『私だけのヒーロー』って、何ぞや?

夕闇 夜桜

『私だけのヒーロー』って、何ぞや?


 とある場所で、とある双子の兄妹が話していた。


「なぁ、結理ゆうり。お前の中の『私だけのヒーロー』って、何だ?」

「何、いきなり……」


 双子の兄である彼が、脈絡なくそう言い出すことは時々あったが、今回もまた妙なことを聞いてきたな、と結理は思う。


「お題なんだよ」

「あー……」


 それだけで何のことか察せられる辺り、頭を抱えたくなる。


 ――というか。


「それがどんな『ヒーロー』なのにもよるよね」

「ん? ああ、そうだな」


 何をもって、『ヒーロー』とするのか。


 ――何となくでも良いのなら、目の前に居るんだけどな。


 じっと、結理は目の前にいる双子の兄――結城ゆうきを見つめる。

 両親が共働きなこともあり、小さいときから弟妹の世話は、基本的に長男・長女である二人が行っていたわけだが、自分が荒れることが無かったのは事情を知る友人たちもそうだが、何より――目の前にいる兄の存在が大きかったのでは、と結理は考える。

 まあ、そんなことを思っても、本人に言うつもりは無いが、聞かれている以上、何か答えないといけない。


「自分が思ったことを、性別とか変えて書くのは駄目なの?」

「いや、それでも良いんだろうけど……」


 唸っている辺り、どうやら腑に落ちないらしい。


「とりあえず、友愛ゆあたちにも聞いてみたら?」

「んー、そうするかぁ」


 そう言うと、結城は弟妹たちに聞きに行くためなのか、部屋を出ていってしまった。


「まともな答えが聞けると良いけど」


 結理としては、何となく二人から返ってくる答えが予想できて、そう呟いた。


   ☆★☆   


 がっくりとした様子で戻ってきた結城を見て、結理は「やっぱり、まともな答えが返ってこなかったか」と察した。

 曰く、弟には『は? そんなの、結姉ゆうねえに聞けば?』と、妹には『んー、そりゃあ、結姉たちかなぁ』と言われたらしい。

 そこで『結兄ゆうにい』と名前を出されなかった辺り、本人に向かって言うのは恥ずかしかったのもあるんだろう。


「そうなると思ったよ」


 弟の友愛に至っては、『私に丸投げかよ』とも思わなくはないが、タイミングが合わない以外はそんな扱いをしてこない彼なので、きっと部屋に行った時のタイミングが合わなかったのだろう。


 ――さて、そろそろ言ってやるべきなのか、否か。


「……」

「……」

「……」

「……」


 今はネタ探しなのか、息抜きなのか。テレビを見てはいるが、それも見終わると、また悩む時間に突入するだろう。

 別のことをしているのなら、タイミング的には今かな――などと思いつつ、結理はあっさりと爆弾を投下することを決めた。


「結城」

「んー?」


 目がこっちに向けられないのを見ると、それなりに番組を楽しんでいるらしい。


「『私だけの・・・』には該当しないかもしれないけど、私にとっての・・・・・ヒーローは結城だから」

「ほーん」


 と、しばしの無言の後、「……!?」と驚きと混乱した様子の目を、結理はすぐさま向けられた。


「えっ、はっ?」


 そもそも結理は、友愛に言われなくても、最初から聞かれていたことに対して答えただけなのだが、当の結城は自分の名前が出てきたことで、混乱しているらしい。


「それじゃ、私も言った・・・から」

「ちょっ、待っ……」


 理由等を聞くために、部屋を出ようとしていた結理を引き止めようとする結城だが、それは叶わず、彼女は部屋から出ていく。


「……マジかぁ」


 そして、部屋に一人残された結城は、『さすがに、その答えは予想外』とばかりに呟く。

 まさか自分の名前が出てくるとは思わなかったのだから、仕方がない。

 結理が部屋から出て行ったのも、『照れ隠しか?』と予想できなくもないが、彼女の言い方的にそうじゃない可能性もあるので、判断は難しい。


「……」


 とりあえず、(身内だけとはいえ)意見は貰えたし、それを参考に書いてみるかと、スマホを取り出す結城だった。


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『私だけのヒーロー』って、何ぞや? 夕闇 夜桜 @11011700

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