3
本当は親の進める『いい大学』なんて行きたくない。安定した未来なんか望んでいない。――でも、不安定な将来は怖い。だから、周囲の進めるまま、無難な道を辿り続ける。
それでいいのか、本当にこれが正しいのか、いつだって不安で仕方がなくて。
それでも、一歩踏み出す勇気も、親や先生を説得する気概も、私にはなくて。
だから、この仮面は私。優等生でいることしか出来ない、私そのものだ。
雨が唸る。雷が鳴り響く。雷光に照らされる仮面達はまるで、私を嘲笑っているようだ。
「うちはね、販売だけじゃなくて買い取りもしてるのサ。だからこの仮面、要らないなら買い取ってあげるけど、どうする?」
泣き顔のピエロは、ゴシックホラーな情景の中でも、どこか滑稽だ。だからだろうか、他の仮面と違って、あまり怖く感じない。
「買い取ってもらったら、どうなりますか」
「どうもならないヨ。君はまた新しい仮面を被るでショ?」
人はみんな、仮面を被って生きているんだから、とピエロは笑う。泣き顔で、笑っている。
「でも、無自覚に被った仮面よりは、自覚して被ってる仮面の方が、コントロールしやすいと思うんだよネ」
自身の仮面を指さし、胸を張る道化師。
「この店にいる間は、ボクはピエロでありたいのサ。陽気で、ふざけてて、ちょっとドジで、みんなを笑わせる道化師。だからこの仮面を選んだ」
ずらりと並んだ仮面を指し示し、「さあ、君は何を選ぶ?」とばかりに首を傾げてみせる道化師。
笑い顔、泣き顔、怒り顔、澄まし顔。ありとあらゆる感情を体現した仮面達が、じっと私を見つめてくる。私を、俺を、僕を選べと、無言の圧をかけてくる。
「今までの仮面をかなぐり捨てて、別の仮面を被って生きる。それだけで違う自分になれるんだ、こんなに簡単なことはない」
なんと魅力的な提案だろう。
――それでも。
「返してください。私にはまだ、それが必要なんです」
この仮面は私。揺らいでしまう私を守るための、心の鎧だ。
「ウンウン。君の人生だからネ。選ぶのはいつだって君自身だ」
何故か満足げに頷いて、お兄さんはまるで冠でも捧げ持つような手つきで、仮面をそおっと差し出してきた。
「これが必要なくなったら、またおいで。その時は高値で買い取ってあげるヨ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます