いたちごっこに、終止符を。

@r_417

いたちごっこに、終止符を。

***


 アナタに出会うことを夢見ていたのに、出会うのは痕跡ばかり。


***


「はぁ……。もう嫌だあ、三歳差なんて」


 中学校も高校も!

 せっかく大好きな優くんと同じ学校に進学することが出来たとしても、絶対に会うことが出来ない悲劇の巡り合わせ!!


「じゃあさ。マキは優くんがダブってたら満足なわけ?」

「んー、そもそも馬鹿な優くんを想像することが出来ないんだけど……」

「じゃあ、喜びなよ。無事に卒業できた事実を」


 パコーンと、ハリセンの要領で勢いよくノートを振り下ろす幼馴染・エリの容赦ないツッコミは日常茶飯。それにしても今日はいつも以上にキレがいい。そんなことを思いつつ、ただただ優くんと会えない寂しさをボヤき続ける。


「ううう……。どんなに頑張っても遺跡巡り状態なんて、悲しすぎるー」

「言うに事欠いて文化財クラスの月日の重みを足すなんて、相変わらずエグいわねえ」

「だってー」


 グズグズとぐずりまくりの私に向けて、エリは真面目な面持ちで向き直る。


「アンタさあ。そもそも贅沢な悩みって、全く気が付いてないの?」

「え? 贅沢?」

「そっ、贅沢」


 キョトンとする私に向けて、エリは呆れた顔をして、語り続ける。


「考えてみなよ。ユキの好きな人は男子校なんだよ? 同じ学校で学ぶことさえ出来ないんだよ? マキの言う『遺跡巡り』さえ夢のまた夢なんだよ?」

「……」


 ユキはエリと共通の友だち。

 一緒の塾で切磋琢磨してきた戦友であり、気心知れた友でもあるのだ。ユキの好きな人のことはよく知っている。


「更に言うと、優くんの進路は大学なわけで。マキが頑張りさえすれば、大学の一年間は夢が叶う可能性もあるわけで」

「あるのかな、可能性……」

「そりゃあ、あるんじゃない? 優くんと同じ進路を選び続けて、同じようにしっかり勉強すれば」


 なんだか漠然と、優くんの合格する大学=手の届かない場所のイメージがあったけど……。


「……そっかあ」


 優くんと同じ結果を出すには、同じ環境に身を置くことは絶対にプラスに違いない。そんな単純なことも見えなくなってた。


「私、頑張るよ!」

「あー、はいはい。頑張ってー」


 メラメラ燃える私とは裏腹にエリは投げやりな言葉を返してくる。


「ったく。中学校、高校とも身の丈以上の学校に進学して抜群の成績を修めた実態がただの恋愛馬鹿なんて、本当馬鹿みたいな事実だわ」


 ぶつぶつ呟くエリの声なんて聞こえない。出会いと別れのない三年後の春を夢見て、早くも大学入試へ向けて火蓋が切られたのだった。



【Fin.】

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