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 本当は親の進める『いい大学』なんて行きたくない。安定した未来なんか望んでいない。――でも、不安定な将来は怖い。だから、周囲の進めるまま、無難な道を辿り続ける。

 それでいいのか、本当にこれが正しいのか、いつだって不安で仕方がなくて。

 それでも、一歩踏み出す勇気も、親や先生を説得する気概も、私にはなくて。

 だから、この仮面は私。優等生でいることしか出来ない、私そのものだ。


 雨が唸る。雷が鳴り響く。雷光に照らされる仮面達はまるで、私を嘲笑っているようだ。


「うちはね、販売だけじゃなくて買い取りもしてるのサ。だからこの仮面、要らないなら買い取ってあげるけど、どうする?」

 泣き顔のピエロは、ゴシックホラーな情景の中でも、どこか滑稽だ。だからだろうか、他の仮面と違って、あまり怖く感じない。

「買い取ってもらったら、どうなりますか」

「どうもならないヨ。君はまた新しい仮面を被るでショ?」

 人はみんな、仮面を被って生きているんだから、とピエロは笑う。泣き顔で、笑っている。

「でも、無自覚に被った仮面よりは、自覚して被ってる仮面の方が、コントロールしやすいと思うんだよネ」

 自身の仮面を指さし、胸を張る道化師。

「この店にいる間は、ボクはピエロでありたいのサ。陽気で、ふざけてて、ちょっとドジで、みんなを笑わせる道化師。だからこの仮面を選んだ」

 ずらりと並んだ仮面を指し示し、「さあ、君は何を選ぶ?」とばかりに首を傾げてみせる道化師。

 笑い顔、泣き顔、怒り顔、澄まし顔。ありとあらゆる感情を体現した仮面達が、じっと私を見つめてくる。私を、俺を、僕を選べと、無言の圧をかけてくる。

「今までの仮面をかなぐり捨てて、別の仮面を被って生きる。それだけで違う自分になれるんだ、こんなに簡単なことはない」

 なんと魅力的な提案だろう。

 ――それでも。

「返してください。私にはまだ、それが必要なんです」

 この仮面は私。揺らいでしまう私を守るための、心の鎧だ。

「ウンウン。君の人生だからネ。選ぶのはいつだって君自身だ」

 何故か満足げに頷いて、お兄さんはまるで冠でも捧げ持つような手つきで、仮面をそおっと差し出してきた。

「これが必要なくなったら、またおいで。その時は高値で買い取ってあげるヨ」

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