露 vs 烏 出口の見えない抗争。面子か命かの選択
龍玄
Ro vs Uk 出口の見えない抗争。面子か命かの選択
露店商界隈は、感染症対策によって軒並みイベントが中止され、収益源を経たれていた。露店商組合の老舗である露天組は、この機に縄張りの確保と拡張を企んでいた。露天組の総裁であるプッチンチャップは、西側広域組合の制裁・攻防に備え、密かに外貨で資金を蓄積していた。
プッチン総裁は、昨今の暇に任せ、露店商の歴史を紐解いていた。大帝国だった露天組は、敵対する西側広域組合の凌ぎ場抑制の制裁によって解体された苦い経験があった。歴史を振り変えるにつれプッチン総裁は、不遇の状況を変え、偉大であった過去の栄光を取り戻す野心に駆られていた。しかし、所詮は絵に描いた餅と構想は練るも水を加え過ぎた小麦粉のように固まらないでいた。
苦慮している最中、元は露天組の傘下にあり、解体後、独立した隣組の浮~位な嶋通称・浮嶋組があろうことかこの不景気を脱するため、西側広域組合に参画しようとする情報が飛び込んできた。
浮嶋組の総裁は、露天組の息の掛かった者だった。それが、自由を求めるドラマで人気を得た俳優・銭形が、その勢いで実際の政権取りに乗り出してき、見事、当選。浮嶋組は一機に西側広域組合に傾いた。
隣組の浮嶋組が西側広域組合の手に落ちる。それは、隣に敵陣営を招き入れるようなものでプッチン総裁には見逃せない出来事となった。
「生意気な浮嶋組め。胡桃組のように捻じ伏せてやるわ」
プッチン総裁は、抗争の大義名分を模索している中、西側広域組合で一部の組の者に対する労働条件や人権の迫害が問題視され、騒いでいるのに目を付けた。浮嶋組には、旧露天組の組合員や親露天組の者も少なくなかった。意見の対立は、自由な組では当たり前の事。その当たり前をプッチン総裁は、拡大解釈し、親露天組合員が迫害されている、助けなければならないと、行動に移す決意をする。
折も折、旧露天組が崩壊後、凄まじい勢いで勢力図を塗り替える広域組となった中損治組で大掛かりなお祭りが開催されることに。しかし、強引な方法で勢力を拡大していた中損治組は、西側広域組からケチを付けられ、各組の総裁が誰も訪れない面子の立たない窮地に追い込まれていた。自然の理か中損治は、同じく煙たがれている露天組と嫌われ者同士、手を組むことを画策する。その画策は、お互いの思惑もあり、あっさり成立。その祭典に大きな組の総裁として式典への参加を取り付ける。公にはしていないが、兄弟分の盃を裏で交わし、協力体制も樹立した。
中損治組としては経済的には大したことはないが抗争力は魅力的だった。特に露天組の提供するプロパンガスは、西側広域組にとっては欠かせないもの。それ故に西側広域組もおいそれと露天組に手を出せないと考えていた。一方、露天組にとっては、購買意欲のある檀家を多く抱える中損治は、西側広域組の檀家に匹敵する程魅力的であり、後ろ盾にするには好都合だった。
プッチン総裁にはもう一つ思惑があった。露天組は西側広域組にプロパンガスを売っているのと同時に粉ものに欠かせない小麦粉のシェアも保持していた。浮島組も小麦粉を清算している。浮嶋組を手に入れれば、全国の46%のシェアを保持できる。IT産業に乗り遅れた露天組は、エネルギーと食物を牛耳る事で乗り遅れた分の優位性を確保しようとしていた。
プッチン総裁は、万端の準備を整え、雪解け前に浮嶋組を奪う計画を実行に移す。思惑では、二・三日で終え、中損治組の祭典には極力影響を与えないことを配慮して。しかし、浮嶋組のブレインにその思惑は、完璧に崩される。
浮嶋組のブレインは、抗争力の勝る露天組に対し、対抗し得れる抗争力を持つ西側広域組をこの抗争に巻き込むに邁進する。銭形の演技力と的を射た文言を紡ぐブレインたちは西側広域組と最大の組織・米穀組の意志を大きく動かした。
