今でもあなたは、俺のヒーローです

れん

単話 俺に仕事を教えてくれたヒーロー

初めて就職したのは、知的障害者の通所作業所。

そこで利用者と一緒に作業し、検品して納品。生活に必要な手助けを行うのが仕事。


『おう、君が新人か!』


初めての上司は、スキンヘッドのマッチョで、いつも笑っている人だった。


『なに、段取りが解らん? んー、学生時代に自炊してただろ? まず最初になにする?』


いきなり1つのグループを任された。


パートさんと一緒に仕事に入ったのだが、うまく仕事の段取りが組めず悩んでいると、上司はそう切り出した。


『米を炊くには時間がかかるだろ? 最初に炊飯器に洗った米をセットしたら、その間に別のことができる。味噌汁とおかずを作るなら、それは平行して下拵えしたり、煮込むのを先にしたら炒めたりに取りかかれるだろ? なら、作業にこれを当てはめてみろ。大丈夫、料理してたお前ならできるって』


自炊はしていたから、その説明は理解できた。

作業をそれに当てはめながら、こういうことですかと聞くと


『そう! ちゃんとできてる。あと、頭で考えてまとまらないなら紙に書き出してみろ。付箋とか良いな。箇条書きにして、貼り替えながら整理するとけっこうまとまりやすいぞ』


とアドバイスをくれた。


しばらくすると、パートさんとうまくいかない。ミスばかりで怒られてばかり。


『あのおばちゃんおっかないだろ? 俺もよく喧嘩したもんだ。でもな、間違ったことは言わない人だからな。あんな言い方しかできない人だって頭の中にクッション入れて、良い部分だけ聞いとけ。今後いろんな人とか変わっていかないといけないから、あれで慣れといたらだいたいの人はなんとでもなるぞ! なんともならなかったら、また俺が話し聞いてやるし、間に入ってやるからな!!』


少しずつ上司が間に入ってくれたことで関係が改善し、話し合えるようになってきた。


『新しい仕事とってきたぞー。段取り、お前に任せて良いか?』


上司がとってきてくれた仕事を任された。

自分にできるか自信が無いというと、


『できないことをできるようになると、めちゃくちゃ気持ちいいぞ? 楽しくない作業を楽しくできるようにお前がまわせようになると、これからの仕事がみんな楽しくなる。一人で難しいなら二人で、それでも難しかったら他の人も相談のってくれるから、まず最初からダメと言わずにやってみてくれ』


パートさんと相談しながら手探りで段取りし、少しずつ効率良く仕事を回せるようになってくると『おぉ! やっぱりお前に任せて正解だったな。頑張ったな!!』と褒めてくれるのが嬉しかった。


それから人手が足りていない現場に応援に行ったり、違う現場に配属されて上司と一緒に仕事をすることはなくなった。


配属先の業務が自分に合わず、精神を病んで体を壊して転職するときも、


『介護施設に転職したのか。作業の現場とは違うから大変かもしれんが、まぁ、お前なら大丈夫だろ! あのパートのおばちゃんたちとうまくやれてたんだからな!!』


大きな介護施設はまるで監獄のようにみえたというと、


『監獄か……なら、そこを天国にするのがお前の新しい仕事で、使命だな!』


最後まで、前向きな言葉をかけてくれた。

ずっと助けてもらったのに、なにも返せていない。


『この業界は、入れ替わりが激しいし、定着する人はもっと少ない。そんな中、お前はここから巣立っていくけど、福祉の仕事に残ってくれる。それだけで嬉しい。充分だよ。頑張れ……じゃないな。お前は頑張れって言うと潰れるまでやっちゃうからな。楽しんでこい!』


それから、書類で上司の名前を見かけたり、上司の名前を聞くことはあっても、会ってはいない。


今も元気でしょうか。

俺は、なんとか仕事を続けています。


あなたにかけてもらった言葉は今も覚えています。

初めての上司があなたで良かった。


今でもあなたは、俺のヒーローです。

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