第3話「虫とか……ってお米⁉」

 —―トカゲ大草原だいそうげん


たしかに広大こうだい草原そうげんだけど、トカゲっていうのは……)


「ねえオーちゃん、イーちゃん。この草原そうげんにはトカゲがいっぱいんでるの?」


 わたしはトカゲたちにたずねてみた。


「んん〰〰。この草原そうげんにはだれんでないよ」「そうそう。ぼくらは草原そうげんちかくのむらんでるだけで」


「へ、へぇ〰〰そうなんだ。じゃあなんでこの草原そうげんの名前が『トカゲ大草原だいそうげん』なの?」


「う〰〰ん。わかんない」「ぼくも知らない。最初さいしょからそういう名前なまえだったんだよ」「そうそう。草原そうげんかわやま名前なまえ由来ゆらいなんてらない。もう何万年なんまんねんまえにつけられたものだろうから」


 くびかしげた子供こどもたち。(何万年なんまんねん……この世界せかい何万年なんまんねんまえから言語げんご使つかって……いや、もと世界せかいでもわたしたちにこえないだけで何万年なんまんねん何億年なんおくねんまえ生物せいぶつたちが言語げんご使つかっていたかもしれないんだけど)


 むしとりのさえずり――意思疎通いしそつう言語以外げんごいがいでもできるのかもしれない。


「そっか。じゃあ……」


ってはみたけどなにはなせばいいかわかんない。きゅうにこんなところへたってなにをすればいいのかわかんないし。……まあとりあえず)


 ぐー……。りひびくおなかおとに、私はにっこりとみをうかべて、


「おなかすいちゃった。なにか、べさせてもらえないかな?」


 すると、二匹にひきかお見合みあわせてから。


「わかった! おとうさんをんでくるから、一緒いっしょべよう!」


「うん! そうだね!」


 とはってみたものの、めっちゃこわい。(おとうさんってのがものすごくきびしいひとだったりしたらどうしよう。「そうかめしいたいのか。それなら自分じぶんにくをそぎとしてべるんだな」とかわれたらどうしよう? あまりの気迫きはくかえせないよ!)


 ……とかいってなんだかんだでさみしいので、わたし一緒いっしょかれらのいえかうことに。(トカゲのむら……うーん、人間にんげんわたしってもはらわれたりしないかな?)


「「ついたよー!」」


 とおった青空あおぞら。この晴天せいてんにも地味じみさをかんじられない、人間にんげんめるようなレンガづくりのいえが、そこにはいくつもならんでいた。


「ここが……いえ?」


「そうだよ!」「そうそう!」


 おもっていたものと全然ぜんぜんちがった。(なんだ普通ふつういえじゃん。異世界いせかいっぽくていいな。そうだよね。トカゲが言葉ことばしゃべれる世界せかいだもんね。人間にんげんみたいにいえがあってもおかしくないのか。からだもこれだけおおきいわけだし)


「ここがぼくらのいえ!」「ゴーレムむら一番いちばん立派りっぱいえなんだよ」


「へぇ……え? ゴーレムむら? それがこのむら名前なまえ?」


「うん! おとうさんはこのむら村長そんちょうなんだよ!」「すっごくえらいんだよ!」


 わたしいきむ。(村長そんちょうだったのか……。それにしてもどうしてゴーレムむらっていうんだろう。トカゲしかんでいないだろうに……まあ、このせかいではそういうのが普通ふつうなのかもなあ。名前なまえくらいどうだっていいか)


「じゃあ……おとうさんをよんできてくれるかな?」


「うん!」「らじゃー!」




 …………――――ガチャッ。


「「つれてきたよー」」


 とびらがひらき、出てきた『村長そんちょう』。もちろんトカゲだった。だったのだが――


「ちっさっ!」


「な、ちっさくないわい!」


 ――ものすごくちいさかったのだ。(……ああ、失礼しつれいなことっちゃった。それにしてもオーちゃんとイーちゃんよりもちいさいよ)


 前世ぜんせで(コンビニへの)旅行中りょこうちゅう、よく道路どうろわきかけたトカゲとおなじくらい。トカゲのなかでもちいさい方ほうで、づかずみつけてしまいそうなほどにちいさかった。


