第6話「婚姻」
俺たち二人は、もう日が落ちようとしていたその日に、急いで市役所まで向かった。移動手段は電車。自動車は運転できる年齢ではないし、自転車もシェラによって大破されてしまっていた。
がたんごとんと揺られて、まあ難なく15分ほどで市役所近くの駅までたどり着いた。
電車内でのシェラの様子はというと、本当に可愛いもので、
「え、何これ揺れてる〰〰。がたんごとんしてるぅ〰〰」
なぜかギャルみたいな口調で、初めての乗り物に胸踊らされたみたいだった。
――それから、俺たちは徒歩で市役所へと向かった。道中は気分が上がりすぎて、俺が一方的に理想の将来設計とか話してしまい、今思うと正直かなりキモかった。
だが、シェラは天使のように「へえ」とか「そうなのね」とか冷たいながらも反応を返してくれて……完全に惚れた。俺のシェラへの愛を改めて実感した。
そして、市役所へ到着し――早速、婚姻届の提出をする……のだが。
「あ、婚姻届ですね。受け取りますよ」
と言った市役所の職員(女性)に向かって、シェラは「えいっ」と長い爪を彼女へ向けた。
すると、ササササ…………。その女性が取り出した――という訳ではなく、彼女の手に突然、A4サイズの紙が出現した。
俺がそれを受け取り、記載事項を読み上げると――
「〝死神と人間との結婚及び性交について〟……って、なんだこりゃ!?」
「何って……そのまんまなんだけど」
淡々と言うシェラ。……いやいや、ちょっとは恥ずかしがってよね。
見出しの下には、ずらりと注意事項やらが書いてある。基本的にはシェラに聞いたとおりだったが……その最後の方、『〈性交〉は普通にしてもいいよ』という何とも簡略的かつ十分すぎる文章に、俺は自分の正気を疑った。
「お、お前は俺と……そ、そそ、そんなことをするつもりだったのか?」
「な、何顔を赤らめているの? 夫婦なら当然でしょ? もしかして、死神には生殖器官がないとでも思っているわけ? あのね、死神って言っても姿は人間と全く同じなのよ。それとも何? 私という死神との聖なるセ――」
「それ以上は言うな! ……ああもう、わかったわかった。とにかく、この紙書けばいいんだよな」
大きく書かれたタイトルの下に、小さく〝同意する🔲〟の文字がある。
「あ、そういえば。勘違いしないでほしいんだけど、別にあなたがいいというわけではなくて、あなたしかいないというだけよ」
「おいおい、急にそんな。こっちが恥ずかしくなるからやめてくれよ」
「そうね」
意外とあっさり俺の言うことを聞いて、急に無口になるシェラ。静かなのはそれはそれで寂しいので、俺は一応訊いてみる。もう……誰でも見たら分かるようなことなのだが。
「この〝同意する🔲〟のところに✔を入れればいいんだよな?」
念には念を。最終確認だ。
……と言うことにしておこう。
「……たぶんね。私も初めてだからよくわからない」
…………そうか、そうだよな。なんかシェラは勝手に全部知ってるお姉さんみたいな感じになってたけど、結婚するのはシェラも初めてなんだよな。
……そうか。結婚かあ……。緊張するな……。もしかしたら、シェラも同じなのかな……。
胸が高鳴る。俺の心臓はいつもより明らかに早く脈打って、俺をどんどん焦らせる。
この胸のドキドキは、緊張だけじゃなくて、シェラの甘い匂いに酔ってるのもあるのかもしれないが。
「よし……本当に合ってるんだよな?」
「何を言ってるの? ほかに何も書いていないじゃない。記載されているべき事項が無駄なく記載されたこの紙を見て、まだ何か分からないことがあるというの? 下等生物の中でもあなたの知能レベルも最低ね」
あんたの人間に対する価値観も最低ね!
……おっと。可愛い子だったから言うのを我慢できたけど、可愛くなかったら我慢できなかった! 俺は少し俯いて、別の言葉を返す。
「ちょっと不安になっただけだよ」
「そうだと思ったわ。下等生物は下等生物らしく怖気づきなさい。そしてあなたが怯えながら神聖なその紙に ✔ を入れたならば、私とあなたは永遠に結ばれることになるわ」
「ちょいちょい、ずっと気になってたんだが、なんか途中から態度が変わってないか? さっきの熱烈な愛の告白はなんだったんだよ」
「なっ……あれも仕方なくやっただけだしっ!」
お、何時間かぶりに顔を赤らめた死神ちゃんが……ああ、美しい。……可愛い。可愛すぎる。
「そ、そんなことより早く ✔ をね……」
「あ〰〰もう、これでいいんだろ!」
殴り書きのように乱暴に ✔ を書き入れる俺。考えたところで何も変わらないしな。
――そんなこんなで、無事に(?)俺たちの婚姻届は授与された。
『死町シェラ』と『俵山ミツル』。突然出会い、突然惹かれ合った二人が今、結ばれたのだ。この出会いは偶然なのか、奇跡なのか、それとも運命なのか。そんな事は誰にも――もちろん俺にもわからない。ただ――
「シェラが可愛いってことだけは、誰にも文句を言わせねえ!」
心の中で、そんな言葉を胸に誓う俺だった。
DEADLY LOVERS 星色輝吏っ💤 @yuumupt
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