第43話 証明
☆
宿屋に戻ると既にアンリは部屋で待っていた。
というのもミドリは約束の時間よりも30分以上遅れて到着したのである程度予想はついてた。ミドリはアンリが心配しているか、若しくは怒っているのではないかと思っていたが実際はそのどちらでもなく、至って普通の様子だった。
聞くとアンリも到着したのは5分前ほどだったらしい。
ミドリはすぐに化け物について知っていたエドゥのことについてアンリに話した。
「正直あまり期待していなかったけど、本当に化け物について知っている人間がいるとは……。でも、これまでは雲をつかむような話だったのが少しは前向きになれるな。サメの頭か、僕たちが見たのとは違うけど、やっぱり化け物は一体だけではないってことなのかな」
アンリは片手を顎に当てて考えているポーズをとっている。
「そう考えるのだ妥当だろうな。サンスベール兵の死体を見ても人の力では有り得ないような強さで体を引き裂かれたような状態だったり、食いちぎられたような歯形がついていたりと地獄のような光景だったらしい。それが俺たちの探す化け物と同じかどうか、それは実際に見ていないから確実だとは言えないけれど、どちらにせよ、まだ俺たちの知らない化け物がいるのは確かみたいだな」
ミドリは余計に分からなくなったことが増えただけとはいえこれからのことに少しだけ希望を持つことが出来た。自分たちが追っていいたのは幻などではないということが分かっただけでも進歩である。
「それを教えてくれたエドゥって人はどうしたんだ?」
「もう今夜の内にこの街を離れるらしい。もう少し話を聞ければよかったんだけどな」
「そうか…………」
アンリもエドゥの話を聞きたかったのか残念そうな顔をした。
「でも大丈夫だ。旅を続けていればまたどこかで出会うはずだ。その時にまた話せばいい」
「それもそうだな。………じゃあ僕の方からはこれだ」
アンリはミドリに手のひらサイズの小さいピンのようなものを手渡した。
金属で出来ていて、星のような形をしている。
「これはなんだ?」
「これはバッジだよ。バウンティハンターの証のね。この街に限らずバウンティハンターを名乗るのにも証明が必要らしくてさ。それを装って悪さをする連中もいるみたいで、まぁだからと言って僕たちの行動が縛られるとかはないから気にする必要はないよ。悪さをしなければいいだけだからね」
アンリはバッジについて説明した。
バウンティハンターを生業にする人もいるほどなのであるから、職業としての証明なるバッジがあることに何の不思議もない。それよりもバウンティハンターを装って悪事を働く人間がいるということに驚いた。
そのような事を考える人間はいないことはないのだろうが、そのために証明が必要となる程度には、きっと一人や二人ではないのだろう。
ミドリは今までの街を思い返すとこれまでは違和感を感じなかったが、警察というのが存在しないことに思い当たった。
確かに警察の役割を果たすであろう官兵や傭兵、騎士は街を徘徊してはいるが、それらは悪人を捉えるための専門の職業ではない。故に街の外では平気で盗賊やそれに類する悪党たちが跳梁跋扈しているのである。
とはいえ、一概に官兵や傭兵らを責めることは出来ない。彼らとて街の治安維持は二の次で遊んでいるわけではない。目下戦争中の隣国との戦いに常に備えて警戒心を解かないでいる。悪党を相手にするのと、戦争に備えること、どちらを取るかを天秤にかければ答えは自ずとわかる。
そういうわけで街の取り締まりが緩いために悪党は生まれてしまうわけである。
「なるほどな、まぁこれがあれば身分証明書代わりになるんなら持っていて損はないよな」
「うん、常に身につけて置く必要はないけど失くさないようにな」
「あぁ、分かった」
とりあえずミドリはバッジを小さいポーチの中にしまっておいた。
「明日もこの街に留まるのか?」
ミドリはこの街にもう用が無いように感じられたのでアンリに聞いた。
「うーん、まだこの街に来て3日だし、もう出るんじゃ流石に疲れるだろ?屋根のついたベッドにもまたしばらく寝れなくなるし、ここを出るのは明後日にしよう。明日はゆっくりしてもいいし、動いてもいいし、基本的には今日と変わらないけれど楽に過ごそう」
アンリは明日の行動予定をミドリに伝え、その後もお互い今日あったことを簡単に共有し合って終わった。
二人の旅を先を急ぐものではない。時には休めるうちに休んでおくことも重要である。
次の日もミドリとアンリはそれぞれ自由に過ごして終わった。
それほど本腰を入れて調査をしたわけではないので収穫はもちろんなかったが、ゆっくりと過ごしたおかげで気分はリフレッシュしている。
そしてダイダルの街も出発をする日。
「さぁ、ミドリそろそろ行こうか」
「次はどの街へ向かうんだ」
「ミドリがエドゥって人から聞いた化け物の情報のある方へと向かってみよう」
アンリはサンスベール国境の方向を指さした。
「でもそれって今、サンスベールとメトラムが紛争をしている場所に近づくってことだろ?まだ危険じゃないか」
ミドリは様々な場所でメトラムとサンスベールの戦争の話は聞いているため、自ら危険な場所へと近づこうとするのは得策ではないように思えたが、実際はミドリやアンリの求めるものはその方向にあるのだと直感していた。
「確かに危険かもしれないけれど、手がかりが今のところは他にないしな……」
「じゃあ、いずれサンスベールとの国境付近にはいくとして、とりあえずはメトラムの首都のトゥレカオに向かうのはどうだ?首都ならこんな街の何十倍もでかいし、情報量も桁違いなはずだろ。それに図書館とか、色々あると思うしさ」
ミドリは何となく今はまだ国境付近へ向かうのは時期ではないと感じて代替案を出した。
「…………そうだな。まずは首都に向かおう。なんなら最初に向かってもよかったはずだからね。でもここからはしばらくかかりそうだな」
「それはいつものことだろ?」
「それもそうだね」
ミドリは覚えたてのメトラムの首都の名前を出してアンリを説得し、次に目指す場所はトゥレカオに決まった。
シンジンルイ @ore_strawberry
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