第18話:修羅場②ー2/2

「え? え? え? え? え?」


 崎野さん、その反応はさっきもうナカでお腹いっぱいです。

 全く同じリアクションをしている崎野さんに俺は再び頭を抱えた。


 市川さんはというと先ほどとは打って変わってまさかの崎野さんの登場に固まってしまった。

 市川さんでもこんなことあるんだな……。


 ここで市川さんが焦りを見せたことにより、俺は逆に冷静になっていた。

 さっきは市川さんに助けてもらったし、今度は俺の番だな。


「あ、あの蒼が……? え? 小宮くん……?」

「静っ、ここれはっ」

「崎野さん。実は、途中で市川さんと会ってね。体調悪かったみたいだから送ってあげてたんだよ」

「!」


 珍しく焦る市川さんを遮って、俺は先ほどと同じような説明をする。

 市川さんは、まさか俺が遮るとは思っていなかったのか驚いた顔をした。


「そうだったんだ」


 ほっ……よかった。どうにか誤魔化せ──


「それって嘘だよね?」

「え゛っ!?」


 てなかったようです。

 なぜに!?


「だって体調悪いにしては蒼ベタベタしすぎじゃない? そんなに引っ付く必要なくない?」

「うっ……」


 鋭い。

 ナカと違って一筋縄ではいかないようだ。


「で、どうなの?」

「い、いやこれは……」


 なんか怖い。

 前みたいな溌剌したキャラはどこ行ったの!?


「ねぇ、答えられないの?」

「い、いや……これは……」


 一方的に詰問され、言葉に詰まってしまう。そのせいで余計にさっきの説明に説得力がなくなってしまう。


「静! これは」

「蒼は黙ってて。私は今、小宮くんに聞いてるの」


 つ、つおい……。

 あの市川さんを押さえ込んだ!?


 もはやいつもの面影はそこにない。

 怖いぞ、この子……。


 もういっそ、本当のことを言うか?

 いや、でも俺の勝手で言うわけにはいかないし……なんか言ったら命の危険を感じる……っ!


「ほ、本当なんだって。市川さんは、体調悪くて。さっきはバランス崩して俺が支えてからベッタリした風に見えただけだと思う」


 これで誤魔化せるか……!? 頼む! 誤魔化されてくれ!!!


「……ふーん?」

「……」


 疑いの目。やっぱり無理があるかもしれない。


「まぁ、いっか。考えたらそうだよね。小宮くんみたいな外でエッチなの見てる人と蒼が付き合うわけないもんね」

「ちょ、それは」

「エッチなの? へぇ」


 勝手に地雷を踏み抜いていかないで!?

 なんか誤魔化せたのかもしれないけど、それとは別問題が襲う。

 横から恐ろしいくらいの圧力が……。


「静、詳しく聞かせてもらえる?」

「この前、土曜日だったかな? 偶然、小宮くんと会ったんだけどね、画面見てニヤニヤしてたらから声をかけたら慌てちゃって! エッチな画像見てたみたいなの。チラッとしか見えなかったけど、女の人の下着が映ってた。何かのやりとりも見えたから多分あれ、SNSか何かで繋がった相手からわざわざ送ってもらってたやつだよ。ヤバくない!?」


 ……嘘だろ? 声をかけたあの時、見えてたの?


「ねぇ、どう思う?」

「ッ。そ、そうね、それは変態ね」


 ……おや? これは市川さんにもダメージ入ってないかい?


 崎野さんの言っているエッチなもののことが市川さん自身が送ったあの写真のことだと気が付いたようだ。

 俺が外で特定の相手からいやらしいものを送ってもらった変態になってしまったのはさておき。


「見る方も見る方だけど送る方も送る方だよね〜。まぁ、SNSとか貞操観念ゆるゆるの人も多いから仕方ないのかもしれないけどね〜」

「ゴホッゴホッ」


 グサグサグサ。

 崎野さんが何かを話すたびに市川さんが傷を負っていく。

 親友の歯に着せない言い方に流石の市川さんも無事では済まない。


 ここまで取り乱す姿も珍しいかもしれない。 

 それがまたなんとなく新鮮で軽く笑ってしまった。


「蒼、大丈夫?」

「……ええ。大丈夫よ。まぁ、そんなに彼を責めないであげて頂戴。何か事情があるだけかもしれないわ」

「うーん……?」


 このままこの話題をしていれば自分にも継続してダメージが来てしまうことを恐れたのか、市川さんは話題を逸らした。


「まぁ、いいけど。私は心配なんだよ! 蒼が体調を悪いの理由に小宮くんみたいな変態にイタズラされないかが」


 イタズラって言うな。なんか犯罪めいた言い方だ。


「……大丈夫よ。彼は問題なくここまで送ってくれたわ」

「……わかった」


 市川さんを心配する崎野さんは頷くと首をこちらに傾け、ギロリと鋭い視線を向けた。

 恐いんですけど。


「…………」


 こちらを睨むと崎野さんは何かを考え出す。


「さ、崎野さん?」

「(でもさっきのはどう見ても……いや、そんなはずないよね。でもここは一つ。少し痛い目を見てもらおうかな。よし)」

「うぉ!?」


 何かをブツブツと言っていたかと思うと崎野さんは急に顔を上げた。


「私、先に行くけど蒼のことちゃんと学校まで一緒に行ってあげてよ」

「え?」

「返事は?」

「は、はい!」


 市川さんと一緒に行かないの?

