第463話 ジウバルトの相談(前編)


---ラサミス視点---



 12月16日。

 オレは毎日平穏な日々を送っていたが、

 今日の授業の後にジウバルトに声を掛けられた。


「ラサミス……教官、少し時間良いですか?」


「ああ、どうかしたか?」


「……ここじゃアレなんで放課後に時間を頂けませんか?」


「ん? 何か悩みでもあるのか?」


「ええ、まあちょっと……」


 コイツが悩みあるとはねえ。

 まあコイツもまだ十二、十三歳の子供。

 そりゃ悩みの一つや二つはあるか。


「わかった、じゃあ放課後に礼拝堂チャペル内の談話室に来いよ」


「はい、それでは失礼します……」


 ジウバルトはそう言って、軽く頭を下げて踵を返した。

 まあオレも教官の端くれだからな。

 だから生徒の悩みの一つくらいは聞いてやるさ。



 そして放課後。

 オレは学園内にある礼拝堂チャペルへ向かった。

 リアーナ大学及びその付属校は各種族に門戸を開いている為、

 信教に関しては寛容的であった。


 まあこの礼拝堂チャペルは表向きは、

 ヒューマンの国境であるレディス教に準じた外装と内装であったが、

 礼拝堂チャペル内には他種族の神父やシスターの姿もちらほら見えた。


「あ、神父様。 少し談話室をお借りして宜しいですか?」


 オレは顔見知りのヒューマンの中年男性の神父にそう言った。


「ええ、構いませんよ。 ご自由にお使い下さい」


「ありがとうございます」


 これで場所は確保出来たな。

 でもジウバルトが談話室の場所を知らない可能性がある為、

 オレは礼拝堂チャペル内で奴が現れるのを待った。


 五分後、ジウバルトは中等部の制服姿で現れた。

 このリアーナ大学、その付属の中等部、高等部は

 基本的に生徒達に制服の着用を義務づけている。


 ここの制服は、男子が黒いブレザーのジャケット。

 その中に白いワイシャツを来て、

 下はチェック柄の薄緑色のスラックスという格好だ。


 女子の制服は男子同様に黒いブレザーのジャケット。

 白いブラウスの胸元に赤いリボン。 

 チェック柄の薄緑色のスカートというお洒落な感じだ。


 生徒の中には王族や貴族も居るのに対して、

 かなり無理して学費を納めている苦学生も居る。

 だから貧富の差を出さない為、制服の着用が義務化しているのだろう。


「……お待たせしました」


「あいよ、んじゃ談話室へ行こうぜ」


「はい……」


 この礼拝堂チャペルはかなり大きな建物で、

 内装はミサや結婚式などで使用するホール。

 懺悔室、そして幾つかの談話室もあった。


 オレとジウバルトはその一室である第一談話室に入った。

 なかなか広いな、円卓と黒革のソファ、

 そしていくつかの木製の椅子があった。

 とりあえずオレはどっかりと黒革のソファに腰を下ろした。


「お前も座れよ」


「はい……」


 ジウバルトはそう言って、

 オレに向かう形で木製の椅子に座った。

 これで話しやすい雰囲気ができたな。

 んじゃとりあえずオレから話を振るか。


「それで話って何なんだ?」


「……実はオレのクラスで登校拒否して、

 寮に引き籠もった男子生徒が出ているんだ」


「登校拒否? でも寮には居るんだよな」


「ああ……じゃなくて、はい」


「一対一の時は無理に敬語を使わなくていいぞ。

 お互い知らない仲じゃねえんだしな」


「そう、んじゃ遠慮なくそうさせてもらうよ」


 本当に遠慮ないな。

 まあでもある意味コイツらしいな。


「オレは週に六,七コマくらいしか授業を

 受け持ってないから、生徒全員の顔は分からないけど、

 その登校拒否の生徒はオレの知っている生徒か?」


「ああ、多分知っているよ。

 ほら、オレのクラスに三人組、というか三匹の猫族ニャーマンが居るだろ?

