは席へと座る。
そこで先程の誕生日の続きの話になった。
今度は自分が誕生日にしてもらえたら嬉しい内容という話だ。
「プレゼントもいいけど、後は、やっぱり二人で思い出になるようなこととか、体験とかもがいいよね〜」
「思い出?」
「そうそう! やっぱりどこか連れて行ってもらったりしたらそれだけでも嬉しかったりするな〜。特別な相手と特別な体験ってよくない?」
全く考えていなかった方向からの話に少しばかり、驚く。
「確かにそうね……」
特別な相手との思い出ね……。
ほんの少しだけ昔を思い出した。
……でもそれもありね。
そうね、そうしましょう。小宮くんにあれをしてあげましょう。
私は小宮くんが何をしたら喜んでくれるか、答えにたどり着く。
「ありがとう、静」
「……? どういたしまして?」
小宮くんのためにしてあげることを思いついた私は、少しばかり沈んていた気持ちが戻った。
「あれ? 市川と崎野じゃない」
そこへ、まるで水を差すかのように来訪者が現れた。
「……何よ、嫌そうな顔しちゃって」
「何の用かしら? 私に話しかけるほど仲良くはなかったはずだけれど」
「まぁ、そう言わないでよ。せっかく会ったんだし、よかった席一緒に使わせてよ」
やってきたのは……今日、勝負を仕掛けてきて派手に転んだ転校生、篠塚さんだった。
「あ、アンタたち、ここに市川と崎野がいたわよ!」
断ろうと思った矢先、篠塚さんはすぐさま誰かを手招きする。
「あ、あれ、蒼?」
「偶然だな」
そこからやってきたのは、先ほど教室で別れた長野くんと神宮寺くんだった。
偶然? いいえ、これは……。
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