特に、露天組のプロパンガスの供給に頼る西側広域組の一部の組の心情も揺さぶり、敵対する組に依存する危うさを露呈した。人の振り見て我が振り直せ、と他の敵対する組に依存度の高い各組も見直すのは今だと自らが傷つくことを恐れず、立ち向かう姿勢を見せた。露天組の浮嶋組への攻撃が激化するにつれ、対岸の火事と冷ややかに観ていた西側広域組の緊張感を高め、それを米穀組が油を注ぐように盛り上げ、自由を重んじる組同士が協定を結ぶ納豆連合をも動かそうと目論んでいた。追い込まれた露天組は、思惑がはずれ、構成員が激減し、納豆連合をも警戒しなければならなく練っていた。プッチン総裁は、胡桃組の時のように吠える犬は噛みつかぬと高を括っていたが状況は様変わりし兼ねない緊迫感を覚えていた。
そもそも構成員たちの多くは、短期出張と言われ浮嶋組の偵察に向かわされていただけだった。それがいつの間にか抗争に発展し、死傷者を目の当たりにする嵌めに。
心構えも自分の意志でもなく参加させられている構成員の中からは、馬鹿々々しくて現場から逃亡する者や相手の組に自ら逃げ込む者も現れていた。
露天組の正規組員たちはこの抗争は短期に終えると確信し、抗争の準備にと与えられていた燃料や食料を個別に取引できるメルカリや仲介業者に横流しし、利益を得る始末。現場の情報は、玉虫色に塗り固められ、プッチン総裁に届けられていた。
プッチン総裁は、浮嶋組の抵抗を拡散されるのを恐れ、無線連絡を遮断するため浮嶋組領域のアンテナを破壊させた。それは同時に自分の組との連絡にも支障をきたす物となった。IT産業に遅れをとっている露天組は3Gのガラパゴス携帯を使用していただけに中継アンテナの破壊は、自らの連絡網を脆弱にしてしまった。露天組の交換は、浮嶋組のスマホを奪い、本部と連絡を取っていた。それに気づいた浮嶋組は、ITに詳しい組員を調達し、発信される電波からGPSで露天組の幹部組員の居場所を特定し襲ったのと同時に指揮官をなくした多くの戦闘用屋台を奪うと共に連絡網の仕組みを備えていた屋台を手に入れることができ、反撃に大きく役立った。その成果の多くは、米穀組から提供しされた戦闘用屋台破壊機器によるものだった。
浮嶋組は、米穀組より列を成す戦闘用屋台を効果的に破壊する方法を伝授され、成果へと結び付けていた。
露天組の誤算は、浮嶋組の檀家の自組を守る意識の高さにあった。檀家たちは、ビール瓶を用いて破壊道具を作り、応戦。個人が持つドローンは、常に露天組の動きを上空から監視。その情報を元に浮嶋組は、一枚岩とは言えない露天組を襲っていた。
この戦術により、露天組の構成員の離脱に歯止めが利かなくなり始めていた。
露天組への後方支援や救援物資が途絶え、浮嶋組の販売店や檀家の家から現地調達する現状に、現場ではこのままでは負けるのではないかとの不安が広がり始めていた。事実、飛び道具は底をつき始めていた。正しく言えば、浮嶋組のみならずその背後に控えているかも知れない納豆連合をも気にしなければならなくなり、部隊を一ヶ所に集中できなくなり、統制に乱れが見え始めた。
露天組の構成員は碌な訓練もされておらず、浮嶋組の管理するビルに入り、エレベータを使い上階に。それをビルオーナーに知られ、エレベータの電源を落とされ、閉じ込められるお粗末さを露呈していた。また、露天組の構成員は、浮嶋組の檀家から罵声を浴びせられ、困惑の色を隠せないでいた。そもそもこの抗争は、浮嶋組の非道な行いにより親露天組の者たちが迫害を受けているから解放せよときかされていたからだ。その檀家から罵倒される矛盾に涙ながらに親族や関係者にこの抗争の意義についてぼやく者も現れていた。
露天組の戦闘用屋台は後方支援を得られず身動きが取れず、屋台を放棄する嵌めに。浮嶋組はそれを回収し、自組の戦闘用屋台として利用する。
焦りの隠せない露天組のプッチン総裁は、抗争での掟をも破り、形振り構わずの強行作戦に打って出始めた。この行為は、西側広域組や米穀組にすれば、単なる組同士の抗争ではなくテロリストして露天組の行いを捕らえるようになる。