 あの茶色のマンチカンさ」


「ああ、アイツか~、なんかアイツの顔に、

 というか風貌に見覚えがあるんだよなあ」


「そりゃそうだろうさ。

 アイツの父親は猫族ニャーマンの王族の第二王子らしいよ」


「第二王子? もしかしてマリウス王子の息子か!」


「ああ、アイツ……マリネルがよく父親の自慢をしてたよ」


「マジかよ? んじゃお供のメインクーン二匹も?」


「ああ、第二王子の側近二匹の子供らしいよ」


「……成る程、どおりで見覚えがある筈だ」


 あの二匹……確かジョニーとガルバンだったな。

 あいつらもマリウス王子にも既に子供が居たのか。

 猫族ニャーマンに先を超されるとは……。

 なんかちょっと悔しい。


「そうか、あの三匹は所謂、この学園のVIP(ヴィップ)なんだな。

 でもそんな奴がどうして登校拒否なんかしてるんだ?」


 するとジウバルトの少し辛そうな表情を見せて答えた。


「まあその原因の一つにオレ、それとアンタが関与しているんだ」


「そうか、お前か。 ってなんでオレが関係あるんだぁ?」


「だからそれをこれから説明するよ」


「ああ、端的に頼むぜ」


「ああ……」


 ジウバルトの話を端的にまとめるとこうだ。

 まあオレが見ていた範囲でもそうだったが、

 半人半魔のジウバルトは入学後からクラスでも孤立してたらしい。


 同様に何人かは半人半魔の生徒が何人か居たから、

 完全孤立というわけじゃなかったが、

 慣れない集団生活でジウバルトは孤立するという選択肢を選んだ。


 まああの一年A組には、

 オレが知っている範囲でも魔族の魔貴族やエルフ族や竜人族のVIP(ヴィップ)。

 ヒューマンや猫族ニャーマンの王族と貴族も在籍してるからな。


 そんな感じで入学当初から自然と学内カーストが出来上がってたようだ。

 まあジウバルトはそんな状態でも、

 独りで学業や魔術、体術の訓練に精を出してたとの話。


 だがそんな孤立気味のジウバルトに構っていたのが、

 あの猫族ニャーマントリオらしい。


「何だ? それでなんか馬鹿にされたのか?」


 オレの問いにジウバルトは小さく首を左右に振った。


「いや彼奴あいつら、ウザいけど悪い奴等じゃないんだよ。

 多分、猫族ニャーマン特有の無邪気さでオレに構っていたんだろう。

 だからオレも奴等とは最低限の言葉を交わしてたよ。 ただ……」


「ただ? どうしたんだよ?」


「そんな猫族ニャーマントリオを、他の連中が影で笑ってたのさ。

 何というか彼奴らの精神年齢って幼児クラスなんだよ。

 何でも大きな声を出して、何に対しても好奇心を示す。

 オレはウザいとは思ったけど、我慢できない程じゃなかった。

 でもさ、他の種族――特にエルフの連中があのトリオの事を嗤ってたよ」


「エルフの連中?」


「ほら? あの金髪の可愛い女子が居るだろ?

 あ、あんたの知り合いじゃないよ?

 確かエルフ族の次世代の巫女候補とかの……」


「ああ~、あの子かあ。 彼女もエルフ族のVIP(ヴィップ)だよな。

 成る程、悪い子には見えないけど、結構高慢な感じなのか?」


「ああ、かなり高慢で自信家だね。

 正直言ってオレはあの女もその取り巻き連中も嫌いだよ」


 ……。

 まあ何となく分かる気がする。

 ウチのマリべーレはそうじゃないけど、

 エルフって基本的にナルシストで高慢だからなあ。


「ふうん、確かにそうなるとお前的には困るよね。

 だから「もうオレに構うな!」とか言っちゃった感じか?」


「いやオレからはそういう事は言ってないよ。

 ただある日、アイツが……マリネルがオレにこう言ったんだよ。

 『ねえ、ジウバルトくん。 普通の魔族と半人半魔って何が違うの?』

 ってな、この台詞にはオレも流石に閉口したよ」


「うわぁっ……流石にそれはねえわ」


「だろ? でも話はそれで終わりじゃないんだよ」


 ……。

 こりゃ思いの他、面倒臭い話になりそうだな。

 でも乗りかかった船だ、最後まで面倒みてやるさ。

 とりあえず少し場の空気を緩めるか。


「ちょっと喉渇いたな、お前も何か飲むか?」


「ああ、じゃあお言葉に甘えるよ」


「うっし、んじゃ少し席を外すぜ」


 そしてオレは談話室を出て、

 礼拝堂チャペル内の神父に断りを入れて、

 珈琲を二つのコーヒーカップに入れた。

 そしてそのままお盆に乗せたまま、談話室へ戻った。

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