『カスタムヒーローズ』ある日のボドゲ部(仮)の活動
くれは
単純に強いカード出してどーんって感じ
ボドゲ部
顔やお腹に傷のある男の人が──戦っているのだろうか。そこに書かれた『カスタムヒーローズ』というのが、多分ゲームの名前だと思う。
「これはどうかな。フレーバーはバトルアクションなんだけど、怖い雰囲気じゃないと思うんだよね」
「戦うってこと?」
「多分だけど、プレイヤーは戦わないんじゃないかな……と思う。戦うのはあくまで手札のキャラクターだから。それに、怖い雰囲気とかなくて、もう単純に強いカード出してどーんって感じの楽しいゲームなんだよね」
「怖くないなら良いけど」
頷きはしたけど、わたしはまだだいぶ警戒していた。
「
机の上に箱が置かれて、
透明なプラスチックのカードには、その一部分だけに絵が描かれている。例えば、カードの周囲を覆うように舞い散る稲妻や花びら。中途半端な位置に描かれた剣や銃。
「このカードはこうやって使います」
言いながら、
そこに、青い剣が描かれた透明なカードが差し込まれる。カードの端っこに描かれた青い剣はそうやって重ねるとちょうど、キャラクターの右手に重なった。まるで、そのキャラクターが剣を持っているみたいだった。
「この『拳一』ってカードは、強さが『1』なんだ」
「透明なカードは『強化カード』って言って、こうやって『キャラクターカード』に重ねてカードを強化できる。この武器のカードは『+4』の効果だから」
「一足す四で、このカードの強さは『5』になる」
以前に遊んだゲームを思い出して、わたしは首を傾けた。
「透明なカードを重ねるの、前にもあったよね」
わたしの言葉に、
「『ミスティック・ベール』ね。これ、同じデザイナーの作品なんだよ」
「同じデザイナー」
そうか、ボードゲームにもそれを作っている人がいるんだ、と当たり前のことに思い至る。ボードゲームを作る人のことをデザイナーと呼ぶのは初めて知ったことだった。
「
「そういう遊びがあるってことしか」
ボードゲームの世界に入り込んでしまう体質はトランプのゲームも同じで、だからわたしはゲーム全般を避けてきた。とにかくそういう場面からは逃げていたから、それがどんなゲームなのかは知らない。
眉を寄せて
「そっか。じゃあ、そこから説明しようか。このゲームだと、最初に手札が配られる。その手札のカードを先に全部使い切ったら勝ち。それはイメージわかる?」
「手札のカードがなくなったら良いってことだよね。それはわかる」
「まず最初のプレイヤーが、自分の手札から好きなカードを出す。何枚出しても良いけど、二枚以上出すときは条件がある。条件はあとで説明するね。そしたら次のプレイヤーは、前のプレイヤーが出したのと同じ枚数の、前のプレイヤーよりも強いカードを出さないといけない。出せないときはパス」
「強いって、さっきの数字?」
「そう」
「この『二葉』のカードの強さは『2』。もしこれが出てる場合、例えばこっちの強さ『3』の『才三』は出せる。でも、こっちの『拳一』は強さ『1』だから出せない」
三枚のキャラクターカードが並べられる。それを見て、ふと、さっき
手を伸ばして机の上に置かれたままのそのカードを持ち上げて『+4』の文字を見てから
「ひょっとして、このカードは強さが『5』になってるから、出せるってこと?」
「そう、ばっちり。で、さっき複数枚出すときに条件があるって言ったよね。二枚以上のカードを出すときには、その強さが全部同じじゃないといけないんだ。例えば……」
「これで強さ『2』が二枚。この次に出すときは、強さが『3』以上の同じ強さのカードを二枚出さないといけない。でも、手元にあるのがこんなカードだったとするよね」
そう言って、『電八』というキャラクターカードをわたしの前に置く。『電八』の強さは『8』。
「そんなときに、この『強化カード』を使えば」
そう言って、
「これでこの『電八』のカードは八引く三で強さは『5』だ。さっきの『拳一』と合わせて『5』が二枚。これでカードを出すことができる」
「それで出せちゃうんだ、カード」
「そう、出せちゃう。こうやって『強化カード』でカスタムして戦うから『カスタムヒーローズ』って名前。ゲームごとにヒーローの強さも見た目も変わってしまうから、毎回そのゲームだけのヒーローが生まれるんだ」
どうやらこれは異種格闘技戦の試合みたいなものらしい。武器も魔法のような何かもあって、とても派手な闘いだ。
今、試合会場では『十式』という女性型のロボットと『彌七』という老人が並んで他の選手を倒したところだ。『彌七』の手には大きなガントレットが装備されている。二人とも強さが『10』。
この二人に勝つためには、強さ『11』以上のカードを二枚出す必要がある。キャラクターカードの強さは最大『10』だから、そのままなら『11』が二枚なんて出せるはずがない。
どうやったら『11』以上が作れるだろうかと、わたしは目の前に並んだ『強化カード』──装備を眺める。装備も色々で、数字が増えるものも減るものもある。うまく組み合わせたら数字が作れそうなんだけど、焦ってしまってなかなか思いつかない。
「
「
「それは……わかってるから余計に焦っちゃって」
「大丈夫、一つ一つ確認していこう。残っているのは強さが『9』の『九尾』と、『1』『+8』で『9』になった『拳一』だよね」
「この二枚を強さ『11』以上にしないといけないんだよね? それも同じ数の」
「そうだよ、ばっちり。『強化カード』の残りは?」
わたしは装備を眺めて、順番に口に出してゆく。
「右手の装備は『+7』と『+2』。左手の装備は『-3』。それとエフェクトの強さ『11』。プラスの同じ数が二つあれば良かったんだけど」
「落ち着いて考えたらできるよ」
もう一度、装備を眺める。『拳一』はもう右手に装備してるから、同じ右手の装備は使えない。でも左手装備は『-3』だけだ。
元の強さを『11』に上書きできるエフェクトのカードも駄目だ。『拳一』の装備の『+8』はそのままだから、強さが『19』になってしまう。『九尾』に装備できるのは『+7』が最大だから、強さが『16』で──。
「あ」
頭の中にその数が見えて、思わず声が漏れた。
まずは『九尾』に『+7』の杖を持たせて、強さが『16』になる。
それから『拳一』に炎のエフェクトを纏わせて強さを『11』に上書きする。元々の装備と合わせて『19』。その左手に『-3』のバラの花束を持たせて『16』。
強さ『16』が二枚、これで『あがり』だ。『九尾』と『拳一』が手にした武器で『十式』と『彌七』を倒す。
「出せたの、
「俺は何も言ってないよ。
その表情を見て、なんだか、言葉が何も出てこなくなってしまった。何も言えないまま、わたしは
わたしがそうやって考えられたことが
『カスタムヒーローズ』ある日のボドゲ部(仮)の活動 くれは @kurehaa
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