無能は要らないと追放されたけど、義妹は変わらず慕ってくれています ~身体強化魔法の真髄を思い出した俺、無双を始める~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「無能のお前は追放する!」


 パーティリーダーがそう言って、俺を指さす。


「そ、そんな……」


 俺は膝から崩れ落ちた。

 今までの努力が全て無駄になった瞬間だった。

 その後の事は記憶にない。

 気が付いたら、俺は自宅のベッドで寝ていた。


「お兄ちゃん……大丈夫?」


 義妹のミクが心配そうな顔で俺を見ている。


「あぁ、大丈夫だ」


 俺は何とか笑顔を作った。

 しかし、内心では落胆と悲しみが渦巻いていた。


「噂は聞いたよ……。本当に残念だったね」


「あぁ、まぁ仕方がない事だよ。俺が無能なのがいけないんだし……」


 そう言うと、ミクは首を振った。


「そんなこと無い! お兄ちゃんは凄いんだよ!?」


 ミクはそう言ってくれるが、家族としての贔屓目だろう……。


「ありがとうな、でももういいんだ。俺に冒険者は向いていない。他の職を探すよ。ミクを路頭に迷わせることだけはしないから、安心してくれ」


 ミクと俺は血が繋がっていない。

 彼女の両親は冒険者で、活動中の事故により亡くなっている。

 天涯孤独となったミクを娘として引き取ったのが、俺の両親だ。

 だが、そんな2人もまた魔物に不覚を取り亡くなっている。

 冒険者とは、それほど危険な職業なのだ。

 辞めるのに、ちょうどいいきっかけだ。


「…………」


 俺の言葉を聞いて、ミクは無言になる。

 何か考え込んでいる様子だったが、すぐに顔を上げた。


「分かった! じゃあ私が冒険者になる!!」


「え? いや、それはダメだ!!」


「ふーんだ! 私だって冒険者の素質があるもん!!」


 ミクはそう言いながら家を出て行った。

 ……まずいな。

 確かに、ミクには剣術の才能がある。

 街の道場で鍛えており、来年には冒険者デビューをしようという話はしていた。

 だが、まだ13歳だ。

 いくら才能があっても、まだまだ未熟な子供である。

 若い才能が無謀な狩りに挑戦して重傷を負ったり死亡したりするのは、よくあることだ。

 ミクが危ない。

 俺が止めないと!!


「待ってくれ!」


 慌てて追いかけるが、既にミクは街の外へ向かっていた。

 彼女の移動スピードは速い。

 森の中をぐんぐん進んでいく。

 そして、その先に待っていたのは……ゴブリンの群れだった。

 ゴブリンとは緑色の肌をした小鬼の事だ。

 力も弱く知能も低いため、一般人でも容易に倒せる弱いモンスターである。

 ただ、数が揃うと厄介なことに変わりはない。

 この数だと10匹以上いるだろう。

 13歳の少女には厳しい相手かもしれない。

 俺は魔法の発動を準備するが……。


「よし! お兄ちゃんの代わりに、私が稼ぐぞ~!!」


 ミクは剣を構えると、勢いよく飛び出した。

 ゴブリン達は突然現れた人間の少女に対して驚いたようだが、すぐに襲いかかってきた。


「えいっ!!」


 ミクは掛け声と共に剣を振る。

 そして、ゴブリンはあっさりと倒れた。


「強いな……」


 ミクに才能があるのは知っていたが、これほどだったとは……。

 俺よりも強くないか?

 ゴブリン達が全滅するのに時間はかからなかった。


「ふふふ。バッチリだね。お兄ちゃんも褒めてくれるかな……」


 ミクは嬉しそうに笑っているが、正直言って複雑な気分だった。

 兄なのに、俺は無能だから……。


「それにしても、お兄ちゃんのパーティの人たちは見る目がないよね。お兄ちゃんはあんなにすごい魔法を持っているのに……」


 すごい魔法?

 何の話だろう?

 俺が使える魔法は、地味な魔法ばかりだ。

 最もよく使うのは身体強化の魔法で、先ほどミクに掛けようとしていたものだ。

 後は回復系や探知系の魔法くらいしか使えない。

 いずれも珍しい魔法ではあるが、希少性はさほど重要ではない。

 パーティの人達にも『地味過ぎる』『後ろでコソコソしているだけの臆病者』『存在感がない』と馬鹿にされていた。


「ふんふふーん。調子がいいし、もっと奥に行こうっと」


 鼻歌を歌いながら、ミクはさらに森の奥へと入っていく。


「ダメだ! その方向には……」


 俺は慌てて声を掛けるが、時既に遅し。

 ミクはさっそうと移動を開始していた。

 彼女の移動速度は速すぎる……。

 兄としては誇らしい気分だが、今回ばかりはそれが裏目に出た。

 彼女の行く先には……。


「え!? きゃあああ!!」


 突然目の前に現れた巨大なゴブリンに、ミクは驚いて尻餅をつく。


「ま、まさかゴブリンキングなの!? こんなのに勝てっこない……。撤退を……」


 猪突猛進気味のミクであるが、流石にこれは無理だと悟ったようだ。

 だが、俺が駆け付ける前に、ゴブリンキングが仕掛ける。


「ガアアアァッ!!」


 ゴブリンキングが雄叫びを上げる。


「うっ!? ひ、ひいぃっ!」


 ミクが恐怖で顔を歪める。

 どうやらゴブリンキングが発した【威圧】により、動けなくなっているようだった。

 ゴブリンキングが棍棒を振り上げる。

 このままではミクが危ない!

 俺は全力で走りながら、詠唱を始める。

 そして、何とか間に合った。


「【硬化】」


 俺は身体強化魔法をミクに掛ける。

 ゴブリンキングの棍棒がミクに振り下ろされるが……。

 ガキンッ!

 ミクの頭が、ゴブリンキングの棍棒を弾いた。


「え? い、今のは……?」


「大丈夫か? ミク。無茶ばかりしやがって」


 俺はそう声を掛ける。

 ズキッ!

 頭に痛みが走る。

 ずいぶん昔に、こんなことがあったような……?


「お、お兄ちゃん! どうしてここに?」


「お前を追いかけて来たんだよ。そしたら、大変な事になっていたからな。助けに来たんだ」


「そ、そうなんだ……。ごめんね。勝手なことばかりして……」


「話は後だ。先にコイツを片付ける」


 俺はゴブリンキングを見据える。

 奴も睨み返してくる。


「お兄ちゃん。私も戦う!!」


 ミクが剣を構えて前に出る。


「待っていろ。ここは俺に任せてくれ」


 どうして忘れていたのだろう?

 身体強化魔法の本来の使い方を。

 先ほどミクに掛けたように、他者に掛けることばかりを考えていた。

 昨日追放されたパーティでも、ひたすらにパーティメンバーを強化していた。

 だが、身体強化魔法の真髄はそんなものではないはずだ。

 身体強化魔法の本当の効果は……。


「危ないっ! お兄ちゃん!!」


 ミクがそう声を上げる。

 ゴブリンキングの棍棒が俺の頭に迫っているのだ。

 だが、俺はそれをあえてそのまま受けた。


「ギャオォッ!?」


 混乱するゴブリンキング。

 無理はない。

 先ほどのミクに続き、俺までもが棍棒を受けて無傷なのだから。


「身体強化魔法の真髄……。それは……」


 俺は魔力を高めていく。


「俺自身を、強化することだ」


 全身から魔力が溢れてくる。

 そして、ゴブリンキングに拳を叩き込んだ。


「グウゥ……」


 ゴブリンキングは苦しげな表情を浮かべると、ゆっくりと倒れていった。


「やったあ!! すごいよ、お兄ちゃん!!」


 ミクは大喜びだ。

 ゴブリンキングを倒した事で、レベルが一気に上昇していくのを感じる。


「ふぅ……。これで一安心か……」


 俺は安堵のため息を吐く。


「お兄ちゃん……。あの……、ありがとう……」


 ミクは恥ずかしそうにお礼を言う。


「気にすんなって。それより、怪我はないか?」


「うん……。私は平気だけど、お兄ちゃんは……」


 ミクは心配そうだ。

 確かにゴブリンキングの一撃は重かったが、身体強化魔法のおかげでダメージはほとんどない。


「俺も大丈夫だ。この感覚、ずっと忘れていたよ。身体強化魔法を自分に掛けるなんてな」


「昔はよくしてたでしょ? 私をゴブリンから助けてくれたこともあったじゃない」


「そうだったな……。パーティに入ってからは、人に役に立つことばかりを考えていたせいかな。すっかり忘れていた」


「じゃあこれからは、また昔のお兄ちゃんに戻るんだね」


「ああ……。そうだといいけど……」


「きっと戻れるよ。だってお兄ちゃんはすごいもん!」


 ミクは屈託のない笑顔を見せる。

 その笑顔を見て、俺は心の中で誓う。

 もう二度と妹を危険な目に遭わせたりしないと……。


「大好きだよ……。私だけのヒーロー……。私だけのお兄ちゃん……」


 ミクがそんなことを呟いたかと思うと、俺のほっぺにキスをした。


「ミクっ!? おまっ!?」


「えへへっ! おまじないだよっ! お兄ちゃんが元気になってくれますようにって!」


 照れくさそうに笑うミクの顔が、とても可愛らしく見えたのであった。

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