露天組の構成員は日に日に枯渇し始め、そのあたりの不良を見境なくスカウトし戦闘員の補充に躍起になっていた。
露天組に蔓延していた物資の横流しや汚職によって、手配したはずの物資が足りなくなる事実と抗争の大義名分の嘘が剥がれ、内輪もめも発生する状態に。困った露天組は旧露天組に抗争の参加を打診するが体よく断れ、反露天組の抗議者を黙認し、我関せずの態度をあからさまにされる始末。
浮嶋組は、貯水池や川の一部を氾濫させ水浸しにし、戦闘用屋台の進行を妨げた。連絡用の無線が使えないため、プッチン総裁の指示どころか現場の指揮官の指示さへ届かず、統制の取れない構成員たちは、秩序を失っていく。その構成員たちは、店に乱入しウオッカを奪い酒盛りし泥酔した挙句、浮嶋組に捕縛される始末に。
露天組が補給物資を送ろうとするも抗争地付近に展開する納豆連合や米穀組の偵察隊に知られることになり、その情報は逐一浮嶋組に伝えられ、対応策を練られ、思うように事を進めないでいた。
懸念されるのはこのままでは負けると考えた露天組のプッチン総裁が、薬物や弾薬を使用するかもということだ。
窮鼠猫を噛む、で露天組が禁断の戦法に出た時、納豆連合はどう出るべきかを密かに練っていた。それは全面戦争を意味し、受け難いもの。納豆連合は、最悪のシナリオを想定し、露天組の面子を保ちつつ抗争を治める手立てを内々にプッチンに打診するが一切受け入れる気配がなく、露天組のない露店商などあり得ないと馬鹿な行動を取るのではと懸念し、プッチン総裁の生死を問わずの確保手段を各組の諜報員に打診していた。
露天組のフロント企業の富豪たちにとっても死活問題であり、早期解決を願っていた。資金を提供する立場から独裁体制のプッチン総裁に変わる人物を模索するが見当たらず、政権交代に暗雲の影を落としていた。
露天組の希望は考えを同じくする中損治組だった。しかし、その中損治組もここまで露天組を納豆連合が追い詰めるとは考えておらず、戸惑いは隠せないでいた。
米穀組の総裁・梅田は、その思いを知り、もし、露天組に援助しようものならどうなるか分かっているな、と中損治組の集金総裁に釘を刺した。集金総裁は、この問題は露天組の問題と強気を見せたが、内心は思ったより頼りない露天組をいつでも見限る準備を進めていた。
中損治組は大きな組織であったが、購買層は抱えるものの新たな物を作り出す技術も発想も乏しく、安価で劣化した物しか作れないのが現実だった。これでは、購買層を満足させられない。購買層を満足させる物は全て、西側広域組や米穀組に頼っているのが現状だった。相手にとっての資金源は、自らの資金源であり、それを満たすだけの魅力は、露天組にはなかった。集金総裁の腹積もりは決まっていた。ただ、集金総裁が考えているのは、露天組が浮嶋組に抗争を仕掛けた様に大弯組に仕掛けたことを思っての事だった。
西側広域組や米穀組の対応は、集金総裁自身の政権維持にも大きな影を落とすことは明らか。火中の栗を拾うより、全国が露天組と浮嶋組の抗争に気を捕らわれている間に、台湾組を傘下に置きやす用に離れた島である台湾組との間に橋を架け、来たる日を確実にするための行動に主眼を置いていた。
中損治組の支援も期待できずプッチン総裁は、引き下がれない迷路に陥っていた。残る手段は、今回の抗争を誰かの誤報が原因とし、その者を処罰し被害者面で一旦は身を引きつつ、近い復帰に全力を尽くすのみしかなくなっていた。
プッチン総裁が言うネオナチ、ナチの指導者がどのような末路を負ったかは、彼は熟知していた。だからこその発想だった。
露 vs 烏 出口の見えない抗争。面子か命かの選択 龍玄 @amuro117ryugen
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