終身雇用のヒーロー

エコエコ河江(かわえ)

終身雇用のヒーロー

『私だけのヒーロー』


 そんな顔をなさらず。私は決して、恨んでも怒ってもいませんから。彼の話をしましょう。私にも語れる部分がありますから。


 最も印象深いのはやはり就任のスピーチですね。旦那さんはひとつ後でしたし、緊張していたでしょう。私は今でもはっきり思い出せますよ。雲が群馬県の形だと盛り上がったのも、署長が宇都宮さんだったのも、朝食が水戸納豆だったのも。彼の青臭い言葉に何人かの失笑が聞こえたのもね。


「みんなのヒーローとして恥じない動きを続けます」


 私もその一人ですよ。ここでも言うんだなって、思いました。


 前後があるのはご存知ないでしょう。小学校の卒業文集に「世界のヒーローになる」とあり、中学校の卒業文集にも「アジアのヒーローに」、高校でも「日本のヒーローに」と書いていましたよ。


 お気づきでしょう。規模が小さくなる一方です。四月生まれですから、運動が得意で頭もよくて、でもそんな優位性はどんどん誤差になっていきます。それを差し引いても優秀な側だからこそ、自らの器もよく見ていました。


「みんなのヒーロー」ってなんだか可愛いですよね。具体的な範囲をぼかして、地域の、県の、国の、後からいくらでも変えられる。スピーチの機会が当分はなくなるとわかっていたからです。彼は自分の限界を決めるのを嫌ったんです。


 実際、その言葉に恥じない働きを見せてきたと思っています。自分の身を呈してでも誰かを守ってきました。交番襲撃事件でも、可愛い後輩たちがいるんだから考える前に飛び込んだと話していました。私も肝が冷えましよ。支援にも限度がありますからね。最初で最後の喧嘩です。治療で半年、仲直りまではさらに半年でした。


 長くなってしまいましたが、そんな経歴の人ですから、もっと笑顔でいましょう。彼の咄嗟の機転のおかげで私たちは今も生きています。


 彼も、ここと、ここで。

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