【KAC20228】地球人一致団結宇宙戦争

和響

平和への祈り



――宇宙戦艦ヨムカク、宇宙戦艦ヨムカク、応答願います。こちら、地球。こちら地球。支給応答願います……



「艦長、地球に偵察部隊として侵入しているポワレより、大至急艦長につないで欲しいと今連絡が入りました」


「直ぐつないでくれ。地球侵略はまだなはずだが……。連絡をよこしてくるということは、それなりの緊急事態があったのだろう」


「はっ! では直ちにつなぎます!」



――宇宙には無数の星があり、そのうちのいくつかの星には高度なテクノロジーを持った知的生命体が存在している。これは、地球よりもはるかにテクノロジーが進んだ惑星ヨムカクが地球侵略を目論み、偵察部隊として複数名のヨムカク星人を地球に送り込んでいた時に起こった話、のはずである。



***



「艦長! こちら地球のポワレです! 艦長、大変な事が起きました」


「どうしたんだそんなに慌てて。地球は平和な星であろう」


「そうだったのです。つい最近までは。しかし今大きな事態が動き始めています!これは一刻を争う問題です!」


「それは一体どんな事なんだ?」


「戦争です」


「戦争?」


「はい。戦争が始まってしまい、私が今偵察部隊の基地を置いている街が、街中が、砲撃を受けて破壊されています……ジ…ジジジ……ジ…あぁ、またです、地球人にはわからない周波数で通信しているのにも関わらず、こうして時折通信が乱れるので……ジ……ジジジ……」


「戦争なんてものは大した話じゃないだろ。そんなのはどこの惑星でもよくある事だ」


「そうではないのです! 艦長! 実はこの戦争はあるウィルスに感染したものたちがそうでないものたちを襲い始めてしまったところから始まっているのです! ジ……ジジジ……」


「ウィルス? それは聞き捨てならん話だ。地球に侵略したはいいがウィルスで死滅するなんて話はよく聞く話だからな。詳しく報告せよ!」


「はっ! 実は今ち……で……ヒ………ジ……ジジ……ジジジ…」


「おい! どうした! 早く報告を!」


「ジ……ジジ……ジ………ツツツー………」



こうして地球に偵察部隊で侵入していたヨムカク星人ポワレからの通信は途絶えたのだった。


「通信もできないほどの戦争……という事なのか?他の地球侵入部隊のメンバーにも直ちに連絡を取ってくれ!」


「はっ! ただいま!」


艦長より指示を受けたプリン隊長がすぐさま他の侵入部隊のメンバーに連絡を取り始める。地球上の様々な場所へ散らばっているヨムカク星人は合わせて二十名。まずは自然を調査するために侵入しているチョコ隊員に連絡を取ったようだ。


「チョコ隊員、聞こえますか?こちら宇宙戦艦ヨムカク!」


「あ、はぁい。もしもしぃ? お久しぶりでぇす」


「チョコ隊員、そちらは何も変わった様子はないか?」


「えぇと、ないでぇす。どうかしたんですかぁ?」


「ポワレ隊員との通信が途絶えた。なんでも戦争が始まったとか。何か聞いていないか?」


「あぁ。戦争ですね、そうそうそんなん始まったかもですねぇ。まぁ私の今いるとこは関係ないのでぇ。ちょっとわかりませんねぇ。あんっ…あふっ……ちょ、ちょっと待ってて。今通信中だからぁ……ぁんっ……」


「? チョコ隊員? 一体どうしたというのだ? そんな変な声を出して?」


「なんでもぉ、ないでぇす。じゃぁそういう事でぇ」


「ちょま、……切れてしまった。仕方ない。クッキー隊員へ繋いでみるか……。クッキー隊員、クッキー隊員、こちら宇宙戦艦ヨムカク。応答せよ」


「チョリーッス! ガチで? マジ久しぶりっす! 急にどうしたんすか?」


「……。その話し方は一体何があったんだ? クッキー隊員」


「この話し方っすか? え? 俺なんか悪いっすかね?」


「い……や、まぁいい。クッキー隊員、今地球で戦争が起きているそうだが?」


「あ、それマジやべぇっす。毎日ニュースでやってるっす」


「なんでもウィルスが原因とか?」


「あぁ、そっすね、でも地球人はウィルスって思ってないかもっすけど」


「というと?」


「俺たちヨムカク星人は基本身体が銀色の液体みたいじゃないっすか。でなんでも擬態できる系で」


「……系? まぁいい、続けて」


「で、俺は今渋谷あたり、あ、渋谷ってわかります? 日本って国なんすけど」


「うん、まぁいい、続けて」


「うぃーっす! で、ウィスルが原因ってわかるんすけど、多分地球人の脳味噌じゃその事実にはきっとたどりつけねぇっすね」


「ではクッキー隊員、君たちはどうして原因がウィルスってわかったんだ?」


「そのウィルスに感染してるやつ見ると直ぐわかるんすよ」


「ほう、どんな風に?」


「顔に推してます! って書いてあるんすよ」


「それは地球人には見えないのか?」


「見えないっすね。でもそれは初期症状っすね。まだ何ヶ月か前の頃はそんな感じの人がちらほら出てきて、なんだこりゃ? って俺たち侵入部隊の中でもリモート会議で話題になってたんすけどね。そうだ、チョコとはもう話しました?」