 そして、その口元くちもとには、しろいヒゲが……。


「ぷっ」


「な、なにをわらっとんじゃ!」


「ご、ごめんなさい。失礼しつれいなことを。ヒゲのえたトカゲをはじめててみたもので」


「だとしてもわらうことはないじゃろう。で、その失礼しつれい客人きゃくじんだれなんじゃ? 息子むすこたちや」


「「アズサだよ」」


 しっぽをふるわせる二匹にひき


「ねえ、おとうさん。アズサにごはんべさせてあげてよ」


いやじゃ」


「おとうさん。おねがいだよ~」「おなかすいてるんだって」


「だってワシのことわらったんじゃもん!」


(そんな理由りゆう⁉ 大人おとなげないなぁ……まあわたしわるいのはみとめるけど)


「そんなことわないでおとうさん」「アズサはモンスターとたたかってつかれてるんだって」


「なっ……まさか冒険者ぼうけんしゃかた……。しかしなぜこんなところへ……」


 モンスターとたたかったといたとたん、村長そんちょうさんのかおつきがわった。(やばい……うそついたのバレるかも。モンスターなんてこのへんにいないんでしょ……いわけできないよぉ)


 わたしのしょんぼりは、どんどんしていく。不安ふあんがつのる。心臓しんぞうが、ドクンドクンとっている。


 村長そんちょうさんがつぎになにをうのか。わたしみみをかたむけてく。村長そんちょうさんは、しばらくかんがえたあと、くちひらく。


「でもまあいっか」


「やったー!」「よかったね、アズサ」


「……え、あ、うん」


 意外いがいとなnとかなったみたいだ。


「じゃあ、準備じゅんびするから、そこでっとれ。今作いまつくるから」


わたし手伝てつだいますよ」


「いいっていいって。つかれてるんじゃろ」


「いやでも……」


つかれてるんじゃろ」


「はい…………」


ちいさいのになんかあつがすごい……。えらひとって、なんかちがうなぁ……あ、ひとじゃなくてトカゲなんだった)


たのしみだね!」「うん! おとうさんのおいしいごはん、っててね」


「うん!」


(なにかな、カレーとかかな? ……いやって。そういえば、トカゲってカレーをべるっけ? トカゲってなにをべるんだ? むしとか……?)


「はわわわわわわわわ」


「どうしたのアズサ」「だいじょうぶ?」


「ねえ、ごはんって、何食なにたべるの?」


「それはおたのしみだよアズサ」「世界一せかいいち美味おいしいんだから!」


(……せめて、きれいでおいしいむし、きれいでおいしいむしを……)



 ――数分後すうふんご


「できたぞー!」


「きた!」「きたよ!」


(きてしまった…………。それにしても意外いがいはやいなぁ。むしをすりつぶしてぜて、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ)


顔色かおいろわるいよ、アズサ」「だいじょうぶ?」


「だ、ダダダダダイジョウブ」


「ほんとに?」「こっちにおいしいみずあるよ」


心配しんぱいしないで……わたしはもう、覚悟かくごめたから」


「「?」」


 村長そんちょうさんがってきたのは、おおきなかま。そしてふたをゆっくりとけていくと、煮詰につまったむしのいやなにおい――――ではなく。


「……いいにおい」


 湯気ゆげとともにあふれあまくあたたかいにおい。こころゆさぶる、何度なんどいだことのあるにおい。(このにおいはまさか――)


「――おこめ⁉」


「そうそう!」「だいせいかい!」


(よかったぁぁぁ! トカゲも米喰こめくったぁぁぁ!)


「おおきゅうにアズサが元気げんきに」「おこめだいすきなんだね」


「うんうん。たしかに、世界一せかいいちおいしいべものだね!」


「これ、『めぐみのあめ』でってきたんだよ」「そうそう」


(そうかそうか……だからおいしいのか……って、え?)


