【KAC20228】私だけのヒーロー。決して離さない……

タカナシ

第1話「幼馴染のヤンデレが強すぎるっ!!」

「ふふふっ。もう、離さないわ。私だけのヒーロー」


 耳元をくすぐるような囁きで、ぼんやりと目を覚ます。


 こ、ここは? どこだ?

 意識を失う直前を思い出そうと頭を働かせる。


 オレは確か、怪人を倒して、変身を解いたところまでは覚えているんだが。

 ずきりっと頭部に痛みが走る。

 そうだ。その直後に頭に痛みが襲って倒れたんだ。

 なら、ここは敵のアジトか?


 周囲を見回すと、そこは普通の部屋だった。

 いや、普通と呼ぶには異様な物がいくつも置いてあるのだが。


「オレのポスターとかフィギュアで埋め尽くされてるっ!!」


 確かに、オレは変身ヒーローだし、世界の為に戦っている。そりゃあ、グッズの1つや2つは余裕で出ているけれど……。


「あ、ようやくお目覚めね」


 その声はどこか聞き覚えがあって、声のほうへ視線を向けると。


「レイミ? レイミなのか? なんで、こんなことを?」


 さらさらの黒髪、とても20には見えない童顔の可愛い系美少女の幼馴染、レイミの姿があった。

 だが、彼女はオレが変身ヒーローだということは知らないはず。それなのに一体なぜ?


「レイミはオレがヒーローだって知っていたのか?」


「それはもちろん。タッちゃんは昔から私のヒーローだもん。仮面で隠したくらいじゃすぐにわかるよ」


 誰にもバレていないと思っていたのに、まさか幼馴染にバレていたとは! 衝撃の事実に、オレは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「あれ? もしかして、仮面ヒーロードラゴンって言った方が良かった? タッちゃんが望むなら、私はなんだってするよ」


「いや、タッちゃんでいいよ。それより、なんで、この部屋はこんなオレのグッズばかりなんだ? 熱烈ファンか?」


「そうなの。私、タッちゃんの一番のファンなの。だから、タッちゃんが写っているものは全部、全部、集めたの!」


「お買い上げありがとうございますっ!!」


 いや、マジで。ざっと見積もっても100万くらい使ってるよ。だいたい1割くらいでオレに還元されるから、10万はレイミのおかげで稼がせてもらっている計算だ。

 え? それなら直接お金をもらった方がいいじゃん。だって?

 バカ野郎!! コンテンツが終了したら元も子もないだろ。

 最低でも1年はもたせないと!! グッズが売れなくなったら、そこでヒーロー終了なんだぞ!

 目先の100万より、未来の1000万だっ!!


「ちょっと意外な反応で驚いてる。あっ、それとね。これ、タッちゃんの髪の毛もいっぱい集めたの。他にも使ったストローとか。ねぇ、私の愛、分かってくれた?」


「あ~、最近、オールマイトってヒーローのおかげで、髪とか結構需要があるんだよね。なんでも能力を受け継げるかもとかって言ってさ。レイミ、意外とミーハーなんだな」


「ち、ちがう。私の愛はそんな薄っぺらいものじゃないのっ!!」


 バサバサと艶やかな黒髪が揺れる。


「ところで、オレ、もう帰ってもいいかな?」


 幼馴染とはいえ、さすがにいつまでも女子の部屋のベッドに寝ているのは気が引ける。


「ダメよ! 逃がさないわっ!!」


 そう言われれば、オレの両手両足はチェーンでぐるぐるに固定されていた。

 変身すればこれくらいすぐに壊せそうだけど……。

 しまった。変身には、ベルトに風を受けないと変身できない!

 これは、どうにか説得するしかないか。


「すまない。レイミ、オレ行かないと、世界の危機を救わないといけないんだ。わかってくれ」





「そんなの嘘に決まっている。どうせ、あの女の所に行くんでしょ!!」


「あの女?」


 マジで誰だ? オレは世界平和に全てを捧げた男。彼女どころか、女の知り合いはレイミしかいない。


「とぼけたって無駄よ。調べはついてるんだから。あの泥棒ネコ。女帝女豹ミャウよ!!」


「それ、敵のラスボスっ!! 確かに女だけどっ!! 帝ってついてるじゃん!」


「毎週毎週、休みになると朝早くからその女に会いに行ってるのだって知ってるんだから!!」


「くそっ! 確かに倒しに、日曜の朝に赴いているから否定しづらいっ! けど、誓って恋愛とかそういう相手じゃない!! そもそも人間じゃないだろ!! 招き猫を思わせるフォルムだぞ!! ちょい前の世のお父様方も取り込もうとしてやってきたセクシー系ですらないからなっ!」


「でも特別な感情を持ってるじゃない!!」


「特別ってあっても殺意だぞ! 本当にそういう相手じゃないんだ」


「ほんとう? そうよね。タッちゃんがあんな女気に入る訳ないものね。じゃあ、あの女がタッちゃんに一方的にまとわりついてるのね。そっか、そっか。良かった」


 おおっ! これは分かってくれた感じだな。

 良し、世界平和の為に、このチェーンを解いてもらおう!

 オレがそう口にしようとしたとき――。


「良かった。邪魔ものをちゃんと駆除しといて。これで、タッちゃんも一安心だよね」


「ごめん。なんて言った?」


「え? 邪魔ものを駆除したって」


「マジで言っているのか?」


「あっ、そっか証拠が必要だよね」


 チリンッチリン。


 女帝女豹ミャウがいつも着けている鈴が転がる。


「待って、マジか……」


 ちょ、待って、待って、オレ、こいつ倒すのにすごい頑張ってたんだけど。

 というか、普通に負けてるんだけど。

 なんで、レイミ勝ってるの。強すぎません?


「タッちゃん。なんで、残念そうな顔するの? やっぱり、あの女のこと……」


「いやいや、それはないからっ!!」


 だが、ショックが隠し切れないのも事実だ。


「それなら、ここであの女のこと忘れるまで私が可愛がってあげる……」


 ふっ、確かに女帝を倒されたことはショックだが、世界平和に全てを捧げたオレのメンタルはそんなことじゃ折れないぜっ!

 この場面、オレが出来ることは1つ!!


「頼む。レイミ、あの女を忘れさせてくれ! でも、怪人とかが近づくと、どうしても思い出しちゃうなぁ~」


                ※


 その後、街には仮面ヒーローヤンデレというニューヒーローが現れ、女帝の残党や新たな怪人が現れると颯爽と現れ、残忍に退治していったのだが、それはまた別のお話。

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