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 遠雷が聞こえた、と思ったら、急に視界が明るくなった。

「……あれ?」

 雨に降り込められていたはずの店内には、ギラついた陽光が差し込んでいる。

「オヤ、起きたかい?」

 アップテンポの洋楽に合わせてハタキを振っていたお兄さんが、ひょいと振り返った。

「私、寝てました?」

「うん。メトロノームみたいに揺れてて、ちょっと面白かったヨ」

 いつの間に眠ってしまったんだろう。さっきまでお兄さんと何か――話をしていた気がするのだけれど、あれも夢だったのだろうか。

「あっという間に晴れたねエ」

 開け放ったドアからぐいと身を乗り出して、「いやー、雲一つない青空!」と笑うお兄さん。外はすっかり晴れ渡って、道も乾き始めている。さっきまであんなに酷い雨だったのが、まるで夢のようだ。

「貸し傘はもう必要ないかナ」

 外に出していた貸し傘のバケツを引っ込めるお兄さんに、慌ててビニール傘を返却する。

「あ、はい。ありがとうございました」

「どういたしまして! また必要になったらいつでも借りに来てネ」

 バケツをカウンター奥に引っ込め、掃除用具もしまい込んで、ラジオを止めるお兄さん。代わりに流れ出したのは、少し寂しげな曲調のオルゴール曲。あとは窓とカーテンを閉め、お兄さんがジャージから着替えれば、本来の『仮面屋』が完成するのだろう。

「開店前に、本当にすいませんでした。今度は客として来ますので!」

「ウンウン、いつでも大歓迎だヨ!」

 じゃあねと手を振るお兄さんに背を向けて、重い扉をくぐる。

 晴れ渡った街はいつもより眩しくて、思わず眼を細めた。

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仮面屋 小田島静流 @seeds_starlite

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