第13話:王子様系女子の扱い方
俺の通っている江南高等学校には二人の有名なイケメンがいる。
一人は言わずもがな、神宮寺連。その甘いマスクと優しい甘言で数々の女をたらしこむ、男の敵。
そしてもう一人が、今目の前にいる満島秋。
中性的な顔と意外にも男らしい性格で女子の圧倒的人気を勝ち取る人物。
しかし、性別は男性ではなく女性。
異名は王子様。または貴公子。女子なのに。
そこらへんの男子よりよっぽど女子にモテる。女子なのに。
「驚いた。同級生かな。君みたいな子見たことなかった気がするけど」
「あー、俺、影薄いから」
美容院でも行っていたのか、今日は髪も短くなっていて、メガネまでかけていたものだから気づかなかった。
おまけに私服でカジュアルなパーカーにジーンズというシンプルな服装がよりイケメン度を引き上げていた。
それに顔をあまり直視してなかったしな。嫉妬しそうだったから。
「それにしても、さっきはよく女の子を助けようとしたね」
「き、気付いていたのか」
「もちろん。だけど気がついたのは、おじさんの手を掴んだ後だったよ。君が手を伸ばして固まっていたからきっと助けようとしてくれたんだと思ったんだ。周りも見て見ぬ振りをしている人が多かった中、女の子を助けようとした勇気、なかなかできることじゃないと思うよ」
めっちゃ褒めてくる。
助けた本人に褒められるとなんとも言い難い気恥ずかしさのようなものがある。
「おじさんが逃げそうな時にとっさに手を出して止めてくれたのも助かったよ」
「いや、俺は何もしてないよ。実際に助けたのは満島さんだっただろ? 俺なんてほぼ見てただけでさっきのだって偶然だよ。それより、女の子のフォローから駅員さんへの説明まで全部した満島さんの方がすごいと思うけど」
「私は慣れているから。よく痴漢に遭遇するんだ。あっ、もちろん、触られる方じゃないよ」
痴漢によく遭遇する体質っていやだな……。
トラブル巻き込まれ体質。そしてそれを解決してしまう能力。それがまた彼女のイケメン性を際立たせているようにも思える。
テンプレの主人公みたいだな、この人。
「何もできなかったとしても助けようとした意志が大事だよ。私はそう思う」
「あ、ありがとう……」
言動までイケメン。
俺にもこのイケメン力と男気が欲しい。弟子入りしようかな。
「でも満島さんも女の子だけど怖くなかったの?」
「……」
「満島さん?」
「ああ、ごめん。なんでもないよ。さっきも言ったけど私は触られたことはないからね。それに痴漢に限らずああいうのを見ると放って置けなくなるんだ」
「ああいうのって……他でもいつもあんな感じなの?」
「そうだね。私は私のしたいように行動してる」
かっこいい。なんというか生き様が。
マジで弟子入りしたい。
だけど、それって大丈夫なのだろうか。
正義感があるのはいいけど、やっぱり世の中、変な人は多い。
「無理だけはしないようにね。やっぱり満島さんも女の子だから顔に傷でもできたら取り返しがつかなくなるし」
「……!!」
「満島さん?」
急に黙るものだから心配になる。
「ああ、ごめん。私を女扱いするのは君で二人目だから。ちょっと驚いて」
なんだそれ。
あっ。もしかしてよくなかったか!? 女扱いすんなってこと?
性別差別的な風に受け取られてしまった!?
「あ、いや、これはその女だからとかそういうんじゃなく……」
「ふふ、分かってるよ。私も危険と思えば助けくらい求める……と思う」
最後の方、声小さかったけど本当だよな?
「それじゃあ、私はこの駅だから。また学校で」
「あ、ああ。また」
そして会話の途中、最寄駅についた満島さんは手を振って降りていった。
◆
「ふぅ……」
電車を降りて、一息つく。
私、満島秋は、なぜか満ち足りた気持ちになっていた。
『やっぱり満島さんも女の子だから』
「ちょっと照れちゃったな」
一人で先程のことを思い出し、呟く。
女の子扱いされたのはいつぶりだろうか。
私は、物心ついた頃から男と間違えられることが多かった。
顔は幸い中性的だったが、言動や性格から『男女』とよく揶揄されたものだ。
そのことが特に顕著にで始めたのは小学校の頃だろうか。
その頃の私は、よく男子に混じり遊んだり、女の子に嫌がらせをする男子と一対一でケンカしたりもした。
そのせいで余計に男扱いされるようになり、一時期そのことで悩むこともあった。
そんな時、家の隣に可愛らしい女の子が引っ越してきた。
女の子──瞳は、今よりもっと人見知りで転校してきて初めの方、クラスに馴染めずにいた。
そしてそんな瞳を見て、男子達は余計に嫌がらせをしたりして面白がっていた。
男扱いされることが怖くて、大人しくしていた私だったが、そんな瞳を見て、私が守らなくちゃという気持ちにさせられ、気がつけば男子達を前のように懲らしめていた。
やってしまった。また男みたいって言われる。
そう覚悟をして、瞳を見ると彼女は、目を輝かせて言った。
『私もアキちゃんみたいなかっこいい女の子になりたい』
こんな私でも……一人だけでも私を女の子として見てくれる。そう思うだけで気持ちがすごく軽くなったのだ。
それから私は、ますます男扱いされることなど気にせず、瞳や他の女の子たちに守る存在として居続けた。
男子達は相変わらず、私を『男女』だとからかっていたけど。
そして中学校に入ってもそれは変わらず、むしろ悪化したようにも思えた。
思春期を拗らせた男どもはこぞって短い髪に制服のスカートを履く私をバカにした。
その度に鉄拳制裁で黙らせてきたのだが、そんな男子の多くはデリカシーがなく、そんなことを繰り返しているうちにいつの間にか女子にモテるようになり、私は男として扱われることが多くなった。
そして現在に至るまで、私も男らしく振る舞うことを自然と受け入れるようになっていた。
昔ほど男子からも敵対心を煽られることはなくなってはいるが、それでも私を女使いする人などほとんどいない。
女でも男らしく生きる。そんな生き方を受け入れているつもりだったが、やっぱり性差が露骨に出始めるこの時期に前のように女の子としての生き方で悩むこともないわけではなかった。
だからさっきのは不意打ちだった。
あんな一言で驚くほどに嬉しくなってしまった。
きっとそこに大した意味はなかったのかもしれない。
それでも──
「あ、アキちゃん。お帰り!」
「瞳。ただいま。今日もかわいい」
「わっ、ちょっと!?」
ちょうど玄関で出会した瞳を私は抱きしめる。
「アキちゃん何かいいことあった?」
「……ふふ。そうだね。瞳に会えたことかな?」
「もうっ!!」
その後、瞳と軽く話した後、お互いの家に帰った。
そして部屋に戻ってベッドに横たわる。
「そうだ。瞳のためにも少しお節介をかいてあげないと。お隣の男子はなんて言ったっけ……うーん? また瞳に聞いておこう」
瞳の想い人。
きっといい子なんだろうと思う。なんたって瞳がいい子なのだから。
「そういえば、彼の名前も聞いてなかった。……まぁ、同じ学校みたいだし、すぐに会えるかな」
私はそのまま目を閉じて、一眠りすることにした。
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