私の中のヒーロー

赤城ハル

第1話

 ざまあみろ。

 私をいじめてた奴らは彼によって殺された。

 いい気味だ。

 これからもっともっと死ぬ。そして生きてる奴は震えろ。

 こんなに愉快に下校出来るのはいつぶりか。

 ああ、私の王子様。ありがとう。愛してます。

 貴方様のおかげで私は無事に放課後に絡まれることもなく下校できます。


 家に着くと母が玄関に急いでやって来た。

 どうしたのか?

 いつもの母ではない。

 どこか怯えている。

「宮ちゃん。こ、こっちに来て」

 私は母に手招きされ、仕方なくリビングに入る。

 するとそこにはスーツ服の堅物な男と若い女性がいた。

 誰だろう? 雰囲気が険しい。

 それに女性はどこか私を怖がるような、そして何か決意のある目をしている。


  ◯ ◯ ◯


「どうなんだ? あの子?」

 取調べが終わり、白髪混じりの班長が取調べを行った女性刑事に聞く。

「めちゃくちゃです」

 女性警察官は鎮痛な面持ちで首を振る。

「あれは精神鑑定待ちですね」

 一緒に取調室にいた男性警察官が班長に答える。

「あのう。あの子の言う彼とは?」

 女性警察官が疑問を述べる。

「妄想だろ。調べてみたらクラス名簿にもいない」

 溜め息を吐き、男性警察官は学校の名簿を机に投げ置く。

「きっといじめが原因であの子が作り上げた理想の王子様だろ」

「妄想ですか?」

「妄想つうか、解離性……なんだ、あの、多重人格? たぶんそれだ」

「もしそうなら、どうなるんですか?」

「まずは副人格の王子様から話を聞かないとな」

「裁判はどうなるんです?」

「家庭裁判なしの精神病棟行きだろ」

「被害者家族は民事であの子を訴えるんですかね?」

「いや、責任者。つまり親だな」

「逆じゃねえのか? いじめ加害者家族が被害者家族を訴えるか?」

 班長が答える。

「民事は知りませんよ。でも、加害者側が被害者側を訴えるのはおかしいですよね」

「あの」

 女性警察官が声を上げる。

「なんだ?」

「被害者はですよ」

「ああ、そうだった。つい」

 と言い班長は頭を掻く。

「あの子がいじめ被害者で、会話からも被害ぶった発言が多かったからな」

 男性警察官もばつが悪そうだ。

「だが、民事となると、どうしてこうなったかだ。だから、いじめの件になれば被害者家族が加害者家族になってもおかしくはない」

「一体どうなるんでしょうね」

「それは知らん。俺達は俺達の仕事をするだけだ」

『はい』

 班長の言葉に二人は頷いた。

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私の中のヒーロー 赤城ハル @akagi-haru

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