「あぁ、ついさっきな。なんだか様子がおかしかったようだが」


「そうなんすよねぇ、あいつも感染しちゃって。で、推してます病になっちまって、俺たち擬態できるじゃないっすかぁ、で、あいつ推しのヒーローの推しになるって張り切って、そんであいつの推しの好みバッチリなナイスバディな美女なんすよね、今。そんなこんなで、仕事も手につかないで毎日その推しと酒池肉林しゅちにくりんでラブラブっすわ」


「ラ、ラブラブ……? それは一体……?」


「ま、あれっすよ。ヨムカク星ではやらない行為っすね。下等生物の繁殖っすわ」


「そ、そうなのか……も、もしかし……」


「あ、やべ! 俺これからダチとクラブ行くんすわ! またまたなんかあったらいつでも連絡オッケーなんでぇ!ではでは!」


「き、切れてしまった……。一体どうなってるんだ! 地球人は! こんな星は初めてだ! これはもうしょうがない。一番まともだと思うソテー隊員に連絡してみるか。ソテー隊員、ソテー隊員、こちら宇宙戦艦ヨムカク応答せよ!」


「はっ! プリン隊長、こちらソテー隊員。隊長どうかされましたか?」


「よかった。君はまともで」


「?」


「今地球で戦争が起きていると聞いたのだが」


「はい。それはもう大変なことになっています」


「詳しく報告せよ!」


「はっ! ウィルスのことはご存知でしょうか?」


「なんとなく知っているだけだ。詳しく説明せよ!」


「はっ! 実は病という名前で私たちヨムカク星人の仲間内では呼んでいるのですが、感染者が出始めて直ぐの頃はとても平和だったのです」


「平和というと?」


「そのウィルスにかかると、をまず探すんです。そして、推し始める」


「推しとは?」


「簡単にいうと、陶酔してしまうほど好きなものを応援するということでしょうか」


「私たちヨムカク星人にはない感覚だな」


「そうです。なので我々は基本かかりません。チョコ隊員を除いてはですが。それで、それがある一人の地球人に感染したのです。それが悲劇の始まりでした」


「ある一人の……? 続けて」


「はっ! その感染した一人の地球人はある国の大統領でした。そして、病に感染したその地球人の身体でウィルスが突然変異を起こします。ヒーローのところを抜いてしまい、が増幅してしまったのです」


「わかるように説明せよ!」


「はっ! が強くなりすぎたそのある国の大統領は、自分の思うようにならないとという思考になってしまったのです。これをまたはと地球では言います」


「全く、地球人は意味がわからない。私たちの惑星にはそんな感情は存在しない……はずだ。同じ惑星の中でそんな感情を持つとどんなことになるか我々は過去から学んでいるからな」


「はっ! 全くもってそうであります!」


「続けて!」


「はっ! その大統領は私だけのヒーロー病にかかり、突然変異でヒーローの部分は抜いたと先ほど申しましたが、どうやら、特別な変異を遂げたウィルスにより、だと勘違いしてしまったようであります! このが強くなりすぎた事と、だと勘違いしてしまった事が重なり、もう誰の手にも追えなくなってしまったのです。これを地球ではと言います」


「……。我々の惑星にはない言葉だ。続けて!」


「はっ! この独裁的な地球人は、隣の国、ちょうどポワレ隊員がいる国であります。そこに総攻撃をかけて国を破壊し続け、たくさんの地球人が毎日死んでいます」


「戦争……。それは少なからずどこの惑星でもある事だが、なぜそれが大変な事態なのだ?」


「はっ! この独裁になってしまった地球人の体内で、のウィルスは突然変異をしてしまいました。この変異したウィルスの感染力が強すぎて、このままでは我々ヨムカク星人が地球を侵略しようとする前に、この惑星は消え去ってしまう勢いなのです!」


「そ、それは由々しき事態だな!」


「はっ! そこで隊長! 私から一つ提案がございます!」


「言ってみろ! ソテー隊員!」


「はっ! もうこのままでは感染が広がり地球人同士の争いは止められないかもしれません。そこで! 明日にでも地球侵略を始めるというのはいかがでしょうか? そうすれば、地球人はいったん戦争をやめて結束し、我々宇宙からの侵略者を追い出しにかかるはずです。そうこうしているうちに流行病も治るかと。そういったエンタメがこの星にはよくあるのです!」



***


こうして、ヨムカク星人の宇宙戦艦がウクライナ上空に現れたことにより、ロシア対ウクライナの戦争は一時中断。世界中が力を合わせ防衛をしたことにで地球人の心は一つにまとまり、もう戦争が起きる惑星ではなくなったのであった。のちに人々はこれを「地球人一致団結宇宙戦争」と呼ぶ事となる。



世界中から戦争や紛争が無くなり、平和で愛に溢れる未来がはやく訪れますように、祈りを込めて。






――黙祷。




世界が優しい世界で包まれますように。


 

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