Are You HERO?

セントホワイト

第1話

 死んだ、と思う瞬間が生きていれば何度も起きることはある。

 確率論的に語るならば一年間は365日であり、時間にすれば8760時間である。

 それを分数に、秒数にするならば数字はさらに大きくなっていく。

 1日を生きる者は気にも止められないほどの秒数を生きていることと同義であり、またそれだけの時を生きる以上は身の危険なことが起きることなどあってむしろ自然なことのように思える。

 誰もが当たり前のように生活する中で、当たり前過ぎるために危機感を失ってしまうのだ。


 例えるならば……車だろうか?


 現代社会において車は当たり前のように走っているが、考えてみるとこれは非常に危険なことではないだろうか?

 車の走行速度は一般道で30キロから60キロだが、あの鉄の塊が60キロの速度で自分たちの横を通り過ぎていることをどれだけの人々がその危険性を危惧しているというのか。

 ガードレールがどれほどの安心感を与え、しかしその薄さがどれだけ歩く自分たちを守ってくれるかどうか分からない怖さをどれだけの人達が認識しているというのか。

 運転手がわざと法定速度以上で歩道に突っ込んできた場合は奇跡に頼る以外に無いというのに、それでも車は誰もが免許を取れば乗れるのだ。

 便利だから。経済活動の中心産業だから。無くては困るものだから。

 恐らく、そのような理由が挙げられることだろう。

 この世の中はそんな当然の危険性を忘れるほど多忙で、そして不幸というのは得てして望まぬ時にやってくるのだ。


 そう……こんな公園のトイレでもだっ!


 会社からの帰り道に突然の腹痛に、日本社会のセーフティゾーンに駆け込んだのまでは良かったのだ。

 しっかりと用を済ませ、一種の幸福感と安堵を手にしたのも束の間のことだ。

 トイレの紙様の不在を確認し、突然現れた絶望の坂を転げ落ちることになったのは。


「どうして、こんなことに……」


 現代人の誰もがトイレットペーパーを持ち歩いているわけがない。

 アニメや漫画でハンカチやティッシュを持ったかは訊かれてもトイレットペーパーを持ったかは訊かれていないだろう。

 むしろトイレットペーパーを持っていれば他は不要とすら思えてくるのだから不思議だ。

 これから世話焼き系のキャラはトイレットペーパーを持ったかを訊くべきではなかろうか?


「現実逃避は良くない……でもどうしたら……」

「あの、大丈夫ですか?」


 ふと、そんな声がかけられる。


「なにか、お困りですか?」

「あ、あっ!? あぁ……」


 Are you HERO?

 そう言ってしまう日も現代にはあるのだ……。

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