ハイスクールヒーロー
芦田朴
ヒーロー現る!
秋元カイトは念願の生徒会長になった。高校2年にして生徒会長になる事は、この学校では異例の事だった。カイトは生徒会長選挙でアツい演説をぶちかまし、トップ当選を勝ち得たのだった。
カイトが生徒会長になるや否や、先生の反対を押し切り、公約だった制服の撤廃を実施し、生徒全員の私服登校の認可を果たした。
それ以来、カイトの生徒会長としての人気はうなぎ上りで、まさに学校のヒーローだった。
「カイトくんが生徒会長でよかった。うちの制服って幼稚園の制服みたいでチョーダサかったから本当よかった。ありがとうね」
知らない女子に廊下で声をかけられる事もしばしばだった。カイトは顔をニヤかせながら「当たり前のことをしてるだけです」と言って謙虚ぶった。
そんなある日の生徒会会議だった。
「目安箱を設置しようかと思って」
「目安箱ですか?」
「そう。みんなの意見を吸い上げて、より良い学校を作ろう」
推しが強く、ノリに乗っているカイトの意見に反対できる者は誰もいなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
2週間後の生徒会会議で目安箱を机の上にひっくり返した。そして一枚一枚を書記の駒田が読み上げ、カイトがコメントした。
『学校にフレックスタイム制導入を』
「どうやって?無理やろ!却下」
『学校専用の出会い系アプリ作ってほしい』
「なんのため?却下」
『男女の更衣室の統合』
「ゲスな事を難しい言葉で言うな!もちろん却下」
カイトは頭を抱えて言った。
「ロクな提案がないな、えっと……これで最後?」
駒田は目安箱を覗き込んだ。そして目安箱の箱にくっついていた最後の紙を、ひっぱり出して開いた。
『私はいじめられています。助けてください。学校中に監視カメラがあったらいいのに』
「なるほど。いいアイデアかもしれない。いじめって一回終わってもまた復活することもあるからな。確かに学校中に監視カメラがあれば、半永久的にいじめの発生が抑えられるということか」
カイトは目を輝かせて言った。
「これ、いいよな?どう思う?」
「お金がかなりかかるんじゃ……あまり現実的じゃないっていうか……それに……」
「駒田、お前さ、このいじめられてる子がかわいそうじゃないわけ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、決まりな。俺、校長先生に掛け合ってくるわ」
カイトは調子に乗っていて、誰の意見にも耳を貸す気はなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
カイトは校長先生にアツい説得をぶちかまし1か月後、校内の教室や廊下、ありとあらゆる場所に監視カメラが設置された。監視カメラの映像は放送室で先生たちが順番で見る事になった。
『3年2組栗山あかねさん、廊下を走ってはいけません』
『2年1組橋本直人くん、鈴木裕也くん、ほうきでチャンバラしてはいけません』
『1年3組濱田翔太くん、窓から体を乗り出すと危険です。やめなさい』
監視カメラをつけてからというもの、そのような放送がたびたびあるようになった。
そして生徒たちのカイトを見る目が変わっていった。
カイトと廊下ですれ違いざま、3年の山田貴聖がカイトをにらみつけて言った。
「ずっとカメラで監視されてさ、お前のせいで、学校生活が不自由で、楽しくなくなったわ」
「お、俺はこの学校からいじめを失くしたくて……」
「お前も結局は学校の犬だったんだな、ガッカリだよ」
「俺はカメラを付けた事は間違ってないと思ってる。」
「バカか、お前」
「なんだと?」
「お前、俺は3年だぞ!ナメてんのか、なんだじゃねーよ」
秋元カイトはこの男子とつかみ合いになった瞬間、すかさず校内放送があった。
『2年2組秋元カイトくん、3年1組山田貴聖くん、ケンカをやめなさい』
二人はつかみ合いをやめた。山田貴聖は最後に小声で言った。
「学校中の生徒がお前のこと、嫌ってるよ」
みんなの安全と快適な学校生活を思って、学校に監視カメラを導入したのに、それは裏目に出てしまった。秋元カイトのオウンゴールだった。それからしばらくして秋元カイトは生徒会長を解任された。
秋元カイトは昼休み誰とも話さず、ひとり孤独に窓からグラウンドを見ていた。そこにひとりの女生徒がカイトに近づいて来た。カイトが見たこともない生徒だった。
「秋元さん、ありがとうございます」
「えっ?」
「秋元さんのおかげで、いじめられなくなりました。みんなが去って行っても、秋元さんは私だけのヒーローです」
その女子はそう言うと足早に去っていった。
カイトは再び窓のサッシにもたれかかり、窓の外をぼんやり見た。
涙がじんわり瞳をにじませた。
ハイスクールヒーロー 芦田朴 @homesicks
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