 さっきの話を聞いて、俺に任せてもいいという判断になったんだろうか。


「蒼のこと泣かせたら地獄の果てまで追いかけるから」


 というわけでもなさそうです。

 こ、こわぁ……。


「蒼も体調が悪いならゆっくりおいで! じゃあね!」


 一瞬で目を血走らせたかと思えば、一転。ニコリと笑って崎野さんは学校へと向かっていった。

 やっぱりあの人なんか恐いよ。

 見てはいけない一面を見てしまったような気もする。


「あれは、誤魔化せたのか?」

「どうかしらね。多分、あの様子じゃ小宮くんは、静に要注意人物として認定を受けたかもしれないわね」


 俺が一体何をした……。


「というか前に親友に話せないって言ってた本当の理由って……」

「そうね。あの子、私のことになると見境なくなるから。関係がバレればかなり厄介よ。もちろん、話がすぐ広まるのも本当のことだけれど。もしかしたら泳がされてるだけなのかもしれないわね」

「は、ははは……」


 渇いた笑いしか出ない。

 市川さんと崎野さんは親友って聞いたけど、ただの友達関係じゃないようにも感じる。一体どういう?


「まぁ、彼女に認めてもらえるように頑張ってね。小宮くん」

「……」


 他人事のように言わないでもらえますか、市川さん。

 市川さんをもってして厄介と言われる崎野さんに目をつけられてしまった俺はどうなってしまうのだろうか。


 ◆


 私、崎野静は、今日早めに家を出た。

 特に理由はなかったのだが、早くに目が覚めてしまったので偶にはゆっくりと待ち合わせ場所で蒼を待とうと思ったのだ。


 いつもの十字路。

 そこが私たちの待ち合わせ場所。まだ蒼は来ていない。

 そこで缶コーヒーでも買って朝の爽やかな日差しを浴びながら待とうとしていると向こうの道から人影が見えた。


 もしかしてもう蒼が来たのかな?


 そう思ってそちらに視線を向けたらまさか蒼が男子生徒に腕を組んでいる場面を目撃した。


 しかもその相手は、小宮くんだった。


 小宮洋太くん。

 同じクラスでナカくんとお友達の何一つ特徴のない平凡な男子。

 この前、見かけた時はついついからかってしまい、反応が面白かったので連絡先を交換した。


 最初こそやりとりをしていたが、やっぱり普通の会話にしかならなかったので途中からあまりラインも適当になり、しなくなった。

 普通に会話をするだけならやっぱりいつものメンバーやそれこそナカくんとかとやり取りする方が楽しかったからだ。


 だから私の中での彼の位置づけは、ただのクラスメイト。それだけだった。


 それなのに、そんな彼が蒼と……?


 私はその光景が信じられずに彼に詰め寄った。


 すると彼は、偶然出会った体調の悪い蒼を学校に送っていただけだという。

 そしてベッタリとしていた理由は、蒼がフラついてバランスを崩したからとのことだ。


 あまりに見え透いた嘘だと思ったが、よくよく考えてみれば、あの蒼が小宮くんみたいな平凡な男子を好きになって抱きつくなんてことありえないと思った。

 逆なら安心。どうせ振られるから。


 だけど念には念を入れておこうと思う。


 苦渋の決断ではあったが、彼に蒼を学校までしっかり送り届けるようにお願いした。


 先に到着した私は二人が登校してくるのを待ち、様子を窺う。


「おい……あれ……」

「どういうこと? なんであんなやつが」

「あの隣のやつ誰だよ」

「くそっ! そこ交われ!!」

「あいつ後で闇討ちだな」


 蒼たちが学校に近づくにつれて、あちらこちらから強い視線が投げかけられていく。

 主に男子。その視線には間違いなく殺意が宿っている。


 蒼、ごめん……!


 私は心の中で謝る。

 この視線の嵐。蒼も決していい気持ちはしないはずだ。


「でもこれも蒼のため!!」


 私が蒼のことを守らなくちゃ。



──────────


一番の強敵は彼女かもしれません……。

蒼も知らずのうちに被害を被ってしまった。

ちょっと修羅場と呼ぶには期待したほどのものではなかったかもしれませんね。


もう少しでフォロー3000、星900行きそうです。

ありがとうございます!


ですが! お星様も伸びなくなってきました。

よかったら、投げていってやってくだせぇ。



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