CASE02:一緒に下校
”サンプル”として一ノ瀬青葉と”仮”で付き合うことになってから3日が経過した。しかし、楽器はじめということもあり特に何があるわけでもなく。そして部活があったりなんだりで結局は何も変わらないいつもの生活に戻っているのであった。
今日も特に何かがあったわけでもなく。というか高2になった瞬間に始まる模試のせいで酷い目に遭い、逆に言えばそのおかげで午前中に授業が終わって午後からは暇になった。部活もないし、今日は家に帰ってのんびりできる……そう思っていたところ。
「ねえ松本君。今日この後空いてるかしら」
「ん? ああ、空いてるけど」
「じゃあ一緒に帰りましょうか」
「お、おう……」
ちょうど職員室から何か資料のようなものを運んできたらしい一ノ瀬は俺の机の目の前に来ると二人で下校する約束を取り付けてまたどこかに行ってしまった。同じクラスになったはいいものの、世のリア充と呼ばれるような人種と同じことをやっていたかと言われれば嘘になる。つーかそもそも何すればいいかわからんわ。
さてさて、放課後何をどうすることやら……。
〇 〇 〇
無事に今日も終礼が終わり、春にしては頭の頂点が寂しい担任が教室を出ていく。俺も早々にHRで配られた書類たちをカバンの中に入れて変える準備に取り掛かる。その間斜め後ろの……一ノ瀬の席の方面からこちらに視線がまるでレーザービームのように照射されているのだが……さっきからなんなんだいったい。
「っし。じゃあ帰るか」
しっかりチャックを閉めたリュックを背負い、教室の出口に歩こうとすると、それを見た一ノ瀬もこちらに向かって歩いてくる。そして同時にドアから廊下に出て8クラスがデルタ型に配置されている特徴的な廊下を歩いて玄関を目指す。
「今日、どこ行く?」
「いや、別にどこでも」
「そう。じゃあ駅に着くまでに考えましょうか」
「お、おう」
どうやら一ノ瀬と俺が会話しながら並んで歩いているのがよっぽど珍しいのだろう。下の階への階段を下る前まで同じ学年の生徒がこちらをがん見していた。特に男子生徒から若干の妬みを込めたものも混じっていた気がする。そういえば学校での評判は容姿端麗冷静沈着頼りになるクールビューティー委員長だもんな。一切そんな実感ないけど。
3階にある教室から一気に1階まで階段を降り、玄関を出るとすぐ正面にある門を出て進路を左手にとる。ここから最寄り駅まで商店街を通れば7分ほどかかる。
「結局どこまで行くんだ?」
「そうね……あなたがどれだけお金持ってきてるかわからないし。そんな遠出なんてする気もないし。北沢にでも行きましょうか」
「そこはしっかり学生の街に行くんだな……あ、金はそこら辺の店でランチ食えるくらいには持ってきてるぞ」
「わかったわ。ならあそこでよさそうね」
寄り道をするのにどこか心当たりがあるらしい一ノ瀬についていくことにするとして。最寄駅に滑り込んできた8両の各停に乗り5駅先の北沢というこの辺ではかなりでかい駅に降り立つ。駅からちょっと行ったところには有名私立大があり、その城下町のようになっているこの街は学生の街としてリーズナブルな店やカラオケ店などが多い。駅前には個別塾もあるため、うちの学校の生徒もよく来るところだ。
数年前に無くなった開かずの踏切の跡地を通り国道方面に歩いていけば少し洒落たカフェのような店があり、そこに入ることになった。時刻は13時過ぎだがまだまだランチはやっているそうだ。
「いつもこんなとこ来てんのか?」
「まさか。早く終礼が終わって部活がない時だけよ」
道路が見える奥の窓側の席に通された俺たちは、まずはお昼ご飯を食べようとメニューを開く。なるほど……パスタを中心に、サンドイッチやガレットなどコーヒーと合うようなメニューが多い。
「ん? コーヒーカフェのカレーライス……なんじゃこりゃ」