 おぼえのない言葉ことばに、わたしくびをかしげる。


なにその、めぐみのあめって」


「ああ、らないの?」「めぐみのあめはね、たまにってて、おかねとかみずとかものとかがってくるんだよ」


「え? このむらに?」


「うーん、むらっていうか……このせかいに?」「どこでもってくるよ、五週間ごしゅうかん一回いっかいくらい」


(この世界せかい常識じょうしきなのか…………なにそれ、めっちゃいいじゃん。一生いっしょうあそんでらせるじゃん。はたらかないで、一生いっしょう旅行りょこうができるじゃん!)


 このあたらしい世界せかいたびできる。自然しぜんおおいこの世界せかいを、自由じゆうたびできる。そんなしあわせな日常にちじょうが、わたしにも実現じつげんできる……?


きみたち、将来しょうらいゆめとかある?」


「うん、イーフェンは国王こくおうになること!」「それは無理むりだよ。オーフェンは、ちゃんと世界一周せかいいっしゅうっていう夢があるんだ」


「へえ、そうなんだ。いいね。ちなみに、仕事しごとをしたいとはおもわないの?」


「しごと? なあにそれ」「それっておもしろいの?」


 さらに二匹にひきいてかったが――この世界せかいには、仕事しごと存在そんざいしないらしい。『村長そんちょう』とか『国王こくおう』という地位ちいは、なりたい人が勝手かってにやるだけ。


 かれらは『めぐみのあめ』のおかげでらしているのだ。前世ぜんせ太陽たいようつき存在そんざいしたように、この世界せかいではたりまえに『めぐみのあめ』がるのだ。


(すごい……ゆめみたい。ううん、これはわたしゆめゆめでもなんでもいいから、この世界せかいたびさせて……)


 わたしかがやかせながら、白飯ごはんをほおばる。おかずは……ない。あるのはての白飯ごはんだけ。


「アズサやっぱり白飯ごはん大好だいすきなんだね」「美味おいしいもんね」


「このべっぷり。大量たいりょう準備じゅんびしといてよかったわい」


 笑顔えがお三匹さんびきと、一人ひとり


(これから、どうしよう……いや、そんなのはもう最初さいしょからまってたんだ)


 ……とりあえず、たびをしよう。


 都合つごうのいいことに、準備じゅんびはそろっている。何年なんねんまえ準備じゅんびしてあったのに、ひらくことのなかった旅行用りょこうようカバン。これは、いまわたしのために用意よういされていたのだろう。


 それからわたしは、なんとなくくちひらいた――


「ねえ、オーちゃんとイーちゃん。これからこの世界せかい一緒いっしょたびしない?」


たび?」「世界一周せかいいっしゅう?」


「そう、世界一周せかいいっしゅうわりなんてかんがえないで、自由じゆうにいろんなところへと」


く!」「絶対行ぜったいいくよ!」


「じゃあ――荷物にもつをまとめて、明日あした出発しゅっぱつね」


 わたしのこの提案ていあんが、わたし人生じんせい最大さいだい分岐点ぶんきてんだった。


一人ひとりではさみしいけど、でもこのたちとなら……)


 わたしうごかす原動力げんどうりょくは、この広大こうだい世界せかいたびへの好奇心こうきしんだけだ。そして、ちなみに――


「ねえ、ワシは? ワシ。ないがしろにされとらんか? まあワシは村長そんちょうじゃからこのむらはなれるわけにはいかんが……ちょっとぐらい……」


「あ、ごめんなさい。村長そんちょうさんは、ちいさくてみつけてしまいそうなので」


「がーん」


 村長そんちょうさんは、かなりちこんでいるようだった。


「おとうさん、元気げんきして」「ぼくら、世界一周せかいいっしゅうしてくるね」


「あ、ああ。っておいで。冒険者ぼうけんしゃひととなら、あぶなくないじゃろうし」


冒険者ぼうけんしゃじゃないんだけど……まあいいか。安全あんぜんなところをとおればいいんだし)


「よし、それじゃあ明日あした出発しゅっぱつけて…………めてもらってもいいですか?」


「ど、どうぞー」


(すねた村長そんちょうさん、ちょっとかわいい……)

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ふうらりふらりの道の果て 星色輝吏っ💤 @yuumupt

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