「それはまだ頼んだことないわね。私はサンドイッチにしようかしら」
「そうか……だったら俺はこれにしてみるか」
わざわざ逆張りして出しているということはあたりの可能性が高いんじゃないかと思い、わざと注文を取りに来た店員にカレーを注文。コーヒーはアメリカンを注文しておいた。
「さて、待ってる間は何するかねぇ」
「そうね……私はさっきの模試の解きなおしか自己採点でもしようかしら」
やはり化学部での称号が”がり勉”な一ノ瀬はテーブルに先ほどまで使っていた模試の問題とノート、そしてペンケースを広げ始めた。対する俺は「こいつどこでも隙あらば勉強だな」と思いながらスマホを開き適当に興味がある記事の内容を読んでいく。
少しはこいつを見習って解きなおしとかした方がいいんだろうが、あいにくと模試をした後は勉強をする気にはなれない。
さらに待つこと5分程度。再び店員が現れると目の前にカレーライスとサンドイッチを置いて戻っていった。14時前になってようやく昼飯……正直だいぶ腹は空いていた。
「そのカレーの味はどう?」
「ん? シンプルに中辛のカレーでうまいぞ」
「へぇ。だったら今度来た時に頼んでみようかしら」
玉ねぎをふんだんに使っているからか甘い味の奥からスパイシーな味が徐々に出てくるのが病みつきになるような味だ。自分では全く料理をしないからわからないが、かなり工夫して作っているんじゃなかろうか。
一方、目の前の一ノ瀬は一度すべての勉強道具をテーブルの端に寄せて黙々とサンドピッチを食べている。BLTのサンドイッチだからさぞコーヒーと合うのだろう。今度ここに来たら今度はサンドイッチを頼むのもありかもしれない。
それからはお互い何か喋るわけでもなく、昼ご飯を食べ終えて、また一ノ瀬は勉強に、俺はスマホで気になる記事を読み始めるムーブに戻ってしまう。
しかし、俺たちはせっかくの”サンプル”なのだからもうちょっと会話と化した方がいいだろうと思い何か話題を探した結果……。
「なあ一ノ瀬」
「……なに?」
「俺に勉強教えてくれないか?」
「別にいいわよ? わからないところ言ってくれれば」
快く俺に勉強を教えることに快諾してくれた一ノ瀬に向けて、俺は今回の模試でわからなかったところを中心に質問していく。どうも社会方面が苦手なので、そこを中心に質問していくことに。
「ここはゾロアスター教と言ってアフラ・マズダという主神が……」
「じゃあここは?」
「アレキサンドロスっていうのがいて……」
「次こっち」
「それは……」
そのまま、カフェの片隅で勉強会をすること4時間ほど。次に俺たちの意識が現実に戻ってきたときにはすっかり太陽は傾いており、街灯が点灯するような時間帯だった。
「夢中になりすぎたわね……」
「ああ。まさかこの時間までやってたとは驚きだわ」
無意識のうちにコーヒーをもう一杯おかわりしていた俺たちは会計を済ませてカフェを出る。スマホで時刻を見ればすでに18時を回ってしまっており、親から「今日の夕食何がいい?」と連絡が来る始末。適当に「鶏肉のバターソテー」と答えてスマホをしまいまた肩を並べて駅まで帰る
「今日はありがとう。久々に楽しかったわ」
「こっちこそ。めっちゃわかりやすかったから今度また教えてくれ」
「ええ。いつでもいいわよ」
なんていう会話を続けながら駅前まで歩いていたその時……。
「ん? お前らここで何やっとんの?」
「「え?」」
偶然バイト終わりのぶちょーと鉢合わせになるのだった。
〇 〇 〇
【レポート・一緒に下校】
お互いに共通の趣味を見つけると話が盛り上がりいい時間を作ることができる。
結論:仲を進展させるには大切なピースの1つである。
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